ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2009.12.10]

フォーレ、ストラヴィンスキー、チャイコフスキーの『ジュエルズ』、溜息をつく美しさ

BALLET de l'Opera de Paris
パリ国立オペラ座バレエ ガルニエ宮
GEORGE Balanchine : Joyayx
ジョージ・バランシン振付『ジュエルズ』

「エメラルド」Emeraudes
音楽/バブリエル・フォーレ『ペレアスとメリザンド』『シャイロック』

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ともかく晴れやかな舞台である。バランシンはニューヨークの5番街を歩いていて、街路にずらりと並んでいる宝飾店を眺めていた。そして、ふと、彼が何より愛した女性たちと世界を代表する3つのバレエの都(パリ、ニューヨーク、サンクトペテルスブルク)へのオマージュを作りたいと創作意欲を掻き立てられたのが、この3部作の原点だという。
1980年代の半ばからパリ国立オペラ座バレエ団の衣装を何回か手がけてきたクリスチャン・ラクロワが、「オートクーチュールの創造者としてではなく、作品初演から30年間の伝統を踏まえ、それを支えた人々のメッセージと遺産を謙虚に受け止めることで衣装を再創造した」ものという。
「宝石」を芸術手段によって表現した作品としては、パリ国立オペラ座が昨年日本で上演したポール・デュカスのオペラ『アリアーヌと青髭』が思い出させる。デュカスは青髭王の秘密の扉の向こう側に隠されていたアメジスト、サファイア、真珠、エメラルド、ルビー、ダイアモンドの6つの宝石を楽器の音色を巧みに組み合わることで鮮やかに音声化した。シルヴァン・カンブルラン指揮のパリ国立オペラ座管弦楽団の卓越した演奏が日本でも高く評価されたことは記憶に新しい。

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さて、『ジュエルズ』第1部の「エメラルド」は詩情あふれるガブリエル・フォーレの旋律に乗ってフランスのロマンティック・バレエの世界が繰り広げられる。『ペレアスとメリザンド』と『シャイロック』は身体と顔の表情を使って音楽を視覚化しようとしたバランシンが、愛好する多くのフランス人作曲家の曲から選んだ。1924年にパリに着いた若きバランシンが亡くなる数ヶ月前のフォーレに会い、いつかこの人の音楽に振付をしたいと心に決めたという。
幕が上がってダンサーがあらわれた途端に周囲の女性客からため息がもれた。ジェニファー・ティプトンの照明の流れるような柔らかな緑の光に包まれて、ヴィロードの胴着と飾り縫いした繻子のボディスに、ナイル緑の長いチュチュがロマンチックなイメージを盛り立てた。
マチュー・ガニオの優雅な立ち姿に夢見るような甘い柔らかな視線は、中世の城から現れた王子そのもの。メランコリックなオーボエと弦のピチカートにぴたりと寄り添ったメラニー・ユレルのさざ波が立つような小刻みなポワントは、『ジゼル』のウィリーたちを連想させた。
第2ソロは「シシリエンヌ」のフルートとハープのアルペッジオに合わせ、初々しい表情のエヴ・グランスタインがのびやかに腕を宙に漂わせた。第2バ・ド・ドゥで彼女が見せた夢見がちな少女のまなざしと流れる視線は音楽によくあい、パートナーに全身を委ね切ったゆったりした流麗な動きもあいまって、『ジゼル』の世界そのものではないかと思わせた。
グルノーブルとモンペリエの地方巡業でたっぷり足慣らしをしてきたためか、群舞のダンサーの準備不足が指摘された前回の『ジゼル』公演と異なり、全員の息がぴったりと合って、対角線の動きや鳥の飛翔にも似た軽々としたムーブメントが展開されていた。

  • (キャスト)
  • プレリュード/マチュー・ガニオ、メラニー・ユレル
  • 第1ソロ/メラニー・ユレル
  • 第2ソロ/エヴ・グランスタイン
  • パ・ド・トロワ/ミリアム・ウルド=アラアム、ミュリエル・ズュスペルギ、エマニュエル・ティボー
  • 第1パ・ド・ドゥ/メラニー・ユレルとマチュー・ガニオ
  • 第2パ・ド・ドゥ/エヴ・グランスタインとヤン・ブリダール
  • スケルツオ 全員
  • モルト・アダージョ/メラニー・ユレル マチュー・ガニオ エヴ・グランスタイン ヤン・ブリダール ミリアム・ウルド=アラアム、ミュリエル・ズュスペルギ、エマニュエル・ティボー


「ルビー」Rubis

音楽/ストラヴィンスキー『ピアノと管弦楽のためのカプリッチオ』
ピアノ/クリスティーヌ・ラニエル

第2部「ルビー」はシンコペーションを効かせたストラヴィンスキーの音楽が流れ、雰囲気ががらりと変わる。
深紅色のカマユーのムスリーヌに紫の真珠の雫がこぼれ、繻子とヴィロードの淡紅色の衣装が黒を背景にくっきりと浮かび上がった。
バトンガールの行進やキャバレーのレヴューを思わせる、一見、底抜けに明るい活力にあふれた誇張されたアクロバティックな動き(4人の男性ダンサーがドロテ・ジルベールの足を四方八方にあたかも自動人形を操るかのように引っ張る部分は圧巻だ)が特徴的だが、ストラヴィンスキーはその裏にアイロニーをそれとなく滑り込ませている。ドロテ・ジルベールとアレッシオ・カルボーネのコンビは茶目っ気のある視線といたずらっぽい表情が切れのよい動きが調和して、リズミカルに自然にブロードウェイ風のイメージが喚起された。

  • (キャスト)
  • ソリスト/ドロテ・ジルベール、アレッシオ・カルボーネ、ステファニー・ロンベルク
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「ダイアモンド」Diamants 
音楽/ピヨトール・チャイコフスキー『交響曲第3番』

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休憩後の第3部「ダイヤモンド」の幕が開くと思わず客席から拍手が沸いた。
青を背景に銀のレースにさまざまな宝石を散りばめたチュールの衣装、装置は宙づりになった宝石の断片が銀河を描いて、観客は一挙にバランシンの故郷サンクトペテルスブルクへと誘われた。
振付家にとって、チャイコフスキーは音楽とダンスを結ぶ架け橋だったという。最初のワルツが流れると、『白鳥の湖』そのものの白銀の群舞が目を奪った。ベテランらしい余裕にみちたマルティネスと華やぎのあるアニエス・ルテスチュによるアラベスクも忘れられない。ロシア帝国時代のマリインスキー歌劇場の舞台もかくやと思わせる華麗そのものの瞬間だった。

  • (キャスト)
  • ソリスト/アニエス・ルテステュ ジョゼ・マルティネス

(2009年11月8日昼/写真は他日公演のものです)

『ジュエルズ』
振付/ジョージ・バランシン(1967年)パリ国立オペラ座バレエ団レパートリー(2000年12月)
装置・衣装/クリスチャン・ラクロワ
照明/ジェニファー・ティプトン
演奏/ケヴィン・ローデス指揮パリ国立オペラ管弦楽団

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Photo:(C) Agathe Poupeney/Opera national de Paris
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