パリ・オペラ座バレエ団にホフェッシュ・シェクターが初めて振付けた『レッド・カーペット』、13人のダンサーのエネルギッシュな動き
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ワールドレポート/パリ
三光 洋 Text by Hiroshi Sanko
Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
Hofesh Shechter ホフェッシュ・シェクター振付
Red Carpet『レッド・カーペット』(世界初演)
パリ・オペラ座バレエ団は6月10日から7月14日にかけてガルニエ宮で『レッド・カーペット』を20公演、上演した。振付家は1975年エルサレム生まれのイスラエル人、ホフェッシュ・シェクターである。バットシェバ舞踊団のオハッド・ナハリンのもとで踊った後に、23歳でイスラエルを離れ、英国に移住した。2008年にホフェッシュ・シェクター・カンパニーを創設し、以後、精力的に振付活動を行なってきた。2022年にはセドリック・クラピッシュの映画『ダンサー・イン・Paris(En corps)』に出演し、バレエファン以外にも広く知られるようになった。なお、主役を踊った元オペラ座のプルミエール・ダンスーズ、マリオン・バルボーは、最近、リヨンのフルヴィエール・フェスティヴァルでシェクターの代表作『ポリティカル・マザー』に出演している。
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
パリ・オペラ座では2018年に『ザ・アート・オブ・ノット・ルッキング・バック』(2009年初演)が9名の女性ダンサーによりレパートリー入りし、2022年には『アップライジング』と『イン・ユア・ルームズ』の二作品が上演されている。今回の『レッド・カーペット』は、初めてパリ・オペラ座バレエ団のために振付けた作品とあって期待されていた。
「『レッド・カーペット』という表題は(観客にとってスペクタクルへの)「入り口」に過ぎない」とシェクターは語っている(「テレラマ」誌、6月11日号掲載のエマニュエル・ブーシェーズ記者のインタヴュー)。確かに、舞台上に赤いカーペットは敷かれておらず、豪華さの象徴と考えればよさそうだ。
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
幕がゆっくり上がると、靄のかかった空間にシャネルの豪奢な衣装をまとったダンサーたちの姿がぼんやりと浮かび上がった。舞台奥でチェロ、コントラバス、金管楽器、ドラムのカルテットによる耳をつんざくような音楽が流れ(作曲はシェクター自身)、天井からは吊り下がった大きなシャンデリアが場面に応じて上下した。そして、トム・ヴィッサーの巧みな照明が閃赤色から暗褐色へと変わった。このトレンディな夜会は現実から遠く離れた夢の世界だった。
派手なショーからしばらくすると、ダンサーたちが衣装を脱ぎ捨て、肌色の下着になり、派手やかさは影を潜めた。うわべの豪華さと内部の寂寥のコントラストは明快で、一見したところは豊かでも、内面は空虚な現代社会の鮮やかな戯画となっていた。フィナーレでは、寂寥感が漂う中にそこはかとない希望も感じられた。
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
60分という大作はスピード感のある13人のダンサーのエネルギッシュな動きと、変化に富んだシークエンスが滑らかにつなぎ合わされていた。集団的な熱狂があるかと思うと、それぞれが散り散りバラバラになり、光の当たる場所から影に入った人の寂しさが周囲に広がった。
ルー・マルコー=ドゥルーアールとタケル・コストのソロがあったが、大半はうねるような群舞でダンサーたちの身体が、接触するわけではないが激しく交錯する。シェクターの世界は苛烈だが、「暴力ではなく激しい情熱と怒り」が表現されている。
ガルニエ宮という書き割りにぴったりの美しい舞台に、観客からはカーテンコールで熱狂的な拍手が送られた。その一方で、一部のバレエ評論家からは、クラシックとは全く異なるテクニックを土台にしたコンテンポラリー作品を固定された特定のダンサーたちが踊ることで、オペラ座バレエ団が事実上二つに分裂している点に対して懸念も表明された。
(2025年6月30日 ガルニエ宮)
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
グロス オズモン ギユマール ガス
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
コスト ヴィリオッティ マルコー・ドゥルーアール ゴーチエ・ド・シャルナセ ベレム ギユマール
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
ルー・マルコー・ドゥルーアール
© Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
「レッド・カーペット」(世界初演)
(2025年6月10日 パリ国立オペラ座バレエ団により初演)
振付・装置・音楽:ホフェッシュ・シェクター
衣装:シャネル
照明:トム・ヴィッサー
振付アシスタント:キム・コールマン ホフェッシュ・シェクター・カンパニー
音楽協力:ヤロン・エングラー
ライブ演奏:
チェロ オリヴィエ・クーンドゥーノ
コントラバス スリヴァン・ロワゾー
管楽器 ブラウス・ペルダ
ドラム ヤロン・エングラー
メートル・ドゥ・バレエ グレゴリー・ガイヤール
ダンサー(6月30日)
クレマンス・グロス カロリーヌ・オズモン イダ・ヴィイキンコスキー ローレーヌ・レヴィ アデル・べレム マリオン・ゴーチエ・ドゥ・シャルナセ
アントワーヌ・キルシャー アレクサンドル・ガス ミカエル・ラフォン ユゴー・ヴィリオッティ タケル・コスト ジュリアン・ギユマール ルー・マルコー=ドゥルーアール
アデル・べレム © Opéra national de Paris/ Julien Benhamou
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