ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2005.07.10]

●田中泯 独舞『赤光』

農作業を創作の源にする異色の舞踏家、田中泯による独舞『赤光』は、田中の新たな境地を示す舞台だった。 『赤光』は、齊藤茂吉の同名の歌集から、編集工学研究所所長の松岡正剛が、生と死、心と体を軸に、人間の諸行を織りなす十七段の次第をからめて選歌した八首を元に、三部構成にまとめたもの。 和歌の書かれた軸は、各部の状況を暗示するものとして上から吊るされたりするが、これを田中の舞踏で解読するのは難しい。 太鼓の大倉正之助、能管の一噌幸弘ら逸材を共演者に得られたのは、新国立劇場の委嘱だからだろう。

暗闇に白いスーツ姿の田中が浮かび上がる。黒い玉石の上にしゃがみ、よろめくように歩き、両腕を上げてふんばる。 その緩慢な動きから、不思議な霊気が放たれた。細かい雨が降り始めると、玉石が濡れて光沢を放ち、田中の体にスーツがまとわりついた。 客席後方から、「イヨーッ」の掛け声と共に太鼓を叩いて大倉が入場すると、田中は硬直。これに一噌の笛が加わると、田中は背をのぞけ、おののくように腕で空を切る。 

田中が濡れたスーツを脱ぎ捨て、赤い身衣(みごろも)に黒い振り袖をはおるのと同時に、左右から檜の床が玉石を覆う。 数種の笛を操って一噌が奏でる鋭い音は容赦なく田中に襲いかかり、それが触媒となって田中は憑かれたように床をころげ、仁王立ちし、前屈みになり、あるがままの生の姿をさらす。 大倉の太鼓が二人を駆り立て、息詰まるほど緊迫したパフォーマンスが展開した。後方に赤土のステージが現れると、野良着になった田中はその上でヨタヨタ歩き、飛びはねる。 客席通路を歩きもすれば、獣を思わせるようにのたうち、目をむきもする。やがて舞台中央に一直線に火が燃え始めた。 そのゆらめく炎の熱と光を浴びる田中の姿は、この世を超越し、浄化されていくように見えた。そうして、自然や生ある物の命の輝きを表象化してみせたのである。
(6月3日、新国立劇場小劇場)