ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2005.06.10]

●シルヴィ・ギエムの〈愛の物語〉(Bプロ)

  ギエムがプロデュースした〈愛の物語〉のBプロ。自身は、マクミラン振付の『三人姉妹』と、アシュトンによる『田園の出来事』に主演した。チェーホフの戯 曲に基づく『三人姉妹』は、モスクワ行きを夢見る三姉妹の田舎での生活を、夫(アンソニー・ダウエル)に退屈してヴェルシーニン中佐(ニコラ・ル・リッ シュ)との恋に燃え上がる次女マーシャ(ギエム)を中心に、三女イリーナ(イザベル・シアラヴォラ)と二人の求婚者の決闘をからめて描いた抒情豊かな作 品。ギエムは、身体だけでなく、目線で心の動きを巧みに先取りし、ヴェルシーニンの直截な愛に身を任せてしまう狂おしさを見事に具現した。

ル・リッシュの大胆で切れ味の鋭いステップに乗じるように、ギエムも身をしならせ、高くリフトされながら更に伸び上がるようにして、二人の恋の激しさを 歌い上げる。見守るしかない夫の悲哀を渋い演技で伝えたダウエル、快活にイリーナを踊ったシアラヴォラ、妹たちを気遣う長女を温かく演じたドルー・ジャコ ヴィらが脇を固めた。

『三人姉妹』

『田園の出来事』は、ツルゲーネフの戯曲を下敷きに、裕福な一家の平穏な生活が若い家庭教師の出現により崩れていく様を、それぞれの心理に寄り添いなが ら、水彩画のようなタッチで描いたもの。聡明で優雅なナターリヤ夫人を演じたギエムは、匂い立つような美しさ。夫や子供たちの面倒を見、崇拝者を軽くいな したものの、家庭教師ベリヤエフ(マッシモ・ムッル)に惹かれ、彼にあこがれる養女の顔を打って後悔するが、彼の愛に応えてしまう----そんな揺れ動く 心を、ギエムは繊細に伝える。実際、仕草の一つ一つが台詞として聞こえてくるようだった。ベリヤエフが去り際に置いていったバラの花を拾い、抱きしめてか ら、彼への愛を封印するように捨てる幕切れの凛とした美しさが心に残った。
颯爽と登場したムッルは、伸びやかて振幅の大きな動きでベリヤエフの一途さを好演。養女を演じた小出領子が、家庭教師へのあこがれや母との確執を、鋭さを秘めた動きで上手く表現。息子役のアルベルト・モンテッソは、快活なジャンプや回転で明るさを添えた。

間に上演されたのはアルベルト・アロンソ振付の『カルメン』(ハイライト版)。カルメンを踊ったシアラヴォラは、野性味には少々欠けるものの、上品な妖艶 さを放ち、美しい脚をフルに生かした演技で魅了した。ムッルもホセの朴訥さをうまく出していた。それにしても、パリ・オペラ座バレエや英国ロイヤル・バレ エなど著名なバレエ団からこのような逸材を集めたギエムの手腕にも感心させられた。
(5月6日、東京文化会館)


『三人姉妹』

『田園の出来事』

『カルメン』