ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2006.02.10]

桃花村舞踊公演『重力と愉快』

  舞踏の田中泯が率いる桃花村舞踊団が、『重力と愉快』と題した公演を行った。桃花村は、農業に従事しながら舞踊活動を行っている異色の団体。拠点とする山 梨県の白州が山あいに位置し、そのため、斜面で暮らしているという彼らの日常の環境が、平地より強く重力を意識させることから、これを作品のテーマにした という。『重力と愉快』は、〈ダンス白州2005〉で、盛り土の舞台で上演された作品だが、今回、劇場用に全面改訂された。

舞台の手前には、屋内を暗示するのか低い広い台が据えられ、左右両端から吊り下げられた白い縄が台の上を横切るよう、U字型にセットされている。舞台後 方には横に細長い台が置かれ、間の低い空間の下手寄りには一本の電柱が、上手寄りには枯れ木が立っている。この奥行きのある舞台を生かして、異なる場で異 なるシーンが並行して提示された。

奥の台を、少女と男の子を連れた女が、時々ころびながら上手から下手へと歩いていく。舞台の下では黒いコートの田中が時折、腕を大きく振リ回す。電柱の 脇に佇んでいた軍服姿の男は、柱に手をかけ、体を傾げて回り続け始めた。上手の壁際では帽子にコート、ズボン姿の女が傘を振り回し、飛び跳ねもする。ダン サーは入れ替わり、一風変わった振りやポーズを見せるが、互いの関連性は希薄で、その動きは時の流れを超えた観がある。

仰向けの田中が足を踏ん張って腰や背を浮かせたポーズを保持したり、金魚鉢を持ち込んだり、四つん這いで犬になり、執拗に吠えもした。魚を床に落とす女、 紙風船で遊ぶ子供たち、金魚を床の上に取り出して鉢に戻す少女、大口あけて対峙し、仁王立ちになり、背をのけぞらせ、白い縄を引き合ったりするダンサーた ち……。腰を落とし、ひざを曲げるなどの重心を地に近づけた振りや、床に倒れ込むといった行為が目立ったのは、重力との戯れなのだろう。不安定な姿勢で自 身の重みに耐え続ける姿は、大地を拠り所とした彼らの筋力と精神力の現れに思えた。どこからか、土の匂いが漂ってきそうな舞台だった。

だが、緩慢に移り変わる光景に意味を見出すのは難しい。最近の田中の作品に見られるように、幼いころの追憶が全体を覆っているようだ。合図のように田中が 銅鑼を叩く中、他の8人の出演者全員が、吊るされていた白い縄で、いつまでも縄跳びを続けようとする幕切れは、遊びの中にも、あきらめずに執着する心が感 じられて、余韻を残した。
(1月23日、新国立劇場小劇場)