ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2006.09.10]

哀しきゴシック・ロマン『エドワード・シザーハンズ』

 天才発明家によって造られたのだが、未完成のままこの世に存在してしまった少年。ハサミを手にもつ孤独なエドワードのゴシック風に塗りこめられた物語である。
空気のように誰にでも備わっている手が、もしも鋭いハサミだったら! 親しさを示し、愛を訴えると、たちまち善意に満ちた相手を傷つけてしまう。愛そうと愛されようと努めれば努めるほどハサミは、さらに自分自身の心を次々と容赦なく突き刺す。

郊外のごく普通の家庭、ボッグズ家のキムを愛したエドワード・シザーハンズ。彼は得意技のスピード剪定で、様々な空想の動物たちを描き、キムを庭に誘 う。この素晴らしいファンタスティックなプレゼントの中で、キムとエドワードは踊る。エドワードの夢は広がり、彼の手からハサミが消える。ああ、人間とし て踊ることはなんと素敵なことなのか!

しかしクリスマス・パーティでは、エドワードは酒を飲まされ酔っぱらい、人を傷つける。そして仲間から徹底的にパッシングされる。キムがエドワードを愛 し始めているのに気づいた彼女の恋人が、さらに虐める。エドワードはみんなから追い立てられ、詰めよられて万事休す。ついに彼は一丁のハサミに戻ってし まった。哀しきハサミ。そして、そのハサミに頬ずりするのは、今はもう老いたこの物語の語り手、キムおばあさんだった。
すると舞台にエドワード・シザーハンズが現れ、舞台に客席に、さんさんと雪が舞い乱れる。雪は彼が万感の想いを込めて切り刻んだ木々の葉の粉、ファンタ ジーを創造したカンナくずである。愛すれば愛するほど自分と相手を傷つけてしまう、非在の証明でしか愛することができなかったシザーハンズの涙の結晶であ る。

観客はこの見事なエピローグに酔い、ほぼ全員がスタンディングオベーションで、この物語に共感したことを強く表した。
ティム・バートンの映画のオリジナル・ストーリーに基づいて、マシュー・ボーンが演出・振付けた舞台。音楽のテリー・ディヴィス、美術のレズ・ブラザー ストーンなど、いつものマシュー・ボーン一家のスタッフが参加している。B級映画のゴシック調と60年代風のホームドラマを、上手く融合させた、マ シュー・ボーンの才気が鮮やかなエンタテインメントである。
(8月17日、ゆうぽうと簡易保険ホール)


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