ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2006.10.10]

[気配の探究]シリーズ最終章『森の祝祭』

 東京・井の頭公園の森そのものを舞台にするという実験的な国際共同制作ダンス・プロジェクト、[気配の探究]シリーズが、4回目の今年で最終章を迎え た。うっそうと生い茂る木立に囲まれた空間、樹木や大地から放たれる独特の香り、あらゆる存在を飲み込んでいく夕闇、耳に痛いほど響く虫の声--。悠遠な 自然を舞台に、自然が提供してくれる“演出”を生かしてのパフォーマンスである。演じたのは、夏の「ダンス白州2006」に参加した、ロシアやギリシャを 含む多国籍のダンサーと桃花村のダンサーたちで、白州でこの『森の祝祭』の準備をしたという。全体の構成・演出は、これまで同様、田中泯である。
パフォーマンスは、面をかぶり、赤い着物に帯を締めて現われた女の長いソロで始まった。クーリヤッタムという南インドの古典舞踊劇の名女優、カピラであ る。ほの暗い照明の中で、頭を傾げ、全身を律動的にぴくつかせ、長い指を広げたり折り曲げたりして多彩な表情を伝えた。やがて面を取り、身軽な黒装束に なって踊り続けたが、見開いた目の表現も豊かで、存在感があり、大地の精を体現しているようにも見えた。
それからは、断片な的シーンが、時に交錯しながら連ねられた。中腰でポーズを保ちながら、ゆっくりと進む女たち。木の枝の銃をかつぎ、獲物のうさぎを腰に ぶらさげ、ライトで照らしながら行進する狩猟隊の男たち--後に、彼らは制服を脱ぎ、ケチャップやマヨネーズなどの調味料を体に塗りたくり、声を挙げて後 方のテントへ駆け込んだ。また、樹上から下り立ち、辺りを祓うようにソロを踊る上半身裸の男。すべては脈絡なく展開する。田中は、大地に掘った穴の中で、 時には首だけ出して地上の出来事を観察し、時には大地を枕に仰向けで目を閉じているといった具合。終わり近くに、やっと穴から出た田中は、抑えた動きで体 を揺らした。その姿は、天と地を気で結ぶようにも見えた。
この[気配の探究]シリーズ、井の頭の森の使い勝手をつかんだようで、公演としても定着してきたところ。自然という劇場には予測し難い魅力があることも実感させてくれた。それだけに、これで終わらせてはもったいない気がした。
(9月7日、井の頭公園)