『ル・パルク』<パリ・オペラ座 IN シネマ 2026>で男性ソロを踊ったマチュー・ガニオに聞く

ワールドレポート/パリ

インタビュー=三光洋

----映画『ル・パルク』が3月13日から19日まで日本で上映されます。

マチュー・ガニオ ええ、そうですね。

----マチューさんはアデュー前のインタヴュー(フィガロ紙 2025年2月13日付け アリアーヌ・バヴリエ記者)で「(『白鳥の湖』のジークフリート、『眠れる森の美女』のデジレ、『ジゼル』のアルブレヒトといった)王子役だけにならないように闘いました。舞踊監督と話して、役や表現の幅を広げようとして、さまざまな演出家と出会いました。」とおっしゃっています。
アンジュラン・プレルジョカージュとの出会いについて話してくださいますか。

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マチュー・ガニオ © James Bort_ONP.

マチュー バレエ公演ではまずオーディションがあるのが普通ですが、(私が出演した時の)『ル・パルク』ではオーディションはありませんでした。それまで(アンジュラン・)プレルジョカージュと仕事をしたことがなかったのに、彼が私を指名してくれたので感激しました。オーディションがあれば自分の踊りを見てもらえますが、そうではなかったので、彼が私のどこを気に入って選んでくれたのかはわかりませんでした。ちょっと驚いたのですが、感謝の気持ちが湧き、彼に選んでよかったと思えるようにしたいと思いました。リハーサルの最初にはアンジュランは来ませんでしたので、私は彼の指導なしで役を学びました。リハーサルの後半になって来てくださったので、それまでやったことがよかったのかどうか、ちょっと不安でした。(パートナーの)アリス(・ルナヴァン)は私と違ってそれまでに何度もこの作品を踊っていた上、『ル・パルク』以外の彼の作品も踊っていましたから。

----『メデア』ですね。

マチュー ええ。ですからアリスとプレルジョカージュの関係は私との関係とは違っていました。
私は彼が現代フランスを代表する振付家なので強い感銘を受けました。私にとってとても大切な機会だったので、初めての彼との出会いがうまくいくように全力を尽くしました。この作品はぜひ踊ってみたいと前から思っていましたし、彼が満足してくれて、次も私に役を委ねてほしいと願ったのです。

----『ル・パルク』はパリ・オペラ座バレエ団にとってコンテンポラリー・ダンスのレパートリーの軸となっている作品です。この作品のどこにマチューさんは惹かれたのでしょうか。

マチュー ええ、『ル・パルク』を初演したことはオペラ座にとって誇りです。オペラ座バレエ団を象徴していますし、フランス人振付家の作品で、宮廷恋愛や自由な恋愛がテーマとなっていて、文化面でフランスが世界に輝いていた王朝時代をよく反映しています。世界のバレエ団のレパートリーが画一化してきている中にあって、オペラ座のアイデンティティがはっきり刻印されていて、オペラ座のダンサーの特徴が活かされています。もちろん、ミュンヘンやイタリアでも上演される作品ですけれど。こうした特徴があるので私は『ル・パルク』にオペラ座のダンサーとして誇りを感じています。

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Le Parc-Alice Renavand et Mathieu Ganio © Yonathan Kellerman OnP.

----この映画は無観客で撮影されましたね。

マチュー 確かにそうですが、プラス面もありました。何よりもまずプレルジョカージュが現場にいて、時には舞台に上がったのです。いったん全部を通しましたが、そのあとでいくつかの箇所を彼の指示に従ってやり直すこともできました。録画されることはみんながわかっていて、舞台に集中できました。観客を前にして踊るのと、カメラを前にするのとは別ものです。観客は遠くから見ますから、それに合わせて表現し動きますが、カメラがあちこちズームしているときには別のやり方になります。そうするとライブ独特の魅力が失われ、自然さが損なわれる気もしますが、一方ではプレルジョカージュの目に見守られて、彼が表現したいこと、どうしたいのかを明快に意識して最良のものを残そうと思って踊る貴重な時間でした。この録画に参加できてよかったと感じ、誇りに思っています。これだけ結果に私が満足した録画は他にありません。

----プレルジョカージュはソロの男性像について何か語っていましたか。衣裳からして貴族の男性ですね。

マチュー もちろん(貴族)です。

----アリスの演じるソロの女性だけでなく、他の女性たちの視線も惹きつける魅力にあふれた男性だと思いますが。

マチュー 私が大好きな歴史と文化をよりどころにしてこの男性の人物像を作り上げました。「啓蒙の光の世紀」と呼ばれた十八世紀、自由奔放な愛(リべルティナージュ 註1)があって複数のパートナーを持つことが許されると同時に、宮廷恋愛には規範がありました。異性にアプローチするには「神聖な」恋愛作法に従っていました。そうした中から生まれるさまざまな愛の模様をダンスで表現するのはやりがいがあります。
ソロの男性は『危険な関係』のヴァルモン子爵(註2)のような面がありますが、そうしたイメージに合わせてはダメで、自分自身でいなければいけません。ダンサー各人が自分の個性と視点から人物を作ることが大切です。(マクミランが振付けた)『マイヤリング』の実在の人物であるルドルフ太公に、踊り手がに可能な限り近づこうとするのとは、役の作り方が全然違います。自分が表現したいことを思うように、はるかに自由にできるのです。

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© Yonathan Kellerman OnP.

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Le Parc-Alice Renavand et Mathieu Ganio
© Yonathan Kellerman OnP.

----プレルジョカージュ自身がインタビューで「私の振付は音楽の総譜のようなものです。音符を演奏家が自分の思うように演奏するように、ダンサーは自分の解釈で自由に踊れます」と言っています

マチュー 彼はダンサーに本当の自由を与えてくれています。体の線や輪郭、音楽に対しては非常に高い要求を出しますが、それを理解したらアーティストであるダンサーに全てを委ねます。それでダンサー自身の表現になるのです。責任は大きいですが、自由です。

----ソロの男性はマニュエル・ルグリやニコラ・ル・リッシュといったダンサーが踊ってきましたが、マチューさんが描いた男性は彼らとは別の人物でした。

マチュー そのことが面白いのです。それぞれのダンサーのヴィジョンが違い、個性も別ですから、この作品は何度踊っても、飽きることはありません。(観客の側でも)「このダンサーで見たから、他の人ではもう見なくてもいいわ」ということにはならないのです。もちろん観客は一人一人違いますから、各人の感受性によって「私はこの人がいい」ということになるでしょうが、どのダンサーも自分の表現が可能なのです。それは(プレルジョカージュの)振付家としての力量でもあります。

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Le Parc-Alice Renavand et Mathieu Ganio
© Yonathan Kellerman OnP.

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© Yonathan Kellerman OnP.

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Le Parc-Alice Renavand et Mathieu Ganio
© Yonathan Kellerman OnP.

----そのために、作品が時代を経ても新しい世代のダンサーによって引き継がれていけるのでしょうね。

マチュー 全くその通りです。描かれているのは十八世紀ですが、主題が普遍的なので作品が古くなることはありません。

----プレルジョカージュはこの作品をエイズが猖獗を極めた1990年代に構想しています。他人に触れるのは誰にとっても怖かった時期に「どうしたら、もう一度、異性に近づけるのだろうか。」という問いを立てたのは慧眼だと思います。彼はマチューさんがさっき挙げた『危険な関係』やマリヴォーのお芝居や美術を念頭に置いて、現代における恋愛の可能性を舞台化したようです。この舞台はフランスと聞いた時に誰もが想像する世界ですね。

マチュー そうです。フランスそのものです。装置もフランス式庭園です。

----ヴェルサイユの庭園を思い出しました。

マチュー その通りですね。しかし、それでいて非常にモダンで、過去の復元ではないのです。それは彼のダンスに対するヴィジョンと重なっています。彼はダンスについて知識の全て、全てのクラシック・バレエの技法を土台にして、新しい作品を組み立てています。十八世紀のダンスを基礎に置いて、モダンなダンス、普遍的なダンスへと昇華していきます。このやり方は非常に堅固な優れたものです。彼の知性の現れです。

----彼はコントラストも的確に取り入れていますね。音楽もモーツァルトと現代の効果音とが交互に使われています。

マチュー 庭師たちの場面と貴族たちの場面の対比はそこからも生まれていますね。このコントラストがうまく機能しています。私からして面白いのは、プレルジョカージュのやり方が伝統を尊重していて、文化的なアイデンティティーが強固な日本が、同時に未来を志向し、先端技術やデザインを生み出しているのとそっくりなことです。私はそうした日本の有り様に惹かれています。過去や伝統と未来とが見事に調和している、対立しているものでさえ融和しています。フランスでは伝統と現代性とを対立させてしまうケースがよくあります。プレルジョカージュのアプローチは私の気に入っている日本的なアプローチに似ているように見えます。

----それと、彼の振付が音楽から出発しているのも興味深いですね。プレルジョカージュはモーツァルト「ピアノ協奏曲23番」(イ長調 K488)の第2楽章アダージョにある空中に漂うかのような高い音を聞いて、そこで接吻して男と女が一つに結ばれるイメージがすぐに目に浮かんで、それを出発点としてパ・ド・ドゥに仕立てたそうです。音楽に寄り添って振付けるのが彼の特徴ではないでしょうか。

マチュー ええ、ソリストとしてこの作品をコール・ド・バレエと踊る時、この作品ではそういう場面がたくさんありますが、音楽が非常に重要です。一つの楽想のフレーズでソリストがいったんグループから離れて踊り、しばらくして別のフレーズではまた一緒になります。こうして小さな場面場面がパズルのようにして組み立てられていって一つの建築物になっています。踊っているとみんなの動きによって、あたかも目の前で建物が立っていくかのようで、踊っていて「やった、できたぞ」という気分になります。

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Le Parc-Mathieu Ganio
© Yonathan Kellerman OnP.

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© Yonathan Kellerman OnP.

----グループと言うと第1幕の椅子取りゲームの場面がまず目に浮かびます。

マチュー そう、それに男性たちの踊り(註3)や(第3幕の)「ディヴェルティメント」(註4)もそうです。それぞれが自分だけで別のところで踊っていますが、ある決まった瞬間に全員が同じ場所に集まる必要があります。その箇所を外さないためには音楽をきちんととらえていないと動けません。音楽の繊細さをよく知り、各人が自分のリズムで踊っている部分から全員が一体となる部分にぴたりと移行すると、強烈なインパクトが生まれて、見ている人にはハッとさせられるシーンが誕生します。

----アンサンブルが終わると照明が変わり、一転してインティメートな場面となりますが、その変化が実に巧妙にできているのには毎回驚かされます。

マチュー あの有名なキスはバレエ作品という枠を超え、人々の脳裏に焼き付いています。作った(プレルジョカージュ)本人にとっても、あの箇所は忘れられないでしょうね。あんな場面を作ってしまったら、それからどんな振付を出せばよいのか心配になってしまうくらいですね。エールフランスもこの場面を広告に使ったくらいですから。オペラ座バレエの紋章になった感があります。(キスという)このたった一つの動きがこれほど人々の心に残るというのは驚きです。アイディアそのものはシンプルですが、考えつくのは容易ではありません。

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Le Parc-Alice Renavand et Mathieu Ganio
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Le Parc-Alice Renavand et Mathieu Ganio
© Yonathan Kellerman OnP.

----ソロの男性を踊って、むずかしい点がありましたか。

マチュー むずかしいのはテクニックではなく、別のところにあります。動きが音楽とピタリと合うこと、それと演技がデモンストレーションにならないようにすることです。技術面の挑戦(チャレンジ)はありません。有名なキスも、きちんと位置が決まらないとダメで、簡単ではないものの大きなリスクはありません。表現は多面的ですが、練習がしっかりとできていれば振付家が何を言いたいのかを表せます。
何よりも気をつけなければならないのは音楽性であり、精神を集中して音楽に寄り添って正確に動くことです。全員が音楽をよく理解し、いいテンポでそろって動けるようになるために予想もしなかった長い時間がかかりました。それに加えてダンサー個々が芸術面を磨くことが求められています。

----この作品ではソロの男女に焦点が当てられていますが、パートナーのアリスさんは「マチューはとても美しい人で、この役にこれ以上ないほどピッタリしたダンサーです。パートナーとして本当に真摯で、芸術面で一体になれる相手です。こちらの演技に応えてくれて、全幅の信頼をおけます。テクニック、芸術、感情の三つのレベルのいずれでも安心して踊れます。自分を完全に委ね、踊りを分かち合うことのできる相手で、素晴らしいパートナーとしか言いようがありません。」と言っていましたが、マチューさんから見たアリスさんは。

マチュー 優しい言葉でうれしいですね。

----この作品でお二人は出会って、彼女の(最初の)アデューとなった『ジゼル』までずっといっしょに踊りましたね。今回の映像を見ていても、いっしょに踊る喜びが伝わってきますが、彼女のダンサーとしての魅力はどこにあるのでしょうか。

マチュー アリスは本当の個性を持っています。部屋に十人いても、誰もが彼女に目を向けます。存在感があって、単に美しいだけではなくオーラがあります。会ってすぐ、洗練さと強靭さを兼ね備えているのに驚きました。(『ル・パルク』で)いっしょに踊る前から彼女のコンテンポラリー作品での舞台を見ていましたが、いっしょになることはなかったのです。
最初に会ったときは、冷ややかではないのですが、相手に対して無意識のうちに距離を取ります。彼女自身がそうしようと意図しているのではないのですが、自然な気品があって自ずと相手に強い印象を与えます。リハーサルでみんなが集まって話し合ったとき、彼女が明晰な知性を駆使して作品に対してはっきりとしたヴィジョンを示したのには称賛の気持ちを抱かざるを得ませんでした。
リハーサルをしていて興味深かったのは、この作品ではソロの二人が最初に出会ってから最後にすっかり心を許すまでがストーリーになっていますが、それと全く同じことがアリスと私の間で起こったということでした。このバレエを通じて、お互いが相手を見出すことができたのです。彼女との現実の人間関係をもとにして私はソロの男性像を作り上げていったのです。最初は相手に対して遠慮し、慎重に振る舞い、表面には見せないようにすることもあったのですが、最後には完全に打ち解けました。
アリスはコンテンポラリー作品をたくさん踊ってきて、私はクラシック中心だったのに、いっしょにいるうちに相互が共有できる地平に辿り着きました。実生活でも二人は友人となりました。彼女は極めて感受性の強い、思いやりのある人であると同時に強靭な精神の持ち主です。そういうところが大好きです。彼女が視線を向けると、心に揺れを感じるのです。最後のパ・ド・ドゥで二人がいとおしそうに視線を交わすところでも、男性が女性は自分のものになったと思っても、アリスは「あなたは何が欲しいの。私は待っているのよ。」という感じなので、男性としては降参せざるを得ませんでした。息苦しくなるほどで、こちらもより一層気持ちを高めないと対峙できなくなりました。男と女の闘いで男性に簡単には勝利を与えないので、二人の間に官能的な緊張感がみなぎってきて、どんな結末を迎えてもおかしくないほどになりますが、そこで親和力が働くと完璧に全てを委ねる状態が訪れます。この張り詰めた糸の上にいる、最後まで勝てるかどうかわからない、という緊迫感は予想だにできないほど強烈でした。その感覚は今もなお鮮やかに私の内部に残っています。それまで感じたことのない感覚で心底驚かされました。それはアリスの強烈な個性、アーティストとしての資質、人間性から生まれたものです。

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Le Parc-Mathieu Ganio © Yonathan Kellerman OnP.

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Le Parc-Alice Renavand et Mathieu Ganio © Yonathan Kellerman OnP.

----エトワールになるまでのマチューさんとアリスさんのオペラ座でのキャリアは対照的でしたね。マチューさんは2001年に17歳で入団してわずか3年後の2004年に20歳でユーグ・ガル総監督によりエトワールに任命されたのに対して、アリスさんは困難な時期を乗り越えてエトワールに到達しています。

マチュー ええ、二人のコースは全く違っていました。それで年齢が近かったのに、ほとんど相手を知らないでいたのです。『ル・パルク』によってすべてが変わったのです。プレルジョカージュのおかげですね。このバレエはアリスと私にとって貴重な特別な作品です。一言でこのバレエを表現するなら、「プレジール」(快楽)でしょう。

----引退後の生活について少しお話しいただけますか。引退前に将来のことはあまり考えておられなかったようですが。

マチュー 今もあまり決まっていないのです。それでいろんなことをやっています。ガラ公演でちょっと踊ってもいます。
ちょうど昨日はパリ郊外ブーローニュのラ・セーヌ・ミュジカルで『ル・パルク』の最後のパ・ド・ドゥをレオノール(・ボーラック)と踊りました。二人の関係がアリスとのは全く違うので、面白かったです。このパ・ド・ドゥでダンサーは自己を役に投影するので、個性やアイデンティティがすぐに明瞭に浮き出てきます。違う相手との別な関係もはっきり形になります。ここでは前にやったことをコピーすることはできません。相手の人となり、芸術性で毎回ヴァージョンが変わっていくのが、この作品の特別な魅力でしょう。身体的にもまじかなので官能的な側面が濃厚なだけに相手への信頼が欠かせず、相手がこちらに近づくのを許せないと無理です。インティメートで自分にとって大切なものをさらすので、誰とでもできる役ではありません。このやり取りには二人の人間相互の信頼感が結実しているのです。
それにオペラ座バレエ学校のスペクタクルにも参加しています。アヴィニョン演劇祭ではお芝居に出演しました。オペラ座の演劇のクラスに出ています。それに子供が二人いるので、その世話もあります。いろんなことを同時にやって、何がうまくいくかを試していますが、今の選択が良かったのかどうかはわかりません。とても疲れるのです。今は移行期間なので、こういう状態なのを受け入れようと思っています。「これから10年間、これをやる」というような決断はまだ下していません。どんなことも試せる、多様な活動をする、という今の状態が気に入っています。精神的には疲れますけれど。
私はずっと一つのことに集中して100パーセントのエネルギーを注いできたので、立ち止まるのは初めてです。

----マチューさんはダンサーの両親を持ち、幼児から踊ってこられましたからね。

マチュー ええ、ダンスだけの人生でしたし、それが私のアイデンティティでした。このアイデンティティから完全に切り離されるのはむずかしいですが、新しい可能性に対しても開かれていたいのです。

----この映画を見る日本のバレエファンにメッセージをいただけますか。

マチュー 私は日本とはずっと特別な絆で結ばれてきましたから。この映画が日本で上映されることになって、本当にうれしいです。撮影から5年経っての上映ですが、今からは日本での予定が一つもないので、上映はいいタイミングでした。日本が懐かしいですね。映画を通じて、日本の観客のみなさんとつながれると思います。こういう長い舞台はもう踊ることができませんから、そういう意味でも貴重な映像です。

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Le Parc-Alice Renavand et les jardiniers © Yonathan Kellerman OnP.

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Le Parcj-Alice Renavand et Mathieu Ganio © Yonathan Kellerman OnP.

註1 リベルティナージュ(libertinage) ラクロの小説『危険な関係』にあるような社会の掟から逸脱した恋愛遊戯。
註2 ヴァルモン子爵 『危険な関係』で元愛人のメルトゥイユ侯爵夫人と共謀して、清純な令嬢セシルやトゥールヴェル法院長夫人を誘惑する美男子。
註3 第2幕(第5場)の「ディヴェルティメント第11番 ニ長調 アンダンティーノ」K251が流れるところ
註4 第3幕(第10場)の「ディヴェルティメント 変ロ長調(K137)アレグロ)が流れるところ。
註5 ラ・セーヌ・ミュジカル パリの南西、セーヌ川に浮かぶセガン島にある2017年に開場した多目的ホール。

<パリ・オペラ座 IN シネマ 2026>『ル・パルク』

3月13日(金)~3月19日(木)
TOHO シネマズ 日本橋 ほか1週間限定公開
■公式サイト:https://tohotowa.co.jp/parisopera/
■公式 X: https://x.com/CinemaOParisJp
■公式Instagram:https://www.instagram.com/cinemaoparisjp
■配給:東宝東和

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