ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2006.02.10]

新国立劇場の『白鳥の湖』と松山バレエ団の新『白鳥の湖』

 今年は1月に『白鳥の湖』を2本観た。新国立劇場バレエ団と松山バレエ団の公演である。
新国立劇場は、ジークフリート王子に家庭教師と道化がからむ、コンスタンチン・セルゲイエフ版でドゥジンスカヤが監修にあたっている。コール・ド・バレ エはよくそろっていて音楽的な響きも感じられる。演出も細部に神経が行き届いて考えられていてほころびがない。ただ、主役級やソリストクラスのダンサーた ちが失敗を恐れているのだろうか、もうひとつこころに訴えかけてくるものが弱いように感じられてならない。

道化は、もちろんしっかり踊っているのだが、この役は物語の展開をリードして王子の気持ちを観客に明らかにする役目があるはず。その点、もう少し激しく 舞台全体を先行していく意欲を見せてほしかった。小さい四羽の白鳥も教科書的にはしっかり踊っているが、もっとアッピールする気持ちを表してほしい。

新国立劇場バレエ団
※画像をクリックすると拡大写真がご覧になれます。


新国立劇場バレエ団
  オデット、オディールを踊った寺島ひろみは美しく、スタイルもよく踊りも破綻がない。ただあまり白鳥を連想させるような象徴的な動きは見られなかった。白 鳥の美しさにはデモーニッシュなものがあり、それがオディールの美しさにも深いところで映っている、ということもあると思われる。また、第2幕でジークフ リートを誘惑するオディールは、ロットバルトと組んで一世一代の勝負にでているのだから、そうした強い気持も込めて踊ってもらいたい、そう思うのだがいか がであろうか。

ジークフリート王子の貝川鐵夫もワガノワ留学時代の経験を生かして、しっかり踊っていた。ケレン味のないなかなか好感の持てるダンサーである。ただ、 踊っていない時、椅子などに座って控えていたり、周辺の人とさりげなく挨拶を交わす時なども当然、王侯貴族の振る舞いを要求される、そういうことにも気を 配っていただきたい、と思った。観る側の一方的な感想で申し訳ないけれども、もしも参考になれば誠に幸いである。
(1月8日、新国立劇場大劇場)

松山バレエ団の清水哲太郎の新『白鳥の湖』の演出、振付は、16世紀後半の未だ統一される以前のドイツを作品のバックグラウンドとして捉え、王侯貴族の 政治的な葛藤の中にロマンティックな物語を描いている。女王マリアが退任しジークフリートが戴冠して皇帝となる日、魔王のフォン・ロットバルトが陰謀を巡 らして、王子とオデットを恋に陥らせる。そしてその愛を裏切らせて国を滅ぼそう、という設定である。

  第3幕はジークフリートの荘重な戴冠の儀式から始まり、祝典ではロットバルトの軍団がデヴェルテスマンを踊って、ジークフリートはオディールに愛を誓って しまう。その瞬間、オデットが式典の会場に姿を見せる。ロットバルトの思惑通り、ジークフリートはオデットとの愛を裏切ってしまう。しかし、ジークフリー トの命を賭したオデットとの愛や、囚われの白鳥を解放しようとする強い正義感によって、ロットバルトの魔術は効力を失う。少々、仰々しいという印象はある が、筋の通った物語である。

森下洋子のオデット、オディールは申し分ない。表現するべきものがはっきりと気持ちの中に捉えられているので、演技にも踊りにも揺るぎない。プリマとして豊かなキャリアがあるので、バレエ全体を支える存在となっている。
むろん、チャイコフスキーの音楽を使っているが、変更されている部分も多いと思われる。物語の展開と音楽の関係をどこか論じてもらえると、さらに理解が深まるのではないだろうか。
(1月24日、NHKホール)

松山バレエ団
※画像をクリックすると拡大写真がご覧になれます。