ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2006.07.10]

藤井公・利子『観覧車』、笠井叡『冬の旅』

 藤井公・利子が東京創作舞踊団を結成したのは1961年。その以前の小森舞踊団を後継した時代を含めて、<藤井公・利子の現在>を『観覧車』という作品 にまとめた。いわば、<生きるDANCE半世紀>を<老いと青春 移りゆく季節と追想の対話>で綴った舞台だろう。
プロローグと8章に分けた構成で、柳下規夫、五井輝、加藤みや子、本間祥公、小黒美樹子、高野尚美、藤井香ほかの錚々たるメンバーが踊った。「悠遠な時 の中に」や「愛しい人々」といった希望の時代から、「破壊への足音」の危機感、「深い青い空」「悔恨」「風魂」「落日」に至る存在のコアに迫る姿、そして 「野糞先生」の明るく突き抜けた現実まで、二人の人生の沿革を辿った、独特のスケールの大きさを感じさせるダンスであった。
(6月5日、東京芸術劇場中ホール)

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笠井叡の『冬の旅』は、フランツ・シューベルトの有名な歌曲集に寄せる、とただし書きを付し、<ロマンティック・ダンス>という言葉も加えられている。 しかしもちろん、「…それは骨の随に横たわっている、石炭のように燃える鉱物ロマンであり、一切の人間的な情念を拒絶している、金属を結晶させるようなエ ネルギー」という意味で使われている<ロマンティック・ダンス>である。
舞台は薄いベージュの床、同じ色の衣裳を着けた5人の女性ダンサー(全員二世ダンサーだそうだ)が踊る。セットは舞台奥に、剥き出しのバスタブとシャ ワーが1本立っているだけである。シャワー口からは一筋の水が間断なく落ちていたり、止まったり、かと思うとシャワーから吹き出してバスタブに降り注ぐ。 この無機質なオブジェと水流の不規則な間隔が、自然の有り様というか人間の心の外の情景を巧まずして象徴しており、たいへん感心した。
そしてそれはまた、ダンサーの作る人間の身体の動きのリズムと絶妙のコントラストを描いていて感銘を受けた。くどいようだが、この意外なオブジェを使っ た簡明なセットが、シューベルトの『冬の旅』の世界をこのように見事に象徴すると想像できなかった。望外な歓びを感じた舞台であった。
(6月17日、セッションハウス)


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