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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2005.08.10]

●ブルノンヴィル生誕200年記念、井上バレエ団『ラ・シルフィード』ほか

 前号でコペンハーゲンで行われたブルノンヴィル・フェスティバルを、諸角佳津美さんにレポートしていただいた。 そして7月には、デンマーク王立バレエ団から芸術監督のフランク・アンダーソンとゲスト・ダンサーを招いて、『ラ・シルフィード』『ナポリ』第3幕、『ジェンツァーノの花祭り』パ・ド・ドゥの3演目が、井上バレエ団により上演された。

良く知られているように『ラ・シルフィード』は、1832年にシュナイツホーファーの音楽、フィリッポ・タリオーニの振付、彼の娘でロマンティック・バレエの名花マリーの主演により、パリ・オペラ座で初演された。 1836年にはオーギュスト・ブルノンヴィルが、この作品を音楽をリューヴェンスキュルに変え、コペンハーゲンの王立劇場で、やはり有名なバレリーナとなったルシール・グランの主演で上演した。
パリで初演されたタリオーニ版は失われたしまったが、デンマーク王立バレエ団はブルノンヴィルの『ラ・シルフィード』を、初演時に近い形で今日まで継承している。

ジェームス役はデンマークからのゲスト、トーマス・ルン、エフィーに想いを寄せる農夫グェンもゲストのフェルナンド・モラ、元パリ・オペラ座のエトワールのシリル・アタナソフが魔女のマッジに扮している。 シルフィードは井上バレエ団のプリマ、藤井直子である。

ストーリーは、細部を除いて現在踊られているものとほぼ同じ。しかし、物語の展開には非常にこだわっている。ことの成り行きを具象的描く。 たとえば、ジェームスが結婚式の直前に森の中に行ってしまうのは、単にシルフィードに憧れたからだけではなく、シルフィードに指輪を奪われたから、 といった具合に、主人公の行動の理由づけをはっきりと打ち出して、観客が物語の世界に入り易いように細心の配慮をなしている。 ジェームスのトーマス・ルンは表現力豊かで、舞台を引き締め、観客の目を惹き付ける力のあるダンサーである。

第2幕のスカーフに魔法をかけるシーン、そのスカーフをシルフィードに巻き付けるシーン、グェンがエフィーから結婚の承諾を得るシーンなども丁寧に具象的に描かれている。 藤井直子がシルフィードのはかな気な雰囲気をうまく表現していた。

最も素晴らしかったのは、第1幕で踊られるカラフルな色彩が溢れんばかりの民族舞踊を織りまぜ、バグパイプの演奏も見られるステップ華やかなデヴェルティスマンだろう。 『ナポリ』でもしばしば見られたが、『リヴァー・ダンス』でもしきりに踊られた、上半身を保ってステップだけの踊りが心が浮き立つように楽しい。 手拍子とタンバリンによるタランテュラなどのステップのリズムが、楽しさや明るさを大きく広げる。 ともすれば最近は、上半身の表現に気持ちが集中しがちだが、ブルノンヴィルならではのダンスのステップを見る歓びを満喫した公演だった。
(7月10日、文京シビックホール)