ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2005.04.10]

●ダンスカンパニーノマド ̄s『ゲズィヒト・ウント・ゲシヒテ』

  この4、5月にヨーロッパ公演を控えた「ダンスカンパニーノマド ̄s」が、新作『ゲズィヒト・ウント・ゲシヒテ』(邦題『顔と歴史――ひとつの小さな夜 ――』)を上演した。池宮中夫がテキスト・演出・美術を手掛け、池宮と熊谷乃理子が共同で振付けたもので、「顔(ゲズィヒト)」と「歴史(ゲシヒテ)」の 二部構成。「顔」は英語では「The Face」と訳されているので、特定の顔や表情を指すのだろう。舞台後方に洞窟のような通路が見えるほか、分厚い書籍の山と2個のトランクが置かれている だけ。モヤが漂う中、迷い込んできたような人々は、床を転がったり、重ね着の服を脱ぎ捨てたり、一つの塊となり強張った顔を向けたりする。これは難民のイ メージだろうか。白い服の女性の印象的なソロもあったが、多くは群舞。はしごに登り、果実を取って食べるマイムなどの具体的な仕草は少なく、次々に新たな 場面が提示されるので、その関連性などを考える余裕はない。

  〈船に乗る〉の声で始まり、汽笛の響きで帰結する「歴史」も、同様の展開だった。英訳は「Phases」なので、物事の諸相や局面といった意味合いか。 黒っぽい服のダンサーたちにカラフルな衣装の一群が混じり、異なる時代や場所、民族の世界が暗示された。生と死も交錯するが、ステージ脇で演奏されるピア ノが効果的だった。ところで、書籍が記録=歴史の象徴なら、その扱いに興味を持った。端のほうでダンサーに本を読ませたり、客席後方からステージに運ばせ たりする程度にしたことで、歴史に対する認識の希薄さを示唆したのだろうか。様々な問いを含んだ作品だが、プログラムノートに「記述不能」とあるように、 論理的に理解することはできなかった。ただ、得たいの知れない何かに押し流されていく人間の姿は伝わってきた。ダンサーたちは切れ味の鋭い動きを見せ、 ワークショップの参加者たちもマスとなって健闘していた。
(3月25日、横浜赤レンガ倉庫1号館)