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諸角佳津美 text by Katsumi Morozumi 
[2005.07.10]

●国をあげてのお祝いに沸いたブルノンヴィル・フェスティバル

コペンハーゲンのデンマーク王立劇場で、第3回のブルノンヴィル・フェスティバルが開かれた。
オーギュスト・ブルノンヴィルは、父アントワーヌの下でバレエを学び、デンマーク王立バレエ団に入団した後、パリ・オペラ座に参加しタリオーニのパートナーとして名を上げた。 その後デンマーク王立バレエ団に戻って踊り、芸術監督となってスピーディで浮揚感があり、暖かいヒューマンな感覚の溢れるブルノンヴィル・スタイルを確立し、数々の傑作を創った。 このブルノンヴィルの優れた伝統は、デンマーク王立バレエ団により150年以上にわたり、今日まで確実に継承されてきている。これは舞踊史上たいへんに貴重なことである。
今年はオーギュスト・ブルノンヴィルの生誕200年にあたる。 7月に同バレエ団から4名のダンサーを招いて、『ラ・シルフィード』『ナポリ』『ジェンツァーノの花祭り』を上演する井上バレエ団の諸角佳津美さんに、ブルノンヴィル・フェスティバルをレポートしていただいた。
 

オーギュスト・ブルノンヴィル

6月3日から11日まで、デンマーク王立バレエ団を舞台に繰り広げられた、ブルノンヴィル・フェスティヴァルは大好評のうちに幕を閉じた。 初日から最終日まで、劇場を満席にした観客は、ブルノンヴィルの作品を満喫した。

女王陛下が全公演を鑑賞され、国をあげてのお祝いであることを感じさせる。 コペンハーゲン市内では、このフェスティヴァルにあわせ、数ヶ所の美術館や博物館でブルノンヴィルに関わる様々なイヴェントが繰り広げられたが、中でも、国立博物館での「ブルノンヴィルバレエの衣装展」は圧巻であった。 衣装の展示のみでなく、写真や、デザイン画の展示もあり、ビデオによって、『ナポリ』2幕の衣装の引き抜き場面や、その他のからくりの裏側も見せてくれる興味深い展示で、 好評のため、フェスティヴァル後も会期が延長されることになった。

『ラ・シルフィード』『ナポリ』『コンセルヴァトワール』などなじみのある作品のほかに、『民話』『アマールの志願兵』『ブリュージの大市』『ラ・ベンタナ』『デンマークを遠く離れて』といった、日本では見る機会のない作品を見ることができた。
 

『ラ・シルフィード』

マイムが多いこと、様々なキャラクターが登場することに特徴がある。『民話』の衣装デザインは、女王陛下のデザイン。 どの作品も、資料の中に見える衣装や装置、踊り方など少しずつ改定されつつも守られてきた伝統を強く感じさせられる。 観客もその伝統をずっと見守ってきていて、日本で言えば歌舞伎を見るように、拍手のしどころを心得て、舞台と客席が一体となって公演を楽しんでいる。


『ナポリ』

『コンセルヴァトワール』

『民話』

さて、ダンサーたちは、毎晩の公演だけでなく、ブルノンヴィル・スタイルの基本である、月曜から、土曜までのクラスのデモンストレーションに出演したり、マイムの講座のモデルになったり。 終演は11時にもなるのに、翌朝には10時からクラスが始まり、続いてリハーサルという過酷な一週間を過ごしつつ、観客に夢を見せてくれた。 バレエ学校の子どもたちも大活躍で、一人ひとりが舞台上ではっきりした性格を持ち、存在感がある。彼らが言うとおり、大きな家族のようなバレエ団の雰囲気が良く感じられた。

初日に『ブリュージュの大市』の主役を踊ったクリストファー・サクライが、公演終了後、舞台でプリンシパルに任命されるという場面に立ち会うことになった。 本人にもあらかじめ知らせがあるわけではなく、全く突然のニュースに驚きと喜びが彼の表情に浮かび、芸術監督のフランク・アンダーソンから花束を受け取ってやっと信じられたような様子だった。 観客から大きな拍手と、床を踏み鳴らしての祝福が送られた。24歳。伸び盛りで、昨年ソリストになったばかり。優しい雰囲気を持つ、美しいダンサーである。 7月9日、10日の井上バレエ団7月公演に出演が予定されている。


『ラ・ベンタナ』

『ラ・ベンタナ』

『デンマークを遠く離れて』

デンマーク王立バレエ団の生え抜きのプリンシパルダンサーである、トーマス・ルンも同公演で『ラ・シルフィード』のジェイムスを踊る予定。 彼は現役のダンサーでありながら、バレエ団やバレエ学校でブルノンヴィル・クラスを受け持つなど、次の世代を担う人材である。観客もそれをよく承知して、彼には特別な喝采が送られていた。

このフェスティヴァルを企画し、実行した、芸術監督のフランク・アンダーソンは、このために一度離れた地位に、再度迎えられたもので、数年前から練りに練って、大勢のスタッフ、ダンサーを強靭な指導力で率いてきた。 事務局を預かる人々も舞台に関わる人々も、一つになってこのフェスティヴァルを盛り上げ、心から誇りに思い、真心を持って世界中から集まった人々に接してくれた。

最終日のガラコンサートが終わると、劇場前の広場に花火が打ち上げられ、われわれは何かとても暖かいメッセージを受け取った思いで、関わったすべての人たちに「ありがとう」という言葉を送りつつ、デンマークを後にした。


『アマールの志願兵』

『ブリュージの大市』

『ラ・シルフィード』

(コペンハーゲンにおける、ブルノンヴィル・フェスティヴァルの模様は、オフィシャルサイトで、見ることができる。www.bournonvillefestival.dk)。