ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2006.10.10]
 金木犀の甘い香りに誘われて、表に出ると秋色が光の中に輝いていて、なんだか時間が過ぎて行くのがもったいないようなシーズンです。素敵なダンスに遇うと、やはり時の経過にブレーキをかけたくなります。でも、間違ってアクセルを踏まないように。

今月、元気だったコンテンポラリー・ダンスから

 今月も様々なコンテンポラリー・ダンスが上演された。
森山開次『KATANA』
まずは、最近、コンテンポラリー・ダンスに大胆に<和のセンス>を映して、各方面から注目を集めている、森山開次のソロ『KATANA』。05年に ニューヨークで発表した作品の完全版である。現実音を使った音楽は種子田郷。小宮求茜の書が冒頭を飾り、津村禮次郎の謡も響いた。
森山の衣裳は白いシャツとパンツだが、素材の感触や貌にはやはり「和」を想わせる雰囲気がある。空気を鋭く切り裂き、飛翔し跳ねる、変幻する動きには、 独特の柔軟性があり、知らず知らずのうちに魅了される。終盤のクライマックスには、紅い椿の花弁や花のままを天から降らせる。冒頭の書の墨の記憶と鮮烈な 色彩が、微かな血の匂いを客席にまで流した。そして純白の雪が舞台に乱舞し、森羅万象を浄め、ダンスは終焉する。
なかなか見事な美しい舞台だった。動きが少々単調に陥った時間が無い訳では無いが、ソロ作品でこれだけの時間をみせ、鮮烈な印象を与える力量には感心させられる。独特の柔軟性とシャープな切れのある身体を生かして、さらに大きな舞台を創ってもらいたいと思った。
(9月3日、スパイラルホール)

コンドルズ『ELDORADO』
 日本縦断黄金郷ツアー2006を展開しているコンドルズも元気。日本を代表する元気といってもいい。演し物は『ELDORADO』、<ニュー・ベスト・オブ・コンドルズ>ということで、現在のコンドルズ・パフォーマンスの集大成ともいうべき舞台である。
抱腹爆笑したのは、3年Y組のミュージカルだった。オタク少年や先生の描写が、実に実に卓抜している。ネクタイ鉢巻きなどを駆使し、今日の日本人の生態 を活写して、ニューヨ-カーを笑いの坩堝に投げ込んで悶絶させた、というかつてのニューヨーク公演のあのセンス、あの描写力である。これを観るだけで、知 らざる自分の姿を眺め、心の深奥から元気がふつふつと湧いてくる人もいるだろう。もしも元気療法という処方箋があれば、コンドルズの舞台を観るに如くはな い。
 ところところで挿入されるアニメーションや人形劇は、ロックの合間になかなかいい味わいを出している。近藤良 平のソロは絶妙だし、ビッグウエンズディものも工夫の後があって良かった。メンバーもそれぞれが自分のキャラクターをしっかり把握し、上手く個性を出して いる。ヨーロッパ・ツアーも決定したと聞く。
コンドルズはまさに本日黄金時代。
(9月1日、シアターアプル)

ROUSSEWALTZ『Presents ! 』
 内田香が率いるROUSSEWALTZが新作『Presents ! 』を上演した。
オープニングではヒールを投げたりする内田流の女性のこだわりをみせた。そして恋人へのプレゼント、誕生日のプレゼントなどをクラッカーを鳴らしたりし て、セレモニー的なプレゼントの交換やパーティなど中にを描いた。しかし、フォーマルな衣裳を表す、長いリボンを捨て去り、男性も女性も黒いスーツを着け て登場すると、一転して激しいダンス。舞台で踊られている様子をそのままリアルタイムで、背景のスクリーンにグレイの淡いトーンで映してシックな効果をあ げた。
 第2部は、黒い世界だった第1部とは打って変わって純白。内田のゆっくりした動きのソロ。女性は白い背中の大きく開いたキャミソールのワンピースを着け、男性は上半身裸で白いパンツで踊る。第1部とは対照的に、女性の内面をイメージした表現である。
そして終曲は全員で踊る「ボレロ」だった。感情と心が融合した新しい女性の誕生を歌うような踊りである。この曲の振付は、あまりフォーメーションにはこ だわらず、じつに良く音を拾って濃やかな動きを創っている。流れもスムーズで魅力的な振付である。ただ、作品全体を振り返ってみると、やや創り過ぎかな、 とも感じられた。
最後に、観客へのプレゼントを忘れなかったことは立派というほかない。
(9月29日、目黒パーシモン・ホール)



DANCE EXHIBITION 2006
新国立劇場のダンスプラネット No21 としてDANCE EXHIBITION 2006が行われ、Aプロ・Bプロ合わせて10作品が上演された。
私の関心をひいた作品について述べさせていただくと、Aプロに参加した韓国の男性デュオ『Crush』は、韓国芸術総合学校大学院在学中で、東亜舞踊コ ンクール現代舞踊「金賞」を受賞しているキム・パンソンの演出・振付である。彼はラ・ラ・ラ・ヒューマンステップスのワークショップにも参加しているとい う。舞台奥に三本脚の不安定な机が置かれていてる。エレキギターを持ったダンサーと、電源コードを持ってそれを遠隔操作するダンサー。そんな設定で、気持 ちが不安定にゆらいでなかなかシンクロしないもどかしさから、クラッシュしていく。



Aプロ『Crush』

Bプロ『no-side』

Bプロに、中国のやはり男性デュオが参加していた。こちらは、国立北京舞踊学院に学び、世界バレエ&モダンダンスコンクール・モダンダンス部門で金メダ ルを受賞した高頂(TAKANE)の振付けた『no-side』。道路によく置かれている赤い円筒の先の尖ったの交通標識で、四角いリングを作り、その中 でお互いにソロを踊り合う。柔軟で素早く、アクロバティックな要素も盛り込んだ動きで、ショー的にみせていく舞台だった。韓国組は、祖国が分裂し融和でき ない現状を内面に映しているように見えた。一方、高度成長真っ最中の中国組は、そうした苦悩を背負っておらず、現実的な舞台製作のみを考えているかのよう に見え、たいへん興味深かった。
  Aプロでは他に、川野眞子脚本・振付の『さーかす』がおもしろかった。桜吹雪の幸子(川野眞子)、一郎(中川賢)、団長(中村しんじ)、フジオさん(ラビ リオ土屋)、犬(住吉甚一郎)、見世物の太夫(白井幸子)などのキャラクターたちが、星影のサーカス団とともに生きていく有り様を描く。テレビの初放送が あったり、「ああ、インターナショナル…」が高らかに歌われたり、戦後の風俗の変遷の中を、大海に揉まれる木の葉のようにサーカス団とその周辺の人々は踊 る。その流れを、サーカスのテントが舞台上に舞って、テント小屋はもちろん、波になったり、灯りになったり、千変万化の機能を果たす。ロマンのイメージを 喚起する見事な美術で、これは宇野萬が創った。芸達者なダンサーたちに混じって、若い中川賢が個性を感じさせるダンスを見せ印象に残った。

Aプロ『さーかす』


Bプロ『ケース』
  中川は、Bプロで平山素子構成・演出・振付で彼自身も振付に加わった『Butterfly』も踊った。戯れる二羽の蝶の短い命の生と死を思わせるダンス。 非常に速い動きや静止、スローな動きなどのコンビネーションを、単調なリズムだけを刻むサウンドやピアノのソロで踊る。舞い上がり舞い降りる動きの緩急に 見応えがある巧みな振付である。ジムナスティックな感じもするが優れた表現力のある平山は、要所で彫像のように決める技を見せた。中川も優れた運動神経を 具えた素晴らしい動きだった。
やはりBプロに登場した新上裕也の『ケース』もおもしろい。デパートのショーケースの中の幻想、といった趣きのダンスだった。照明は、展示物を照らす蛍 光灯のみ。このチラチラする灯りの迷宮の中で、解放できる場所を求めて彷徨う幻想の中の自分を描いている。やはり、裕也のダンスはじつに魅惑的だった。

ほかには中野真紀子振付による『Chopiniana』。長いチュチュと背中にはうすい羽を着けた裸足の5名の女性ダンサーが踊る。クラシックの動きの 中に痙攣のような瞬間的な動きがしだいに増えてゆき、ついには羽も落ち、身体は皮膚の中の血脈の形が浮かび上がり、「肉に刻み込まれた感情の揺さぶりに震 える細胞」となる。
ロマンティック・バレエに描かれた女性とその実体の「女という存在」のコントラストを描いたダンスだった。また、湊斐美子が振付け、自身が踊ったソロ『人形』は、少女趣味的な残酷さと奇妙さを浮かび上がらせる動きで踊った。吉田良の人形イメージを想起させるダンスだった。
(Aプロ9月15日、Bプロ19日、新国立劇場)



Bプロ『Chopiniana』

Bプロ『人形』