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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2012.05.10]

オファルトとパリエロがエトワールに昇格した『ラ・バヤデール』

Ballet de l’Opéra national de Paris  パリ・オペラ座バレエ団
Rudolf Nureyev "LA BAYADERE" ルドルフ・ヌレエフ振付『ラ・バヤデール』

パリ国立オペラ座バレエ団では2010年5月に続いて再び『ラ・バヤデール』を上演した。3月7日のプルミエから4月15日までという長期にわたった上演で最も注目を浴びたのは、やはり二人のエトワール誕生だろう。初日ソロルを踊ったジョシュア・オファルトに続いて、3月22日にガムザッティ役を踊ったアルゼンチン出身のリュドミラ・パリエロがともにエトワールに昇格した。
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pari1205a06.jpg (C)Agathe Poupeney/Opéra national de Paris

ヌレエフの死までわずか三ヶ月を残した1992年10月の初演以来、二十年間にわたり度重なる再演にも関わらず、この舞台が根強い人気を保っているのはエジオ・フィリジェリオによる壮大な装置とフランカ・スカルチアピーノの衣装というイタリア人コンビによる豪華なヴィジョンによるところが大きい。
色とりどりの衣装が第1幕の巨大なインドの寺院や第2幕の王の宮殿に華やぎを与えた後だけに、第3幕第2場の影の王国での32人のコール・ド・バレエによるアラベスクが斜面を静かに滑り落ち、白のチュチュが闇に浮かび上がる場面がその簡素な美で観客を圧倒した。
3月7日のプルミエ終演後に新たにエトワールに任命されたオファルトにははつらつとした若さがあるが、ニコラ・ル・リッシュのような存在感のあるダンサーへの成熟が期待される。しかしながら、この夜の公演が見ごたえのあるものだったのは、やはりオーレリー・デュポンの存在が大きい。この人が舞台に現れただけで、さっと一抹の清涼感が漂う。腕や肩が流れるような線を描くだけでなく、大バラモンに迫られて当惑するまなざし、奴隷に向ける優しい目、しなやかな指先といった細部に場面ごとのヒロインの心情が丁寧に織り込まれて、全身から清潔な色香が匂いたつ。ソロルがライヴァルのガムザッティの手を取っているのを見て顔色を変えるところなど、表情の豊かさが人物に厚みを与えていた。ドロテ・ジルベールのガムザッティが敵役ながらデュポンと好対照で、二人の対決場面には緊迫した空気がみなぎった。

4月4日はゲストスターのスヴェトラーナ・ザハーロワに観客の視線が集まった。ソロルを見る時のこぼれるような艶やかな微笑や細い腕のしなりから、濃厚な女性らしさが零れ落ち、デュポンとは別の華やぎが感じられた。
気になったのは第3幕のヴェールを被ってのソロルとのアダージョで、相手役のステファン・ブリヨンがザハロワの踊る空間に入ってしまったことだった。カーテンコールでブリヨンに向かって投げかけられた冷ややかな視線は客席にいても凍りつくような思いがした。
この日に客席が一番沸いたのは第2幕のリュドミラ・パリエロの演技だった。ピルエットをはじめとする技術面はもとより、突き刺すようなとげのある視線、つんとした顔の表情、どれをとっても憎々しい敵役になりきっていた。座ってニキヤの踊りを眺めているところでも、全身から敵意が放射されているかのような迫真の演技には思わず身を乗り出さずにはいられなかった。
(2012年3月7日、4月4日 ガルニエ宮)

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   Photos:(C)Agathe Poupeney/Opéra national de Paris

『ラ・バヤデール』
音楽/ルドヴィッヒ・ミンクス 
振付・演出/ルドルフ・ヌレエフ(1992年)
装置/エジオ・フリジェリオ
衣装/フランカ・スカルピアーノ
照明/ヴィニチオ・ケリ
 ファイサル・カルーイ指揮 パリ国立オペラ座管弦楽団
配役 
ニキヤ オーレリー・デュポン/スヴェトラーナ・ザハーロワ
ソロル ジョシュア・オファルト/ステファン・ブリヨン
ガムザッティ ドロテ・ジルベール/リュドミラ・パリエロ
托鉢僧(ファキール) アリスター・マダン
大バラモン ヤン・サイーズ
王(ラジャー) ステファーヌ・ファヴァロン
アイヤ クリスティーヌ・ペルツァー/モード・リヴィエール
奴隷 アレクシス・ルノー/グレゴリー・ドミニアック
金の偶像 エマニュエル・ティボー
マヌーの踊り マチルド・フルステ/オーバーヌ・フィルベール
第3幕ヴァリエーション1 エロイーズ・ブルドン
同2 シャルリーヌ・ギーゼンダンナー
同3 オーレリア・ベレ/ローファンス・ラフォン