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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2010.01.12]

100年前の衝撃を垣間見せたパリ・オペラ座「バレエ・リュス」公演

Ballet de l’Opera National de Paris
パリ国立オペラ座バレエ団
Ballet Russes「バレエ・リュス」
Massine/Fokine/Nijinski マシーン/フォーキン/ニジンスキー

『ばらの精』Le spectre de la rose
最初の『ばらの精』は2009年にエトワールに揃って昇進したシャラヴォラとエイマンが踊った。濃紺の闇に沈んだ少女の寝室。左手にハープ、中央にソファ。昨日の舞踏会で送られたバラを肘掛け椅子に座った少女が胸元から取り出すが、力なく床に落とす。細い指先は夢とともに時間をさかのぼって落ちていく。やがて、ばら色の衣装の精が登場し、少女はうっすらとまぶたを開ける。そのまなざしはこの作品にインスピレーションを与えたテオフィル・ゴーチエの詩に描かれた夢見がちな少女そのもの。柔らかな肘の動き。スカートの先から出た交差した足先の角度! 最後、両手を口元にかざしてバラの香りを嗅ぐところで幕となる。
エイマンのバラの精は実に軽々と飛翔して、香りそのものと化したかのようだった。ちょうど百年前にニジンスキーが初演した時は、あまりにも女性的な男性の踊りにセンセーションを起こしたというが、同性愛者が結婚する今となっては、およそスキャンダルからは程遠く、ただただロマンチックな一幅の絵となっていた。

音楽/カール・マリア・フォン・ウエーバー
振付/ミハイル・フォーキン
装置・衣装/レオン・バクスト
バラの精/マチアス・エイマン
少女/イザベル・シャラヴォラ

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『牧神の午後』L’apres-midi d’un faune
舞台前面だけの細長い空間に、岩が置かれている。レオン・バクストの装置と衣装はいまだに強烈なインパクトを失っていない。岩の上というきわめてかぎられた空間でまだ女性を知らぬ牧神はエロスを夢見ている。ニンフが落としていったショールを抱きながら、自分の内部から沸いてくる肉体の欲望に全身で反応する。牧神役にはじめて挑んだニコラ・ル・リッシュは存在感にあふれていたが、ぎらぎらした欲望という点ではニジンスキーにはもっと野性味があったのではないかという想いが頭をかすめた。

音楽/クロード・ドビュッシー
振付/ヴァツラフ・ニジンスキー
装置・衣装/レオン・バクスト
牧神/ニコラ・ル・リッシュ
ニンフ/エミリー・コゼット

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『三角帽子』Le Tricorne
ドビュッシーのフランスから一転して、ファンファーレが鳴り響き、闘牛のスペインがピカソの装置と衣装であらわれた。きびきびしたマルティネーズの動きはさすがにスペイン人ならではのものだろう。粉屋の女房役のマリ=アニエス・ジロは血の熱いスペイン女性の嫉妬深さを痛烈に感じさせた。ファブリス・ブルジョワは老役人のこっけいぶりを巧みに演じていた。
哀愁をたたえたメゾ・ソプラノのアンドレア・ヒルは若い張りのある声でデ・ファリャのローカルカラー豊かな旋律の魅力をよく伝えていた。

音楽/マニュエル・デ・ファリャ
振付/ミハイル・フォーキン
装置・衣装/パブロ・ピカソ
メゾ・ソプラノ/アンドレア・ヒル
粉屋/ジョゼ・マルティネーズ
粉屋の女房/マリ=アニエス・ジロ
老役人/ファブリス・ブルジョワ

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『ペトルーシュカ』Petrouchka

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後半の『ペトルーシュカ』は悪魔がクレムリンらしい宮殿の上空を飛ぶ幕絵がかかり、木製の観覧車がまわるロシアの縁日で展開する。色とりどりのリボンを手にした女たちの華やいだ群舞がお祭りの雰囲気を盛り上げる。
クレールマリ・オスタが踊ったバレリーナに恋しながら、相手にされず、挙句の果てには恋敵のムーア人(ヤン・ブリダール)に袋叩きにあうペトルーシュカのみじめな境涯が、バンジャマン・ペッシュのゆがんだ表情と逃げ腰の立ち姿にありありと形象されていた。
4つの筋も音楽も全くトーンの異なる作品を通じて、一世紀前にロシア・バレエがパリにもたらした衝撃を垣間見ることができた夕べだった。

音楽/イゴール・ストラヴィンスキー
振付/ミハイル・フォーキン
装置・衣装/アレクサンドル・ブノワ
ペトルーシュカ/バンジャマン・ペッシュ
バレリーナ/クレール=マリ・オスタ
ムーア人/ヤン・ブリダール
詐欺師/ステファン・ファヴァロン
演奏ヴェロ・ペーン指揮 パリ国立オペラ管弦楽団
(2009年12月15日 ガルニエ宮)

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Photo:(C)Sebastien Mathé/ Opéra national de Paris
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