クラシック・バレエを距離を置いて眺める視点で巧みに構成された2作品、『アレーナ』と『エチュード』がガルニエ宮で世界初演された
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ワールドレポート/パリ
三光 洋 Text by Hiroshi Sanko
Ballet de l'Opéra national de Paris パリ・オペラ座バレエ団
「Empreintes(刻印)」 Morgann Runacle-Temple & Jessica Wright
"Arena" Morgann Runacle-Temple & Jessica Wright , "Etude" Marcos Morau
『アレーナ』モルガン・リュナクル=テンプル&ジェシカ・ライト:振付(世界初演)『エチュード』マルコス・モロー:振付 (世界初演)
パリ・オペラ座バレエ団は3月11日から3月28日まで(15公演)ガルニエ宮で『刻印』と題したダブルビルをダブルキャストで上演した。
前半はモルガン・リュナクル=テンプル&ジェシカ・ライト振付"Arena"『アレーナ』だった。ロンドンのセントラル・スクール・オブ・バレエでダンスを学んだ二人は、現在「ジェス&モルグス」(Jess & Morgs)という名前のコンビを組んで、映像とダンスを重ね合わせたスペクタクルを発表してきている。2022年に二人がスコティッシュ・バレエ団のために振付け、エディンバラ国際フェスティヴァルで初演された斬新な『コッペリア』はナショナル・ダンス・アウォードのクラシック振付部門の最優秀賞に輝いている。
パリ・オペラ座バレエ団のために二人が初めて振付けた『アレーナ』は40分の作品だ。アレーナと言うと古代ローマの円形競技場が思い浮かぶが、ジェス&モルグスにおいては映画用の撮影舞台という意味だ。女性7人、男性8人のダンサーたちの撮影舞台と舞台裏での動きがローラ・ファルムリーとニナ・セロピアンの操るカメラによりリアルタイムでスクリーンに投射された。ジェシカ・ライトはウェイン・マクレガーのカンパニーで11年間踊っていただけに、クラシックの技術を土台にしたダンサーたちの個性的な動きはなめらかでエネルギーにあふれていた。
撮影舞台に登場した背番号を付けたダンサーたちはみな、自分にカメラや観客の視線を集めようと競い合う。カロリーヌ・オズモンが演じた81番が他を圧倒したかに見えたが、しばらくすると同じ背番号を付けたダンサーが現れ、やがて彼女も全体の中に埋没していった。自分の姿を被写体にしようと躍起になっているダンサーたちを通じて、振付家は自撮りに象徴される現代人の病的なナルシシズムを批判しようと試みたのかもしれない。
問題だったのは実際のダンサーたちの身体と別の角度から撮影されたスクリーン上の映像とが並存し、観客は舞台とスクリーンを同時に目で追わなければならなくなったことだろう。休憩時間に何人もの観客が「目が疲れた」とこぼしているのが耳に入った。それに加え、カロリーヌ・オズモンを筆頭とするダンサーたちの熱の入った踊りにも関わらず、「現代人のナルシシズム批判」という主題ははっきりとした形で舞台に現れていなかった。この二点の問題を抱えながらも、ダンサーの身体を通じて現代社会に対して問いかけようとする視線は独自であり、ヴィジュアルを大事にしてきた振付家らしい、いくつかのきれいな場面が印象に残った。
「アレーナ」カロリーヌ・オズモン イダ・ヴィイキンコスキー アクセル・イボ
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
「アレーナ」カロリーヌ・オズモン バティスト・ベルニエール ローラ・ファムリー
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
「アレーナ」カロリーヌ・オズモン ローラ・ファムリー
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
「アレーナ」カロリーヌ・オズモン ローラ・ファムリー
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
後半はダンサーとして出発せずに、写真と舞台芸術を学んでから振付を行うようになったスペイン人マルコス・モローの『エチュード』(Etude)だった。冒頭、下ろされたままの舞台幕の前にティアラを付けたローレーヌ・レヴィが胸に色褪せた花束を抱えて現れ、カーテンコールで観客に挨拶するエトワールのように、無表情のまま、お辞儀を繰り返した。やがて、同じチュチュに同じ花束を手にしたダンサーたちが次々に現れた。
幕が上がると舞台には赤いビロードの手すりがある円形のバーが置かれ、レッスンに集まったダンサーたちの姿が見えた。天井から降りてくる巨大なシャンデリア、奥のフォワイエ・ド・ダンス、幾何学的に揃ったダンサーたちの列、鏡に映された観客たち、といったガルニエ宮のクラシック・バレエを喚起するイメージが並んだ。ガルニエ宮の華麗さを前面に押し出した美しいシーンの数々とクラシック・バレエを距離を置いて眺める視点で巧みに構成された40分間に観客は時間の経過を忘れた。
クラシックのパを基礎に置きながら、斬新な視点を取り入れた二つの作品には客席から長い拍手が送られた。
(2026年3月19日 ガルニエ宮)
「エチュード」
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
「エチュード」
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
「エチュード」アレクサンドル・ボカラ リュネ・ペニェ
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
「エチュード」ローレーヌ・レヴィ
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
「エチュード」ローレーヌ・レヴィ
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
「エチュード」ナイス・デュボスク
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
「アレーナ」カロリーヌ・オズモン イダ・ヴィイキンコスキー
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
「アレーナ」カロリーヌ・オズモン イダ・ヴィイキンコスキー
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
「アレーナ」山本小春
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
「アレーナ」ローラ・ファムリー エリック・ピント・カタ
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
「アレーナ」カロリーヌ・オズモン
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
「エチュード」
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
「エチュード」
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
「エチュード」ローレーヌ・レヴィ
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
「エチュード」ナイス・デュボスク
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
「エチュード」ユゴー・ヴィリオッティ
© Yonathan Kellerman/ Opéra national de Paris
『アレーナ』(世界初演)
振付 モルガン・リュナクル=テンプル&ジェシカ・ライト
音楽 ミカエル・カールソン
装置 サミ・フェンダル
衣装 アンヌマリー・ウッズ
照明 ダーン・マリー・ウッド
ビデオ ヤコブ・レフ
声 トーマス・ストロッペル (音楽は録音を使用)
『エチュード』
振付 マルコス・モロー
音楽 グスターブ・ルドマン
オーケストラ ブダペスト・スコーリング
装置 マックス・グレンツェル
衣装 シルヴィア・ドラニョー
照明 アンドルー・ファブルガス(音楽は録音を使用)
配役(3月19日)『アレーナ』
81番:カロリーヌ・オズモン
10番:イダ・ヴィイキンコスキー
カメラ操作:ニーヌ・セロピアン
カロリーヌ・オズモン ニーヌ・セロピアン イダ・ヴィイキンコスキー ジュリエット・イレール 山本小春 リュシー・ドゥヴィーニュ
アクセル・イボ アレクサンドル・ガス マリウス・ルビオ エンゾー・ソーガール ナタン・ビッソン バティスト・ベニエール エリック・ピント・カタ ジェレミー・ドゥヴィルダー
配役「エチュード」
ソロ1:ローレーヌ・レヴィ
ソロ2:ナイス・デュボスク
パ・ド・ドゥ:リュナ・ペニェ アレクサンドル・ボカラ
ソロ3:ユゴー・ヴィリオッティ
アリス・カトネ ナイス・デュボスク クレマンス・グロス エリザベス・パーティングトン他
アレクサンドル・ボカラ マチュー・コンタ ニコラウス・チュドリン 他
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