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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2004.06.10]

●NBAバレエ団のトゥール・ヴィヨン公演『騎兵隊の休止』ほか

NBAバレエ団が創立10周年記念公演IIIとして<トゥール・ヴィヨン公演>を行った。演し物は、1月に全幕を復刻上演した『エスメラルダ』の第2 幕、芸術監督の安達哲治が振付けた『バッハ無伴奏チェロ組曲(第1番)』、『せむしの仔馬』の第1幕より「フレスキー」、2000年にNBAが日本初演し た『騎兵隊の休止』だった。
この<トゥール・ヴィヨン公演>は、クラシック・バレエの伝統を継承発展させていく中で、ともすれば失われがちな香気のある作品をとりあげて、これからの新たな展開を探る試みである。

今回は新作が登場した。『バッハ無伴奏チェロ組曲(第1番)』は、緋色に近い鮮やかなタイツを着けた男性のソロ、女性のソロ、パ・ド・ドゥによって構成 されたもの。タブローに絵の具を重ねて深い印象を現すように、バッハの音楽から想起されるシャープで切れのいいムーヴメントを宙空に何度も何度も塗り重ね て創られたダンスだった。チェロ演奏は丸山泰雄。

第2幕だけ上演された、ジュール・ぺロー、プティパの原振付をバレンチン・エリザリエフが再振付した『エスメラルダ』。これは悲劇なのだが、どこかのど か、と言っては変だが、現代のように人間の感情が無意味に細分化される以前の、おおらかな情感によって描かれた舞台である。今では、このような作品を創造 することは不可能ではないか、そんな感慨すら抱いた。

「フレスキー」は、グリーン、ピンク、レモン、薄紫のまるでかき氷にかける甘味の水のような爽やかな色調のチュチュが、まずパ・ド・カトルを踊った。そし てさまざまな組み合せで登退場を繰り返す。今のバレエにはあまり見かけない、細やかで愛らしいクラシカルな動きが楽しかった。

最後は『騎兵隊の休止』。村に立ち寄った騎兵隊と村の娘たちのひとときのふれあいを、軽快な筆捌きでさっと描いたスケッチで、なかなか滋味あふれるコミ カルな一幕ものである。台本と原振付はプティパ、再振付はナタリア・ボスクレシェンスカ。赤いブーツとオレンジのジャケットの村娘テレサと、黒いブーツと 赤いジャケットの大佐が踊るマーチにのせたパ・ド・ドゥ、恋人同士のブルーの衣裳のマリアとピエールのパ・ド・ドゥが、見ているだけでうきうきしてくるよ う。村娘たちのスネたり、媚びたり、誘ったり、喜んだりする動きが可愛いらしい、大佐を筆頭に娘たちにアピールしようとする騎兵隊の隊員たちはもっと可愛 いかったけど。

200年以上以前の1896年に初演された作品をいま観ても魅了される。なんだか21世紀に生きているということが不思議になった。(5月20日、なかのZEROホール)

「騎兵隊の休止」
田熊弓子、セルゲイ・サボチェンコ

「フレスキー」
峰岸千晶、野本康子、山口愛、枝村敬子

「バッハ無伴奏チェロ組曲」
原嶋里会、カセイ イノウエ