ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2005.07.10]

●伊藤キム『禁色』

舞踏を原点とする伊藤キムが、後輩の白井剛と組んで三島由紀夫の長編『禁色』を舞踊化、精神と肉体が乖離・和解する濃密な舞台を創り上げた。 三島の『禁色』は、女たちに裏切られ続けた老作家が、女を愛せない美青年と契約を結び、女たちに復讐しようとする物語で、当時はまだタブー視されていた男色を扱って論議を呼んだ。 また、これを1959年に土方巽が大野慶人と舞踊化し、舞台で雄鶏を絞め殺して衝撃を与えた公演は、舞踏の起源とされている。伊藤は、そんな歴史的重圧をはねのけ、独自の世界を築き上げた。

耳をつんざく大音量のロックと共に、素裸の伊藤と白井が現れ、舞台後方から前方へ、手前から奥へと何度も走って往復する。股間を誇示し、もてあそびもする。 ゲイ・パーティーの描写だろうが、のっけから淫靡さを打ち砕いてくれた。狂宴の後、二人はシャツやズボン、靴を身につけ、日常の姿に戻って踊る。 ギターの調べで伊藤が踊るソロは、つま先や膝、腰、上体などの各部をバラバラの方向に曲げたポーズが、老作家の屈折した精神の表れのように見える。 伊藤の並でない力量をうかがわせた。続く白井のソロは、操られる美青年か、腰を上向けに倒れては起き上がる動作を、快楽のように繰り返す。 雪のような白い粉が降り注がれる中、白井が目を見開き、大口をあけて佇み続ける様は異様だった。

再びロックが鳴り響くと、二人のデュオが始まる。 白井はすがりつく伊藤を蹴り倒し、伊藤はおぶさる白井を床に落とし、また共に転がると言ったように、引き合い、はじき合う。 大の字に寝ころぶ伊藤の頭や腕、胴、脚の間を縫うように、白井が床を踏み付けるシーンは、伊藤の支配を断ち切ろうとする白井と、恍惚として身を委ねる伊藤の親和を物語るようだ。 小説最終章のチェス・ゲームの読み替えだろうか。マーラーの「アダージェット」の甘美な旋律にのせて、 立ち上がっては転び続けた二人が背を丸め、 並んで床に座る姿は、互いに補完しあう共生を象徴するようで、静かな余韻を残した。 白い壁や床を赤や黄のライトで照らし、ダンサーの奇怪なシルエットを壁に投影するなど、足立恒の照明が効果的だったことも、付け加えておきたい。
(6月9日、世田谷パブリックシアター)