ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2005.08.10]
 巷にはもう松茸が出回っているとか、中国産です! 確かに夏1番の台風襲来の後、一瞬、秋の気配を感じたような気がしないでもないですけども。 バレエ公演もタケナワ。ABTとエトワール・ガラが重なる日もあって、スケジュール調整に苦心された方も多かったかも知れません。 地、地震、驚きましたね。午後4時半ごろだったので、公演会場へ向かわれる途中の方も多かったのではないですか。 電車がほぼ全面的にストップしたので、開演時間をずらして対処した公演もありましたね。英国のテロもあり、なんか物騒ですが、素敵な舞台は、余裕を持ってゆっくりと楽しみたいものです。

●ボッカ、コレーラが会場を沸かしたABT公演

 アメリカン・バレエ・シアター(ABT)が来日し、「オールスター・ガラ」『ライモンダ』『ドン・キホーテ』の公演を行った。

今回の公演はいずれのプログラムも会場を大いに沸かせたが、特に嵐のような絶賛の喝采を浴びたのは、パロマ・ヘレーラとアンヘル・コレーラの『海賊』第2幕パ・ド・ドゥだった。 コレーラの目にも止まらぬというか矢のようなというか、スピード感溢れる動きと、ヘレーラの落ち着いたしかし鋭い踊りがうまく融和して、印象深い舞台を創った。

世界バレエフェスティバルで観たパトリック・デュポンの『ドン・キホーテ』パ・ド・ドゥも凄いスピードと技の切れだった、と記憶するが、今回のコレーラ の踊りは、まるでコマおとしのフィルムを見ているような感じで、デュポンに優るとも劣らない。 これぞガラ・コンサートの醍醐味、というべきであろう。全幕を主演した場合ではこのような集中力を発揮することは不可能であろう。 『海賊』や『ドン・キホーテ』のパ・ド・ドゥがガラ・コンサートで踊り続けられるのは、こうしたエキサイティングな舞台を可能にするからだろう。

『海賊』

「オールスター・ガラ」は、バランシン/チャイコフスキーの『テーマとヴァリエーション』で開幕。オープニングを飾るに相応しい華やかで格調高い雰囲気が会場に漂った。

続いてキューバ出身のシオラマ・レイエスとアルゼンチン出身のエルマン・コルネホの『ばらの精』(フォーキン/ウェーバー)。 『マノン』第1幕パ・ド・ドゥ(マクミラン/マスネ)は、ABTの中心ダンサーとして活躍しているジュリー・ケントとフリオ・ボッカ。 そしてヘレーラとコレーラの『海賊』第2幕パ・ド・ドゥ(プティパ/アダン)だった。

終幕は、キリアンが祖国の作曲家、ヤナーチェクの曲に振付けた『シンフォニエッタ』である。 色彩豊かな民族舞踊的なセンスとモダンダンスの動きの感覚、バレエのテクニックなどが、キリアンという振付家の中で統一されたダンス。 感情の抑圧と解放が、舞台に独特のリズムを与える。キリアンの傑作のひとつである。
(7月22日、東京文化会館)

『ばらの精』

『シンフォニエッタ』

『ライモンダ』は、ヴェロニカ・パールトのライモンダ、マルセロ・ゴメスのジャン・ド・ブリエンヌ、ゲンナジー・サヴァリエフのアブデラフマンで観た。 『ライモンダ』は周知のように、プティパとグラズノフの協力関係によって創られただけに、シンプルなストーリーで「白」のイメージをコアとした破綻のない一貫性のある作品である。 近年は全幕物として上演されることは少なかったが、プティパ版に基づいてアンナ=マリー・ホームズがフィンランド国立歌劇場バレエに振付けた後、昨年の5月にABTがメトロポリタン歌劇場で上演した。

サンクトペテルブルク出身のパールトのライモンダは、素晴らしいプロポーションで楚々としていたが、踊りが少々固い感じがした。 ブラジル出身のゴメスのジャンは十字軍的正義感が迸っていたし、終幕の絢爛のダンス・シーンはさすがに見応え充分であった。
(7月24日、東京文化会館)

『ライモンダ』


『ドン・キホーテ』
『ドン・キホーテ』は、パロマ・ヘレーラのキトリ、フリオ・ボッカのバジル。 特に、ボッカはこの公演をもってバジル役の引退を表明していて、ABTを代表する人気演目を踊る人気ダンサー、<ボッカのバジル>はこの公演をもって見納め。

プティパ、ゴールスキーの原振付を芸術監督のケヴィン・マッケンジーとスーザン・ジョーンズが改訂振付けた舞台である。 種々細かい解釈をほどこしたところもあるが、オーソドックスな分かりやすい演出である。

スペインのカラーといえば、赤と黒が基調となるのが普通だが、ロクァストの美術・衣裳ではエスパーダや花売り娘に原色を使わず、うすいブルーなどのパステルカラーの衣裳を着せている。 すると、舞台が明るくなるばかりでなく、バルセロナの南国の光のまばゆさが感じられた。

ボッカはこの役を引退するのはほんとうに惜しい、と思わせる素晴らしい動き。 ステップも跳躍もスピードも未だ衰えず、特に素速い動きで踊りながら、さり気ない芝居をして見せるところなどプロフェッショナルな、ボッカならではの余裕のある魅力的な舞台姿。 さすがにとばし過ぎたか、最後にスタミナ切れを一瞬だけ感じさせたが、すぐに立ち直り、素晴らしいグラン・パ・ド・ドゥであった。
花売り娘やジプシーたちの踊りも見事。活気溢れるダンスが繰り広げられ、席を立つのが惜しまれた楽しい楽しい『ドン・キホーテ』であった。
(7月26日、東京文化会館)