ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2006.09.10]

第11回世界バレエフェスティバル

 3年に一度の華麗なバレエの祭典。卓越したテクニックと表現力は必須で、その上に華やぎや際立った個性も求められるから、ダンサーは大変だ。今回は名門 バレエ団のスターを始め、キューバやカナダ、米国・コロラドのバレエ団からも参加。初登場の16人を含む34人が出演した。3種のプログラムのうち、Aプ ロとガラを観た。盛り沢山すぎて、とても全部に触れられないが、4部構成という公演の流れに沿ってレポートしたい。

[プログラムA]
  幕開けは、L・ダンとM・ローレンスの『ラ・ファヴォリータ』。古典的スタイルによるおおらかな作品で、無難な滑り出し。N・ル・リッシュは彼のために創 られた『7月3日 新しい日、新しい人生』を世界初演。ピアノの調べや「Happy Birthday…」の歌に乗せ、空へ跳び、回転しと、様々に切り結んだが、未来よりは過去の軌跡を思わせた。T・ロホとI・ウルレザーガの『白雪姫』で は、ロホがポアントの妙技や3回転を入れたフェッテをやすやすと披露。J・ブーローニュとA・リアブコは、『椿姫』(第3幕)で、形を変えてのリフトや絡 み合いを重ね、抑えきれない激情を鮮烈に表出して第1部を締めた。

第2部で、『ロミオとジュリエット』(クランコ版)のP・セミオノワとF・フォーゲルと、『オネーギン』(第1幕)のA・コジョカルとF・バランキエ ヴィッチが、それぞれの愛の高揚を豊かにうたいあげた。特にコジョカルのたおやかな表現が印象に残る。『ジュエルズ』では、A・ルテステュの優雅な腕の動 きやJ・マルティネスの美しい脚が目を奪う。二人が連ねた端正なステップは、正にダイヤモンドの輝きだった。I・ドヴォロヴェンコとJ・カレーニョは、“ 黒鳥のパ・ド・ドゥ”で華やかな技を美しくこなして盛り上げた。


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第3部はキリアンがA・デュポンとM・ルグリのために創作した『扉は必ず…』で始まった。フラゴナールの絵画「閂」に着想を得たそうで、扉を開けた寝室 で、ドレスの女と粗末な成りの男が、床に座り、体を滑らせ、ベッドに寝転び、緩慢なやりとりを受け渡す。心の内を探り合うような二人の姿からは、奇妙な可 笑しみが漂ってきた。『ライモンダ』では、A・メルクーリエフと組んだG・ステパネンコが、確固とした演技で貫禄を示し、A・コジョカルとJ・コボーは 『春の声』を、快活に、明るく楽しく舞った。 

第4部。『カルメン』で、A・フェリは細かな脚の演技でホセのR・テューズリーを魅了。S・ギエムの『TWO』は、限定された振りで強靭なパワーを発 揮。だが特殊照明に触れた腕などが描く動きの軌跡は今一つだった。『ベジャールさんとの出会い』は、ベジャールがG・ロマンのために、初期の4作品のモ チーフをつないだものだが、少々、散漫な感触。『マノン』“沼地のパ・ド・ドゥ”で、D・ヴィシニョーワとV・マラーホフが一体となって見せた、流れるよ うな演技には息を飲んだ。トリは『ドン・キホーテ』。R・フロメタが片手で軽々とV・ヴァルデスをリフトし、鋭い跳躍や回転技を決めれば、ヴァルデスは驚 異的なバランスや4回転を入れたフェッテを披露。会場は沸きに沸いた。こうして19作品から成る4時間半におよんだ公演は終わった。
(8月4日、東京文化会館)


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[ガラ公演]
 1回だけのガラは、“おまけ”が付くこともあり、祝祭的雰囲気で満ちていた。こちらは全18演目。現代作品が優勢のAプロと異なり、古典と現代が仲良く半分ずつ並んでいた。
幕開けの『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』で、L・オリヴェイラとZ・コンヴァリーナがソコソコの出来に思えたのは、かつて見たギエムの完璧な演技が目 に浮かんでしまうからか。E・ピアフの歌にのせた『水に流して』で、ルテステュとマルティネスが現代の男女をこのように洒脱に演じ踊るとは、“発見”だっ た。ステパネンコとメルクーリエフはAプロと同じ『ライモンダ』。さすが威厳に満ちていたが、違う作品で見たかった。『レ・ブルジョワ』でバランキエ ヴィッチが演じたのは、自信をなくした男か。よろめき、タバコをくわえるなど、さり気なく見せた素振りの中に、笑いを誘う不思議な魔力があった。

第2部は『眠れる森の美女』で始まった。マラーホフの柔らかい足さばきや、至れり尽せりのパートナーシップに感心した。『作品100--モーリスのため に』は、ノイマイヤーが盟友ベジャールの70歳記念に創った男性デュオ。リアブコとI・ウルバンが相手に飛び乗り、抱え込み、同じ振りをフォローし、同化 していく様は、刺激し合う振付家たちの絆を象徴するのだろうか。サイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」が効いていた。ドヴォロヴェンコとカレー ニョの『くるみ割り人形』、ロホとウルレザーガの『エスメラルダ』は、鮮やかな跳躍や回転技の応酬。特にロホはバランスやフェッテで存在を主張した。

第3部、『白鳥の湖』(第2幕)でのギエムは、白いチュチュで現われただけで崇高さを具現したよう。繊細な足さばきや優雅な腕の動きに、心のおののきを しっとりと滲ませ、感銘を与えた。セミオノワとフォーゲルが世界初演した『些細なこと』は、律動的な音楽に反応するように、きびきびとした動きで絡み合 い、男女の機微を伝えて、楽しませた。二人の新たな持ち味を発見できた。『スターズ・アンド・ストライプス』のコジョカルとコボーは、実に丁寧に、溌剌と 踊る。若さがはじけるようなステージだった。“黒鳥のパ・ド・ドゥ”では、ヴァルデスとフロメタが、ここでも超人的な回転技や跳躍で目を奪ったが、オ ディールと王子それぞれの心の内を伝える演技も忘れなかった。

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第4部。デュポンは脚の故障のため、ルグリとの演目を『椿姫』(第2幕)に変更。2人の情感をこめた踊りは、熱くて、切ない。ロマンの『アダージェット』 は、求めても得られない孤独な男の哀感を、体の内から陰影深く表出して余韻を残した。『ロミオとジュリエット』(マクミラン版)で、フェリは恥じらいや恋 の高まりを初々しく演じ、テューズリーも心の高揚を勢いの良いジャンプやピルエットで伝えた。フェリは、このフェスティバルに出るのはこれが最後と発表し た後だけに、今までの名演がダブった。トリは定番の『ドン・キホーテ』。大役を務めたのはダンとローレンス。素晴らしいテクニックの持ち主だが、個性の輝 きは今一つ。つわもの揃いの中にあっては、正直、物足りなく感じてしまった。

この後、無礼講の“ファニー・ガラ”が続いたが、男性ダンサーのトウシューズへの羨望を、改めて見た思いがした。マラーホフはたおやかさと威勢良さを混ぜ 合わせたジュリエットを、フォーゲルは逞しい黒鳥を、フロメタはコケッティシュなエスメラルダを、カレーニョはなよやかなカルメンを“怪演”し、女装から ズボンに戻ったマルティネスは、携帯に出て中断するという一幕も挿入して、お国のスパニッシュダンスで楽しませた。女性ではヴァルデスがバジル役で驚異の ピルエットを披露して気を吐いた。ファニー・ガラを含めえると、何と5時間半を超える長丁場ではあった。
(8月13日、東京文化会館)

世代交替が進むバレエ界にあって、紹介したいダンサーは数多くいるだろうが、今回の参加者数とその力量を思うと、このフェスティバルのレベルに合わせて、 もう少し精選しても良いように感じた。また、Aプロ、ガラのそれぞれで、一組のペアだけ2度登場させたのは、彼らの舞台の内容からみても、疑問に思った。 それにしても、30年の歴史を刻んだ世界バレエフェスティバル。バレエファンだけでなく、ダンサーたちも楽しみにしている公演として貴重な祭典。末永く継 続して欲しいと思う。


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