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ローラン・プティが中世のパリを背景に欲望と真情、身体と魂とが交錯する世界をダンサーの身体を駆使して活写した『ノートルダム・ド・パリ』

ワールドレポート/パリ

三光 洋 Text by Hiroshi Sanko

Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団

Notre-Dame de Paris Roland Petit
『ノートルダム・ド・パリ』ローラン・プティ:振付

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トマ・ドッキール、ロクサーヌ・ストヤノフ
© Jonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

パリ・オペラ座バレエ団は昨年末にクリスマス公演として12月6日から12月31日まで(19公演)、バスチーユ・オペラでローラン・プティ振付の『ノートルダム・ド・パリ』を上演した。ルイ11世時代のパリを舞台にしたヴィクトル・ユゴーの小説『ノートルダム・ド・パリ』を原作とする2幕13場のバレエである。
第二次世界大戦中にプティ(1924・2011)は、ドイツ軍が迫ってきているパリのシャンゼリゼの映画館に入ったと言う。そこで上映されていたウイリアム・ヴィターレ監督『ノートルダムのせむし男』を他に観客のいない中で見たそうだ。プティは足が不自由で背中の歪んだカジモドに惹かれた。
カジモドはノートルダム大聖堂の鐘守りだが、人々から嘲笑されていた。ノートルダムの副司祭フロロは聖堂前で踊っていた美貌のジプシー娘エスメラルダに心を奪われ、カジモドに彼女を誘拐させようとする。夜のパリ市内をカジモドに追いかけられたエスメラルダは射手隊長のフェブス大尉に救われ、たちまち恋に陥る。一方、射手隊員たちに散々痛めつけられたカジモドは、エスメラルダから一杯の水をもらい彼女の虜となる。居酒屋で愛し合っているフェブスとエスメラルダをのぞき見して嫉妬したフロロは隊長を刺殺する。フロロは逃げ、現場に残ったエスメラルダが捕えられ、裁判で死刑を宣告される。いったんはカジモドがエスメラルダを救い出し、大聖堂に匿われたものの、議会の命令で兵士たちが突入して再度捕えられたエスメラルダは絞殺される。鐘の音が響く中、カジモドが愛した女性の死体を背負って運び去る。
プティは映画を見てから25年後の1965年に、パリ・オペラ座バレエ団のために作品を振付けた。その時にカジモドを主人公として選び、自ら踊った。ちなみに共演者はクレール・モット(エスメラルダ)、ジャン=ピエール・ボヌフー(ヘビュス)、シリル・アタナソフ(フロロ)だった。
初演から60年が過ぎたが、フランス語の文庫本で五百ページを超える物語を、13の場面に凝縮したプティの舞台のインパクトは失われていない。『ノートルダム・ド・パリ』はフランス人なら誰でも読んだことのある話だが、ドラマの展開が明瞭なために約2時間(休憩20分を含む)の間、緊迫感が途切れることがない。会場では小さい子供を連れた家族や外国人の姿も目に付いた。迫力のある群衆場面と主要人物だけのインティメートな場面とが交互することで変化が与えられ、物語がテンポよく進んでいく点も見逃せない。

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ロクサーヌ・ストヤノフ、ジェレミー=ルー・ケール
© Jonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

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ロクサーヌ・ストヤノフ、アントワーヌ・コンフォルティ
© Jonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

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ロクサーヌ・ストヤノフ、アントワーヌ・コンフォルティ
© Jonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

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アントワーヌ・コンフォルティ、ロクサーヌ・ストヤノフ
© Jonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

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トマ・ドッキール、ロクサーヌ・ストヤノフ
© Jonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

この作品の魅力は1960年代のフランスで活躍していた芸術家たちが、集まったことから生まれている。ルネ・アリオが考案した装置はいくつかのベンチ以外には、床には何も置かれていない。最後にエスメラルダの処刑場面で絞首台が引き出されるだけだ。それまでの筋のあるバレエ作品の舞台装置とは一線を画していて、抽象的でモダンだ。
また第1幕第4場において、貧民が集まる「奇跡の広場」でカジモドがエスメラルダを捕まえようとし、フロロがひそかに追跡する夜の場面もせりと階段を組み合わせた空間を利用することによって、細い通りが入り組んでいた中世のパリをよく喚起しており、臨場感にあふれていた。
ダンサーたちの身体を包んでいるイヴ・サンローランの衣装も、作品の大切な要素となっている。エスメラルダがはいている1960年代に流行したミニスカート、教会のステンドグラスにヒントを得て考案された第1幕の群衆たちの色とりどりの服や、第2幕の黒い衣装はそれぞれの場面に固有の雰囲気を与えていた。
ソロダンサーではロクサーヌ・ストヤノフが周囲を圧した。丈の短い白のワンピースで舞台に現れ、両脚でしっかりと立ったキリッとした姿は、聖職者フロロ(トマ・ドッキール)の心を惑わせたエスメラルダによくにあっていた。登場場面でのヴァリエーション、自分を救ってくれた美男の隊長フェブス(アントニオ・コンフォルティ)との居酒屋での熱いパ・ド・ドゥの妖艶さを見せるとともに、息も絶え絶えのカジモド(ジェレミー・ルー・ケール)に水を差し出す時の優しい手つきといった、細部を通じてヒロインの多面性を描いていた。
ジェレミー・ルー・ケールは足が不自由で背中の歪んだ鐘守りに、感情をていねいに込めて踊っていたが、大鐘を鳴らす場面に顕著だったように、かつてニコラ・ル・リッシュのような特異な人物が放つ圧倒的な存在感は希薄だった。
一方、トマ・ドッキールは痙攣したような動きと闇から覗き見する姿によって、聖職者でありながら、エスメラルダに惑わせられているフロロの葛藤を表現していた。しかし、コロナ禍の時に無観客で踊ったマチアス・エイマンによる、人物の心の深淵を垣間見させるような演技には遠く及ばなかった。マチアス・エイマンは今回も出演が期待されていたが、結局、舞台に現れることのないままシリーズが終わってしまった。
コール・ド・バレエは指を大きく開き、両肘を垂直に折り、膝を折り曲げるという定式化された動きによって、群衆の期待や抗議を明示してドラマを盛り上げていた。
フィナーレでは再度、鐘の音が響き、カジモドが愛したエスメラルダの死体を背負い、何度も担ぎ上げては舞台奥へと去っていくところで幕が降りた。中世のパリを背景に、欲望と真情、身体と魂とが交錯するユゴーの世界をダンサーの身体を駆使して活写したローラン・プティの才能には改めて頭が下がった。
(2025年12月7日マチネ バスチーユ・オペラ)

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ジェレミー=ルー・ケール
© Jonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

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ジェレミー=ルー・ケール
© Jonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

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ロクサーヌ・ストヤノフ
© Jonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

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ロクサーヌ・ストヤノフ、トマ・ドッキール
© Jonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

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ロクサーヌ・ストヤノフ、ジェレミー=ルー・ケール
© Jonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

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ロクサーヌ・ストヤノフ、ジェレミー=ルー・ケール
© Jonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

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ジェレミー=ルー・ケール
© Jonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

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コール・ド・バレエ、ロクサーヌ・ストヤノフ
© Jonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

「ノートルダム・ド・パリ」(2幕13場のバレエ)1965年12月11日パリ・オペラ座バレエ団により初演
振付:ローラン・プティ
原作:ヴィクトル・ユゴー
音楽:モーリス・ジャール
装置:ルネ・アリオ
衣装:イヴ・サン・ローラン
照明:ジャン=ミッシェル・デジレ
再演指導:ルイジ・ボニノ
ジャン=フランソワ・ヴェルディエ指揮 パリ国立オペラ管弦楽団

配役(12月7日マチネ)
エルメラルダ:ロクサーヌ・ストヤノフ
カジモド:ジェレミー=ルー・ケール
フロロ:トマ・ドッキール
フェブス:アントニオ・コンフォルティ
第1幕 第1場 狂人たちの祭り
ニコラウス・チュドラン アレクサンダー・マリャノースキ 他
カトリーヌ・ヒギンズ 桑原沙希 沙希他
第2場 教会(ノートルダム大聖堂)
カジモド フロロ
ジュリア・コーガン カトリーヌ・ヒギンズ 桑原沙希 沙希他
第3場 ノートルダム大聖堂前広場
エスメラルダ カジモド フロロ
シュン・ウイン・ラム レミ・サンジェ・ガスナー 他
ジュリア・コーガン カトリーヌ・ヒギンズ 桑原沙希 沙希他
第4場 奇跡の中庭
エスメラルダ カジモド
リラ・パラ ジャン=バチスト・シャヴィニェ 
インディラ・サス マックス・ダーリントン
シュン・ウイン・ラム ニコラウス・チュドラン 他
カトリーヌ・ヒギンズ トスカ・オーバ 他
第5・6場 さらし台 兵士たち
エスメラルダ カジモド フェブス
アレクサンダー・マリャノースキ ナタン・ビッソン 他
トスカ・オーバ ナタリー・アンリ 他
第7場 居酒屋
エスメラルダ フェブス フロロ
アレクサンダー・マリャノースキ ナタン・ビッソン 他
ジュリア・コーガン カトリーヌ・ヒギンズ 他
第8・9場 裁判 絞首台
全員
第2幕
第10・11場 ノートルダム大聖堂の鐘楼
カジモド エスメラルダ フロロ
第12・13場 悪夢 大聖堂への攻撃 死
全員
ダンス部局付メートレス・ド・バレエ サブリナ・マレム
メートル・ド・バレ リオネル・ドラノエ イレク・ムハメドフ
招聘コーチ リュドミラ・パリエロ ギリアン・フィッティンガム ジャン=ギヨーム・バール ルイジ・ボニノ ステファン・ブリヨン
『ノートルダム・ド・パリ』はパテ映画会社とパリ・オペラ座の共同制作で録画された(ミリアム・オイエ監督)

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セウン・パク、フランチェスコ・ムーラ(他日公演)
© Jonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

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セウン・パク、パブロ・ルガサ(他日公演)
© Jonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

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パブロ・ルガサ セウン・パク(他日公演)
© Jonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

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クレール・テセール(他日公演)
© Jonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

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アルビッソン、マルシャン(他日公演)
© Jonathan Kellerman/ Opéra national de Paris

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