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秀 まなか Text by Manaka Shu 
[2010.01.12]

ヌレエフの教えに磨きをかけて、大きな期待を抱かせる男子生徒たち

Ecole de Danse du Ballet de l’Opera National de Paris
パリ国立オペラ座バレエ学校
Démonstrations 「デモンストラシヨン」
Elisabeth Platel 全体指導/エリザベット・プラテル
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12月13、20、23日の3日間に亘り、ガルニエ宮で恒例のパリ・オペラ座バレエ学校の「デモンストラシヨン」が行われた。1977年に前校長のクロード・ベッシーが、それまでヴェールに包まれていたバレエ学校教育の現場を、舞台上での公開授業の形で公開したのである。生徒たちの普段のダンスの授業、すなわちクラシック・バレエ、コンテンポラリー・ダンス、マイム、キャラクター・ダンス、アダージョ、音楽表現などを学年ごとに披露するので、バレエ・ファンのみならず、バレエ学校を志願する受験者やその父兄も多数訪れ、毎年発売後すぐに売り切れる人気公演だ。

現校長のエリザベット・プラテルはベッシーの構成をそのまま引き継いで、今に至っているが、今年は低学年の『くるみ割り人形』の出演のため、20日と23日は午前の部と午後の部が交替した。午前の部が高学年(3.2.1年生)、午後の部が低学年(6.5.4年生)である。毎年、バレエ団の出し物に合わせた伴奏がつき、去年は『ライモンダ』、今年は「バレエ・リュス」。『火の鳥』、『シェエラザード』、『薔薇の精』、『ペトルーシュカ』などがアレンジを変えて何度も演奏され、ピアニストが生徒の士気を上げていることも見逃せないポイントだ。

女子生徒は卒業を控えた1年生も含め、現在のところ際立った人材は見当たらない。毎年とにかく人目を引いていた3年生のカミーユ・クレスタもそれほど目立たなくなってしまったし、メートル・ド・バレエ、ローラン・イレールの次女、バランティーヌ・イレールも留年をして、去年と同じ2年生。現在バレエ団で活躍中の姉、ジュリエットも留年経験があり、留年自体は問題ではないが、昨年までのバランティーヌらしい溌剌とした踊りが影を潜め、精彩を欠いていたことが気にかかる。
 

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レベルが高いのは男子生徒だ。バレエ団でも、現在、男性ダンサーのレベルが高いが、その傾向はバレエ学校にも顕著に現れている。特に、12歳以下のクラス、最小学年6年生の男子生徒には舌を巻いた。オペラ座バレエ学校の方針として、基礎に基礎を重ねて積み上げていくのだが、今年の6年生は粒揃い。このクラスを担当しているベルトラン・バレナ教授も例年より若干難しいアンシェヌマンを与えている。ルルヴェのままの90度のグラン・バットマン、ダブルのピルエットや、シングルのトゥール・アン・レールをあくまで遅いテンポで組み合わせていたが、驚くべきは、その正確さ。微塵の乱れもないパを、プロ顔負けの度胸で披露する生徒がちらほらといるのである。最小学年は全員でアンシェヌマンを披露するものだが、その優秀さを見込んでか、ソロを踊るパートを盛り込んでいたりしたので、教授陣の期待のほどがうかがえた。
 

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学年が上がり、14歳以下、4年生の男子のクラシック・バレエのクラスになってくると、身体つきもしっかりしてきて、パの成熟度の差も歴然としてくる。担当教授は元エトワールのウィルフリード・ロモリ。彼はアンシェヌマンの前に、必ず口頭で説明を入れる。悪い例も交え、端的で分かりやすい説明を提示するのだが、一たびアンシェヌマンを始めると、1回でできる生徒とできない生徒、やろうとしているようにも見えない生徒が一目瞭然だ。3年生に上がるとぐっと人数も減って来るから、この年頃が将来の分岐点となっているのだろう。
17歳以下の2年生の男子生徒も総じてレベルが高い。エリック・カミヨ教授(エリザベット・モーランとローラン・イレールの『くるみ割り人形』の映像をお持ちの方は、ご存知だろう。フリッツ役を演じ、スペインを踊っているのが彼だ。)の作るアンシェヌマンは凝りに凝っていて、毎年へろへろになる生徒が続出するのだが、今年はすいすいこなしている生徒が多い。彼らの中には、2年前の『くるみ割り人形』に出演し、大人顔負けの演技を披露していた生徒も交じっていて、ますます2年後の入団が楽しみになってきた学年でもある。
 

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男子、女子生徒ともに、2、1年生となると、教授陣は敢えて不得手な左側から、アンシェヌマンを始めさせる。クラシックのヴァリアシヨンは右利きの人は右回りだけ、左利きの人は左回りだけですむものが多いが、オペラ座の古典作品の殆どはヌレエフ版だからそうもいかない。生前、舞台数が多かったヌレエフが、自身のウォーミングアップも兼ねて、わざと左右均等の運動量の振付を盛り込んだのだ。確かに多少の不得手はあっても、エトワールを始め、オペラ座ダンサーは、左右万遍なく踊りこなす。プラテル、ガイダ、アルボ、ドワノー、ロモリ、カミヨ、セルッティなど、ヌレエフの薫陶を受けた教授陣で固めたバレエ学校は、ヌレエフの教えを忠実に守っているのである。

クラシック以外にも5年生のマイムのクラス、4年生、3年生のキャラクター・ダンスのクラスなどがあるが、今年は2年生のコンテンポラリー・ダンスに加え、特別に1年生のコンテンポラリーの小品が披露された。何と、最高学年に在籍するフローラン・メラックの自作で、トロント・バレエ学校の50周年記念にオペラ座バレエ学校が参加した際に振付けたそうだ。
男女8人によるシンメトリーに富んだ骨太の構成には大物振付家の片鱗が見え、何とも頼もしい。長身の彼はずば抜けた才能を持ち、5年生から3年生に飛び級で進級した経験もあるが、今年はさらに磨きがかかり、1年生のクラシックのクラスではほぼ一人舞台の状態だった。彼が、バレエ団が求める人材であることは疑いないだろうから、恐らく、今年入団するだろう。
午前の部、午後の部を一気に観ると、5時間近くの長丁場となる。だが、見知った顔の生徒たちが進歩を遂げていく姿を見られると思うと、つい、ガルニエ宮に足を運び、時が経つのも忘れて夢中になって観てしまう。どんなに年が若くても、ダンスへの情熱に溢れた彼らは、既に観客を魅了する術を知っている一流のアーティストなのだ!

Photo:(C)David Elofer
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