ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2006.07.10]

金森穣『sense-datum』、前田清実『きらめく背骨』

 金森穣の『sense-datum』を静岡県舞台芸術公園の楕円堂で観ることができた。
この作品では、サルトルの良く知られた小説『嘔吐』の一節をナレーションとして使い、Noism06のダンサーが「ウッ」とか「オッ」「ワアッ」などと いった生理的な音声を発しながら踊る。暗い舞台に青いスポットがいくつか当てられ、そこを中心にしてダンスが始まる。動きが交錯し、混沌としたダンスが展 開される。楕円堂の背後が開きまばゆい自然光が射し込み、ダンサーの出入りが繰り返される。
プラチナブロンドのかつらを着けたり、取り除けたりする動きがあり、次第に男性と女性の性差が希薄になり、やがて観客にもどちらか不明になる。
 金森によると、髪の毛は変化するものでありかつ自分ではコントロールできないし、性差をも表すもの、とのことだった。
『sense-datum』は、言葉や記憶を媒介としない「あるがままの身体」そのものを、ダンスを通して改めて捉え直そうという試みである。スタジオというダンサーの存在を証明する場所を追究していく過程で生れた作品といえるだろう。
(6月24日、楕円堂)

※画像をクリックすると拡大写真がご覧になれます。

「背骨が見えない世の中になってきた」という想いが、『きらめく背骨』を演出・振付けた前田清実にはあった。そこから、彼女とほぼ同じ年齢の東京タワーに現実の背骨を仮託した作品を発想したのだろうか。
舞台中央に4脚の鉄パイプの塔が設置され、途中には周囲を見晴らす観覧所がある。塔の真下には穴が穿たれている。
  まずは、若井田久美子が塔の最上部から白い布を使った、鮮烈なエアリアル・ダンスを披露し、観客を魅了した。そして塔を巡って様々な動きが繰り広げられ る。痙攣的な動きや祭りのようなリズムに乗った動き、カップルができたり孤独に踊り続けるものもいる。ヴァイオリンの強烈な演奏とヘリコプターや豪雨など の自然音、時折、甘いメロディーも流れた。こうした混沌が作者が観ている現実、ということなのだろうか。
あるいは自分の感覚に忠実に、その実感的なものを切りとって観客に提供しているかのようにも見えた。不協和な動きや激しい破壊的表現が悪いというわけではないが、ダンスシーンに説得力をもたせることに注意を向けたほうがいいのかもしれない。
(6月16日、新国立劇場小劇場)