ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2005.11.10]

●東京バレエ団『M』

 ベジャールが三島由紀夫を題材に東京バレエ団のために創作した『M』が、この作家の生誕80年と没後35年を記念して、同団により5年ぶりに上演された。 タイトルは、Mishimaのほかに、「m」で始まるフランス語の海、変容、死、神話も包括するそうだが、これらは三島の思想や美学、 その実践を描く上で欠かせない要素と解釈したのだろう。見るたびに、三島に対するベジャールの理解力、洞察力の深さに驚かされるばかりだ。

潮騒をバックに女性群舞が海という生の根源を表す冒頭は絵画的。 祖母に連れられた少年が「イチ、ニ、サン」と叫ぶと三人の三島の分身(高岸直樹、後藤晴雄、木村和夫)が現れ、「シ」で祖母が和服を脱いで四人目、 即ち「死」(古川和則)となる。この分身たちが『仮面の告白』『禁色』『鹿鳴館』『金閣寺』『憂国』などの作品世界を表出していくが、 幼い三島に影響を与えた祖母は「シ(死)」として、少年の、またドラマの導き手になる。

袴姿の射手が日本の文化や伝統を象徴するような厳かな作法で弓を引くと、三島が理想とした聖セバスチャン(大嶋正樹)が射られたポーズで現れる。 引き締まった肉体をさらし、新鮮なエロスを放出して踊る大嶋は、上方の円形鏡に映る像と相俟って陶酔感を誘った。 死を予感させる、もがくようなソロともども、鮮烈な印象を与えた。そして「楯の会」の男たちと桜吹雪の中での少年の自死が、己の美学に殉じた三島を悼むかのように美しく提示された。 少年から流れる血の帯が登場人物たちを繋ぐ様には輪廻が感じられ、冒頭の海の場面に戻る幕切れで、女たちが座して結ぶ様々な印には鎮魂がこめられているように思えた。 能を意識したという黛敏郎の音楽を始め、ドビュッシーやサティ、ワーグナーらの音楽を巧みに挿入していたが、特にオンド・マルトの不可思議な響きが効果的だった。

大嶋同様、「シ」という初役に臨んだ古川は怜悧に構え、シャープな身のこなしで舞台を引き締めた。初めて「海上の月」を踊った小出領子は、滑らかな動きで詩情を招き寄せた。 また、男性群舞の若返りを頼もしく感じもした。ベジャールの『ザ・カブキ』などと同様、『M』もまたバレエ団の貴重な財産となっていることを、改めて実感させる舞台だった。
(10月30日、ゆうぽうと簡易保険ホール)