ロレンゾ・レッリ、クララ・ムーセーニュ、ミロ・アヴェック、ホアン・カンなど、期待の若手が注目を集めた『ロメオとジュリエット』
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ワールドレポート/パリ
三光 洋 Text by Hiroshi Sanko
Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
"Roméo et Juliette" Rudolf Noureev
『ロメオとジュリエット』ルドルフ・ヌレエフ:振付
パリ・オペラ座バレエ団は4月2日から5月12日までバスチーユオペラで『ロメオとジュリエット』を10組のキャストで上演した。当初は21公演が組まれていたが、一部の組合によるストのため4月24日(トマ・ドッキール、ヴァランティーヌ・コラサンテ組)と5月6日(ギヨーム・ジョップ、ホアン・カン組)、最終日5月12日(ポール・マルク、ヴァランティーヌ・コランサンテ組)の3回が中止となり、18回のシリーズとなった。10組の公演数はポール・マルク、セウン・パク(4回)、トマ・ドッキール、ブルーエン・バッティストーニ(2回)、ロレンゾ・レッリ、ロクサーヌ・ストヤノフ(2回)、ミロ・アヴェック、オニール八菜(2回)、トマ・ドッキール、ヴァランティーヌ・コラサンテ(2回)、ジャック・ガストフ、イネス・マッキントッシュ(2回)、パブロ・ルガサ、ホアン・カン(1回)、ギヨーム・ジョップ、ホアン・カン(1回)、ポール・マルク、ヴァランチーヌ・コラサンテ(1回)、アントワーヌ・キルシャー、クララ・ムーセーニュ(1回)だった。
『ロメオとジュリエット』は1977年にヌレエフがロンドン・フェスティヴァル・バレエのために振付け、1984年にモニク・ルディエールのジュリエット、パトリック・デュポンのロメオという配役でパリ・オペラ座のレパートリーに入った。ヌレエフが手がけた作品の中でも高く評価されてきたが、その魅力の一つがイタリア・ルネッサンスの絵画に触発されて作られたエジオ・フリジェリオ(1930年生まれ。2022年逝去)の装置と衣裳だった。フリジェリオは二十世紀イタリアを代表する演出家ジョルジョ・ストレーレルに装置を委ねられた逸材である。絵画、彫刻、建築にも造詣の深かったヌレエフは優れたセンスを持つフリジェリオに白羽の矢を立て、『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『ラ・バヤデール』の装置を彼に委ねている。今回のシリーズに先駆けて新しい装置が作られたが、海外ツアーでも使えるようにするために元々の装置を簡素化した。1984年から2019年まで使われていたフリジェリオの装置とはかなりの差異がある。ヌレエフの「演出」が複雑なパと華麗な装置・衣裳とが一体になることで成り立っているだけに新しい装置には違和感を覚えた。
オニール八菜、ミロ・アヴェック
© Opéra national de Paris/Julien Benhamou
オニール八菜、ミロ・アヴェック
© Opéra national de Paris/Julien Benhamou
今回のシリーズでは10組のうち3組を見ることができた。まず4月14日はオニール 八菜とミロ・アヴェックの組み合わせだった。
前回のシリーズではロザリーヌを踊っていたオニール 八菜が初めてジュリエットを演じた。ロメオはコリフェのミロ・アヴェックだった。この二人は昨年10月8日の『ジゼル』で、ジゼルとアルブレヒトを踊っている(オニール 八菜は客演のリース・クラークと2度踊り、その後今年の3月にはロイヤル・バレエ団でもリース・クラークを相手に踊った)。オニール 八菜はキャピュレット邸の一室で乳母や友人たちと遊びに興じる(第1幕第2場)場面のまだあどけなさの残る少女らしさから、第1幕第4場の舞踏会でのロメオとの出会いで恋に目覚め、両親の勧めるパリスをキッパリとしりぞけてただ一つの愛を貫く女性への変貌を表情や仕草に工夫を凝らして描き出していった。対するミロ・アヴェックは端正な踊りと若々しい姿はロメオにふさわしかったが、踊らない場面になると影が薄く主役としての存在感が今一歩だった。そのために、第3幕でジュリエットの仮死から毒を飲むまでの、本来ならば悲劇の頂点に向かってドラマが高揚しなければならない部分で、場面に欠かせない緊迫感が失われてしまった。その一方で、マキューシオ役のシモン・リュバンス、ティバルト役のレオ・ドゥ・ビュスロール、ロザリーヌ役のクララ・ムーセーニュ、パリス役のマックス・ダーリントンといった周囲の若手ダンサーたちはそろって健闘していた。
オニール八菜、ミロ・アヴェック
© Opéra national de Paris/Julien Benhamou
クレール・ガンドルフィ ケイタ・ベラリ クララ・ムーセーニュ ニコラ・ディ・ヴィーコヨン・セ・リー
© Opéra national de Paris/Julien Benhamou
今回のシリーズの最終公演となった5月9日にはプルミエール・ダンスーズのクララ・ムーセーニュが登場した。3月23日の『眠れる森の美女』のオーロラ姫がパリのバレエファン、そしてホセ・マルティネーズ舞踊監督から絶賛され、再度ヌレエフ作品のヒロインを委ねられた。
彼女は「(パのむずかしさで知られる)ヌレエフ作品が好き」とインタヴューでも語っていたが、今回も流れるような身体の動き、高い跳躍は観客の目を楽しませた。これからの課題は視線やちょっとした仕草を通じていかにヒロイン像を作っていくかだろう。ジュリエットは深窓の令嬢がロメオとの恋愛を通じて明瞭な硬い意志を持った女性に成熟していき、最後に死を迎える。この魂の成長の過程を身体だけで表現するには踊りのテクニックを超えた演劇性が求められる。2021年に見たミリアム・ウールド=ブラームのような40歳近くなっても年齢を感じさせない演技を、これから舞台を重ねることで身につけていってほしい。
ジュリエット像を作るのが容易でなかった大きな原因はやはりパートナーだったろう。ロメオ役のプルミエール・ダンスールのアントワーヌ・キルシャーはアリアーヌ・バヴリエ記者へのインタヴュー(「フィガロ紙」4月10日付)で次のように語っていた。
「ロメオに近づくために、(ヌレエフが振付けるにあたって影響を受けた)『ウエスト・サイド・ストーリー』を見直し、ゼッフィレリの映画を見て、(シェークスピアの)戯曲を読みました。」
入念な準備をして臨んだ舞台だったが、クララ・ムーセーニュにいつも余裕が感じられたのとは違い、動きに安定感がない。見た目にはロメオらしい好青年であるだけに、残念だった。2023年にプルミエール・ダンスールに昇進しながら、今まで主役を踊ることが少なかったことも、原因の一つに挙げられよう。
なお、この晩はキャプレット夫人で心のこもった演技を見せてくれたサラ=コラ・ダヤノヴァ(1984年ジュネーブ生まれ。2006年からスジェ)のアデューだった。長年の功績に対して、終演後ホセ・マルティネーズから花束が送られた。
クララ・ムーセーニュ
© Opéra national de Paris/Julien Benhamou
アントワーヌ・キルシャー
© Opéra national de Paris/Julien Benhamou
レオ・ドゥ・ブースロール(ティバルト)クララ・ムーセーニュ シモン・リュバンス(メルキューシオ)
© Opéra national de Paris/Julien Benhamou
クララ・ムーセーニュ、サラ・コラ・ダヤノヴァ(キャピュレット夫人)
© Opéra national de Paris/Julien Benhamou
4月16日には前回2021年のシリーズではジュリエットを踊ってエトワールに任命されたセウン・パク(2021年7月12日号)とポール・マルクの組を見た。その後、多くの演目で共演を重ねてきたエトワール二人の組み合わせである。
回を重ねた甲斐があって前回に比べ、二人とも人物をよりいっそう細やかに描きこんだ。セウン・パクのテクニックはいつもながら安定していて、軽やかな身体には秘められたエネルギーが感じられた。ポール・マルクも動きに硬さが取れ、ポルテもなめらかになり、安定感が生まれた。ジュリエットの感情の機微が細かな動きに現れ、娘から大人の女性へ、そして悲劇的な死という道行きがくっきりと出た。この組み合わせは録画に選ばれ、映画館で放映される。
日程の都合で見逃したが、日刊紙「レゼコー」の評論家フィリップ・ノワゼットによれば(4月10日付)、シリーズ前半に登場したブルーエン・バッティストーニは「乙女から女性になる年頃の移ろいやすさ」を前面に出し、「トマ・ドッキールと優雅なカップルを構成した。」また、ロクサーヌ・ストヤノフは「強固な意志を持った女性としてのジュリエットを演じ、将来のエトワールとみなされているロレンゾ・レッリと一体感のある踊りを見せた。」
若手ではギヨーム・ジョップ(5月4日)とパブロ・ルガサ(4月30日)という演技力のあるロメオを相手に踊ったホアン・カンも説得力のある演技を見せたという。(「ダンス・アヴェック・ラ・プリュム誌」5月19日付、カリスタ・クロワゼ記者)
ブルーエン・バッティストーニ、トマ・ドッキール
© Opéra national de Paris/Julien Benhamou
セウン・パク、ポール・マルク
© Opéra national de Paris/Julien Benhamou
演劇的な表現について実際に見た舞台の演技に対して多少の留保を付けたが、一筋縄ではいかない主役を踊ることで、ロレンゾ・レッリ、クララ・ムーセーニュ、ミロ・アヴェック、ホアン・カンといった将来を期待されている若手が貴重な経験を積んだことが今回のシリーズの大きな収穫だろう。そして、観客としては「ロメオ『と』ジュリエット」という作品においては、ヒロイン一人では充実した舞台は生まれないことを再確認する機会になった。ドラマの展開においてどんなにジュリエットの役割が大きくても、彼女に応える相手も同じ高みにいなければならない。ワグナーのオペラ「トリスタン『と』イゾルデ」の第2幕第2場でイゾルデが歌っているように、「快い『と』という言葉が結び合って初めて愛の絆は結び合わせられる」のだから。
最後になったが、3度見たカーテンコールでダンサー以上に喝采を集めていたのが、パリ・オペラ座管弦楽団を指揮したロバート・フサールトだった。プロコフィエフの音楽が単なる伴奏ではなく、ドラマの推進役であることを改めて感じさせてくれた。
(2026年4月14、16日 5月9日 バスチーユ・オペラ)
セウン・パク、ポール・マルク
© Opéra national de Paris/Julien Benhamou
セウン・パク、ポール・マルク
© Opéra national de Paris/Julien Benhamou
『ロメオとジュリエット』
振付:ルドルフ・ヌレエフ
音楽:プロコフィエフ
装置・衣装:エジオ・フリジェリオ
照明:ヴィニチオ・ケリ
配役(4月14、16日 5月9日)
ロメオ:ミロ・アヴェック/ポール・マルク/アントワーヌ・キルシャー
ジュリエット:オニール 八菜/セウン・パク/クララ・ムーセーニュ
マキューシオ:シモン・リュバンス/フランチェスコ・ムーラ/シモン・リュバンス
ティバルト:レオ・ドゥ・ビュスロール/ジェレミー=ルー・ケール/レオ・ドゥ・ビュスロール
ベンヴォーリオ:マニュエル・ジョヴァーニ/ジャック・ガストフ/ダニエル・ストークス
ロザリーヌ:クララ・ムーセーニュ/シルヴィア・サン・マルタン/オーベーヌ・フィリベール
パリス:マックス・ダーリントン/アンドレア・サーリ/レミ・ハーリ・アロヨ
キャプレット夫人:ソフィア・ロゾリニ/サラ・コラ・ダヤノヴァ/サラ・コラ・ダヤノヴァ
キャピュレット卿:マチュー・ボットー/ファビアン・レヴィヨン/ファヴィアン・レヴィヨン
乳母:ロール=アデライド・ブーコー/ロール=アデライド・ブーコー/サラ・バルテーズ
モンタギュー夫人:エマ・ブレスト/エマ・ブレスト/エマ・ブレスト
モンタギュー卿:ジャン=マリー・ルド/ジャン・マリー・ルド/ジャン=マリー・ルド
ローラン神父:オリヴィエ・デュカイユー/オリヴィエ・デュカイユー/オリヴィエ・デュカイユー
ヴェローナ公爵:ヴァンサン・ピノー/ヴァンサン・ピノー/ヴァンサン・ピノー
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