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パリ・オペラ座ダンサー・インタビュー:エリック・ピント=カタ

ワールドレポート/パリ

大村 真理子(在パリ・フリーエディター) Text by Mariko OMURA

エリック・ピント=カタ Eric Pinto Cata(契約団員)

今年の入団試験にはあいにくと受からなかったけれど、1年更新の契約団員として正団員並みにステージで活躍しているのがエリック・ピント=カタである。今シーズンはプログラム「Racines」でレパートリー入りして踊られたMthuthuzeli Novemberの『Rhapsodies』、そしてプログラム「Contrastes」のためにIrme & Marne van Opstalが創作した『Drift Wood』に配役された。さらに来年3月に公演のある「Empreintes」の Morgann Runacre-TempleとJessica Wrightによる創作に参加するダンサーの中にも彼の名前が見つけられる。入団して間もない正団員以上に登用されている感がある彼。パリ・オペラ座のバレエ学校で学んでいないが、学校出身者たちの中で浮くこともなく、テクニックに優れ、エレガンスを感じさせて、ステージで観客の視線を吸い寄せる魅力に溢れるダンサーだ。パリ・オペラ座のステージ上に着陸したUFOのような存在、エリックとは誰なのだろう。

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Photography Julien Benhamou/ OnP

Q:国籍と年齢を教えてください。

A:ポルトガルとアンゴラ共和国の血筋ですが、僕が生まれたのはロンドン。今、24歳です。

Q:バーミンガム・ロイヤル・バレエで踊っていたあなたが、パリ・オペラ座に行こうと思ったのはなぜでしょうか。

A:バーミンガムには3年在籍しました。僕は何ごともチャレンジが好きなんです。他のバレエ団の中でも、パリ・オペラ座には歴史があり、ヌレエフ、ルグリ、ル・リッシュなどの男性ダンサーの歴史もあります。そしてレパートリーが素晴らしい。これは世界で現存するカンパニーの中で一番だと思う。とても美しい場所です。でも、僕はオペラ座のバレエスタイルを持ってないし、ここで踊ることが可能とは思えなかった。友達から''試してみたら? '' と言われたとき、''まだ準備ができてない。稽古をしてから、来年に! '' 'と僕は返事をしたんです。でも、''いいえ、今年試すのよ!!! '' と言われ、''じゃ、何が起きるか試してみよう''ということで、2024年7月にパリ・オペラ座の入団試験を受けました。その結果、シーズン2024~25で契約団員(CDD)となり、1シーズンを過ごしました。

Q:バーミンガム・ロイヤル・バレエ団のサイトに残っているあなたの紹介ページによると、お気に入りのバレエ作品はウィリアム・フォーサイスの『Blake Works I』、お気に入りの作曲家はラフマニノフ、そして夢みる役は『オネーギン』のレンスキーとあります。前シーズンの2024~25ではパリ・オペラ座で10月に『Blake Works I』のステージに立ち、今シーズンの始まりにはムチュチュゼリ・ノーヴェンバーの『Raphsodies』でラフマニノフの曲で踊りましたね。このチャンスについて、どう感じましたか。

A:パリ・オペラ座に来るというのは、僕にとって正しい決断だったのだって思いました。

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「Rhapsodies」(前列右から2人目)
Photography Maria-Helena Buckley

RHAPSODIES (Mthuthuzeli) (C) Mar ia-Helena Buckley OnP-3676.jpeg

「Rhapsodies」(前列右)
Photography Maria-Helena Buckley

Q:シーズン2024~25のオペラ座のプログラムは春に発表されています。このシーズン、『Blake Works I』が入ってることを知って試験を受けたのですか。

A:いいえ、知らなかった。契約団員となって配役表を見たときに『Blake Works I』のアンダースタディに入っていたので、''わぉー、こりゃ、すごい! 音楽を聴いて、振付を学べる!! '' と代役に選ばれただけでとてもハッピーだった。それだけでなく・・・

Q:代役として、ステージに立つことができたのですね。

A:はい。2回! 最初の時は、公演が始まる2時間前に公演に出られるって知ったんですよ。えええ、と思ったけれど、ガルニエのステージに立つというのは僕の夢でした。この日は日曜で公演はマチネ。クラスレッスンが終わって、''エリック、君は今日ステージで踊るんだよ '' と知らされたんです。怪我で降板したジェレミー=ルー・ケールの代わりに。でも彼の全部ではなく半分のパートだけで、2つのムーヴメントをしました。2回目の時も彼の代わりで.今度はもっと踊りました。これは、いかにパリ・オペラ座が機能してるのかを知るとても良い例でした。期待してたより、ずっと早く僕はステージに立てたんです。

Q:バスチーユで開催された7月の公開クラスレッスンはその晩の『眠れる森の美女』に出るダンサーたちが主で、あなたも参加していました。これはクラシック作品ですが、コンテンポラリーとクラシックはどちらが好みですか。

A:両方好きです。コンテンポラリーばかり続くと、ああクラシックが恋しいなとなります。古典作品はフォーマルで美しい。でもクラシックばかり踊ってると、ヒューマンで動物的に動けるコテンポラリーが踊りたいなって・・・。両方がバランス取れてるのが理想ですね。

Q:バーミンガムのレパートリーはどうでしたか。コール・ド・バレエだったのですか。

A:レパートリーは両方のバランス取れていて・・。60~70名くらいの小さなカンパニーだったので、僕はコール・ド・バレエだけどコンテンポラリーの創作に参加もしてるし、ソリストとしても踊りました。

Q:その間いくつかバレエの賞を受賞していますね。ダンスはいつ、どこで、どのように習い始めたのですか。

A:7歳のときに友達のママが僕のママに「エリックは演技や舞台に立つのが好きなのだから、バレエを学んだらきっと楽しめると思うわ。私の娘もバレエをやってるのよ」と言ったことからなんです。それでバレエ教室に通うことに。すごくアカデミックな雰囲気・・・二人の教師はロシア人でした。ワガノワ・スタイルですね。楽しかった。先生が僕にバレエ作品をYoutubeで見るように勧めてくれました。それで見はじめたら、すっかり虜になってしまった。美しくって、魔法のようで・・・。10歳のときに、僕はこの道に進む! と。それでバレエの先生が、じゃ、ロイヤル・バレエ・スクールを試してみるといい、ということで・・・。

Q:すぐに入学できたのですね。

A:はい。最初の1年はジュニア・アソシエートとして。それからホワイト・ロッジにあるロウアー・スクールのオーディションを受けました。それで入学し、その後アッパー・スクールも含め8年間、ダンスを学びました。

DRIFT WOOD (Imre et Marne Van Opstal) Eric Pinto-Cata et Je nnifer Visocchi (C) Benoi?te Fan ton OnP - 25112904-06BF__.jpeg

「Drift Wood」ジェニファー・ヴィゾッキと Photography Benoîte Fanton / OnP

Q:パリ・オペラ座のスタイルとロイヤル・バレエのスタイルの違いは何だと思いますか。

A:ええと、ロイヤル・バレエは大きな重きを演劇に置いてると思います。演じることに。マクミラン、アシュトン・・・彼らの作品はドラマティックですね。音楽性の中にもそれが見られる。それに対してフランス・スタイルはもっとピュアですね。まるでギリシャの彫像のように、クリーンで正確で。もちろん表現する面もたっぷりあるけれど、ロイヤルとは別のスタイルなんですね。ロイヤルのダンサーって、チェーホフやシェイクスピア劇のようにバレエを踊りますね。それは場所や観客の違いにもよるのではないかな。とりわけ劇場のサイズ。ガルニエはサイズが小さいけれど、ロイヤルの劇場は広いんです。だから誰もが遠くからでもわかるようにと・・・。

Q:どちらのスタイルが好みでしょうか。

A:両方です。両方をミックスする方法を探ろうとしてます。あまり英国スタイルを失いたくもないけど、オペラ座にいるのだから、ここのスタイルをリスペクトします。今、フレンチスタイルを学ぶことをエンジョイしてるんです。

Q:どのようにフレンチ・スタイルを学んでいますか。

A:一体どうやってるんだろう? って、ひたすら観察。周りのあらゆるダンサーを見ます。オペラ座のバレエ学校を出たてのダンサーたちも。だって彼らは入団して間もないので、彼らが体から出すのは学校で学んできたばかりのことなので。バレエ教師の動きも観察しています。

Q:バーミンガム時代にはロイヤル・バレエ団に行こうとは思わなかったのですか。

A:いいえ。もちろんロイヤル・バレエは好きですよ、ファミリーですよ。ダンサーもスタッフも知ってる。だけど、学ぶことがあるとしてもそう多くはない。8年間ロイヤルのスタイルを学んだので。僕は全く別のことを学んでみたかったんです。プッシュされたいと思ったんです。この先ですか? わかりません。僕は今まだ成長の途中ですから。

Q:レンスキー役を踊りたいと夢見てるのは、なぜでしょうか。

A:わからない、でも、彼には何かコネクションを感じるんです。彼ってとてもエモーショネルで衝動的、でもとてもヒューマンと言えます。また彼はエレガント。詩人の彼はロマンティストでもあって・・・。すぐに衝動的に反動するなど、パーフェクトなプリンスとは違いますね。

Q:今年3月にパリ・オペラ座で『オネーギン』の公演がありました。

A:このとき僕はバスチーユで『眠れる森の美女』のコール・ド・バレエ。でもガルニエまで公演を見に来ました。これは僕のお気に入りバレエの1つで、2~3配役で見たかな。

Q:あなたがイメージするレンスキーに一番近かったのは、誰が踊ったレンスキーでしたか。

A:全配役を見たわけではないけれど、僕、マルク・モローのレンスキーがとても気に入りました。実は『オネーギン』というのは僕がみた最初の全幕バレエなんです。10歳のときでした。だから思い入れがあるのでしょう。普通はこの年齢だと『くるみ割り人形』とかみるのだけど・・・。当時学んでいたバレエ・アカデミーからのスクールトリップで見に行きまた。初めて見るバレエだ! って興奮して。この時のキャスティングがすばらしかった。主役がヴァレリー・ヒリストフで、その後入ってロウアー・バレエスクールでは、僕の教師が彼でした。

Q:今シーズンはコンテンポラリー作品の創作に参加するチャンスを得ていますね。来年3月の「Empreintes」でも、Morgann Lunacre-Temple & Jessica Wrightによるクリエーションの配役に入っています。

A:まだ創作はスタートしてないけれど、この二人とは過去にバーミンガムで一緒に仕事をいたのでよく知っているんですよ。パリでまたジェシカとモーガンにまた会えるのは嬉しい。

Q:パリ・オペラ座では創作は英語圏の振付家のことが多いので、英国人のあなたはコミュニケーションが取りやすいという利点がありますね。

A:そうですね。ムチュチュゼリもヴァン・オプスタルも英語ですからね。僕、パリに来てからフランス語を学ぶ努力をものすごくしてますけど、でも創作の時に英語で会話をできるのは自分のパーソナリティを仕事によりもたらすことができるのでいいですね。振付家がどう仕事するのかは、各人やり方が違います。コネクションを感じたいので、良い関係を築く努力をします。『Rhapsodies』では素晴らしい体験ができました。振付家もアシスタントも人間的で素晴らしい人たち。ダンサーのグループも仲間たちという感じで良かったですね。彼らとちょっとしたミニ・パーティをして楽しんでる、という感じがありました。

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「Drift Wood」マリオン・ゴティエ・ドゥ・シャルナッセと
Photography Benoîte Fanton / OnP

Q:イルム&マルヌ・ヴァン・オプスタルの『Drift Wood』の創作はどのように進んだのですか。

A:自分を支配する自然の力を考えて、というように彼らは各ダンサーにインプロビゼーションをさせ、そこからスタートしました。

Q:コンテンポラリー作品ではダンサーの表現の自由があります。

A:そうクラシックはルールがありますけど、コンテンポラリーは自分の体が語るので、毎回踊りが異なります。クラシックとコンテはコントロールと反応、という違いですね。コンテはまだもっと別のところに行けるのでは? となるし、何が可能なのかとか、人間というよりアニマルのように動いたり・・・

Q:最初のシーズン2024~25では『Blake Works I 』「眠れる森の美女』の他、何を踊りましたか。

A:アレクサンダー・エクマンの『Play』。これには代役ではなく最初から配役されてて、来日公演にも参加しました.日本に行ったのはこれが初めてで、すごく気に入った。アメイジング! 再びバランスの話となるけれど、騒々しい、巨大、スピード・・・ということの反面、静かで平和的でという感じ。食べ物も素晴らしい! 日本に休暇で来ていたバーミンガム時代の友達、ロイヤルの学校時代の友達から、日本のことを色々教えてもらい、見せてもらって・・・。良い滞在ができました、。

Q:日本のバレエ・ファンにも初めて接したのですね。

A:僕たちの仕事をすごく評価してくれてるって、感じました。嬉しいことですね、それは。感謝の言葉をかけられると、''ああ、僕たちは何か特別なことをしたんだ、それを人々が感じてるんだ''って。日本の観客は『Play』を気に入ったと思います。最後にボール投げがあり、ダンサーと観客との間に繋がりが生まれて・・・『Play』は日本人向きの良いチョイスのバレエだと思いました。

Q:バーミンガム・ロイヤル・バレエ時代にもツアーに参加していますか。

A:はい。最初のツアーはアメリカ。このときはオーランドとニューヨークに。それからドイツのハンブルグ、リュクサンブルグ、ロッテルダムでも踊りました。

Q:来シーズンの入団試験もトライするのだろうと想像します。オペラ座のレパートリーで踊りたい作品は何でしょうか。

A:あ、実はもう1つパリに来た理由があるんです。それはヌレエフの作品ゆえなんです。というのも英国では彼の作品はあまり踊られていません。主にパリで踊られていますね。僕、ヌレエフがダンサーとして好きなんです。彼って信じられない。いつか『白鳥の湖』を踊りたいです。

Q:プリンスですね。ロットバルト役には興味がないですか。

A:こういうタイプの役はときに踊ってみるのは面白いと思います。でもプリンスのロマンティックなスタイルの方が、僕は自然にコネクトできます。ヌレエフ作品が好きなのは、男性ダンサーにすごくフォーカスを置いてるから。『白鳥の湖』のプリンスのヴァリエーション・・・5分と長く、テクニック的にもハードですけど、心理面の表現も含め踊ってみたい作品です。ロイヤル・バレエの作品だけど『マノン』も踊ってみたい。物語がある演劇的作品がとても好きです。

DRIFT WOOD (Imre et Marne Van Opstal) Eric Pinto-Cata et Marion Gautier de Charnacé© Benoît e Fanton OnP-25112803-11BF_.jpeg

「Drift Wood」マリオン・ゴティエ・ドゥ・シャルナッセと Photography Benoîte Fanton / OnP

Q:今シーズンのヌレエフ作品は4~5月に『ロメオとジュリエット』があります。

A:この時期、同時にガルニエでは『椿姫』があって、僕はそっちに配役されるんじゃないかと思うんですが、『ロメオとジュリエット』は好きです。でも・・・僕はマクミラン版の方が好みなんです。ヌレエフ版はテクニック物だけど、マクミラン版はずっとドラマティックだから。

Q:ギヨームがエトワールに初の黒人ダンサーとして2023年に任命されたことは、あなたがパリ・オペラ座を試したいという気持ちをよりプッシュしましたか。

A:いいえ。彼がエトワールに任命されたのは才能があってのことです。でもカンパニーが向かう方向を示すという点で、これは良いサインでしたね。パリ・オペラ座は歴史があることで有名です。でも彼の任命によって、他のカンパニーからは遅れてのことだけど、変化していることが感じられました。

Q:フランス人に混じって、この国に溶け込むのは容易なことでしたか。

A:いいえ。でも、僕が来たことの理由はチャレンジですから、成長のためにはプッシュされなければ。快適になると僕は別のことを望んでしまうのです。この街は知らない、この国の言葉も知らない、人も知らない・・・これはきっとハードに違いない、と予測していました。パリ暮らしを始めたのは昨年8月22日。フランス語は仕事で、また日常から学んでいて、少し話せます。でも僕は恥ずかしがり屋なので・・・。パリの暮らしに溶け込むのにはバレエの世界じゃない友達がいて、僕を助けてくれています。それにバーミンガムのバレエ団にはオペラ座バレエ学校出身のフランス人の友達がいて、彼女はカンパニー内にも知り合いがいて・・・色々と助けてくれるんです。

Q:あなたは自分の性格をどうみていますか。

A:穏やか・・・また繰り返しになる言葉だけど、バランスが取れてる、と言えます。僕は静かだけれど、でも、自分がすごく騒々しくなることも知ってます。またすごく集中するけれど、リラックスもできる、というバランスの良さがあります。すごく断固とした面もありますね。

Q:得意なバレエのテクニックは何でしょうか。

A:ピルエットが大好き。回転するのが好きなんです(笑)。小さいときは手足のコーディネートがうまく行かなかったけれど、たくさん稽古をした結果やりやすくなりました。

Q:自由な時間があると、何をしますか。

A:なんだろう・・・たくさん眠りますね。それから友達に会います。仕事を切り離すようにしているので、ダンス以外の世界の友達に会うのは良いことなんです。それから、読書かな。バレエを見るものも好きだしクラシック音楽を聴くのも好き。ラフマニノフだけじゃなく、チャイコフスキー、ショパン、プロコフィエフ・・・。

Q:ダンサー以外、自分の職業として何が想像できますか。

A:アーティスティックな仕事であることは確かですね。同じダンスの世界だけど、振付家かな。音楽を聴いていて、時に、何かが見えることがあります。いつか試してみようと思います。ダンス以外では僕はファッションが大好きなんです。パリに来たのも、それが1つの理由かも(笑)。買い物するのは好きですね。ガルニエの近くのプランタン・デパートも好きだし、ヴィンテージが好きなのでマレ地区とかにもよく行きます。

Q:なぜ踊るのかと聞かれたら、どう答えますか。

A:そうでね、どう表現したらいいだろう・・・得られるフィーリングが驚くべき素晴らしさ。うまく説明できないけれど、実世界の外にいる感じがある。そのフィーリングは見つけるのが難しいのだけれど、それを可能な限り追い求めて行きたいのです。

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