ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Paris <パリ>: 最新の記事

From Paris <パリ>: 月別アーカイブ

斎藤 珠里 text by Julie Saito 
[2008.06.10]

マルセイユ国立バレエ団の公演から

MICHEL KELEMENIS : TATTOO マイケル・ケレムニス振付:タトゥ(刺青)

 「タトゥ」とは、フランス語で「刺青」の意味だ。ドミニク・バグエの元で学んだ振付家ケレムニスは作品の成り立ちについて、「クラシックバレエの重要要 素であるポワントをモダンダンスでどう使えるか、というフレデリック・フラマン総監督から与えられた課題への回答だった」と説明する。男性3人、女性2人 のダンサーという数が合わない組み合わせ。均衡をあえて崩すことで、定型化されたクラシック・バレエの男女関係とは一味違う雰囲気を生み出そうと試みたの だという。
幕が上がると、町工場で金属を叩く音が聞こえてくる。舞台の中央に二カ所、光のスポットライトがあたった正方形の上に、二人の男性ダンサーがそれぞれ女性ダンサーをポワントのまま下ろすと、同位置で忙しなくパドブレを始めた。
コツコツコツ----これは刺青を彫るときに細かい針の先が皮膚に刺されるのをイメージしたのだという。女性たちは男性ダンサーに物体のように圧われ、 まるで工場の歯車に見える。音と動きだけを追っていると、工場で鉄製品が打ち出されていく課程を見ているような気分になってくる。無機的な音楽(効果音) もあいまって、感情の交換が土台となったパ・ド・ドゥとは対照的な冷ややかな関係が浮き上がってきた。
作品の中で重要な役目を果たしたのは、黄緑色のトウシューズだった。これまでにない鋭く激しいパドブレの使われ方、男と女というダンスの基本を突き放したインパクトある舞台だった。


WILLIAM FORSYTH : HERMAN SCHMERMAN (PAS DE DEUX)
フォーサイス振付:『ヘルマン・シュメルマン』から「パ・ド・ドゥ」

 フォーサイスがフランクフルト・バレエ団のために創作した1992年の作品。シンコペーションの利いたジャズの音楽を用いて、クラシックとモダンな動きが交錯するが、全体としてはオーソドックスなつくりだ。

 

 ちなみに『ヘルマン・シュメルマン』というタイトルは、カール・ライナーの映画「Dead Men Dont Wear Plaid」の中でスティーブ・マーチンが口にする名前だ。特別な意味はなく、言葉の響きがよいので名称に選んだという。フォーサイスとのコラボレーショ ンが多い作曲家トム・ウィレムスの音楽をバックに、前半は、黒いコスチュームを着た男女によって、クラシック技術を変形させたフォーサイス的なシャープな 動きが披露される。が、後半は、男性が黄色いスカートを身につけ、女性もヒラヒラのチュチュで現れる。明らかに、パロディ仕立ての、ユーモアたっぷりの作 品の魅力を、実力派の女性ダンサー、アニエス・ラコンブと男性ダンサーのジュリエン・レステルが余すところなく伝えていた。

 


NACHO DUATO : POR VOS MUERO
ナチョ・デュアート振付:『ポル・ボス・ムエロ』

 フランスでも人気のナチョ・デュアトは、15・16世紀のスペインバロックの宗教音楽と華麗な時代衣装を用いて、薄暗い照明の中で舞台全体を絵画のように浮かび上がらせ、典雅な王朝絵巻物を髣髴とさせるスペイン中世の世界を再現した。

 

 カトリックのミサを思い起こさせるような神秘的な気品に覆われ、香炉から流れてくる香の香りが漂う中を、6組の男女カップルが流麗に舞う。洗練を極めた舞台だった。