ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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三光 洋 Text by Hiroshi Sanko 
[2009.10.13]

セミオノワ、シムキン他が華やかに踊った「21世紀のエトワール・ガラ」

THEATRE DES CHAMPS-ELYSEES
シャンゼリゼ劇場
GALA DES ETOILES DU XXLEME SIECLE
「21世紀のエトワール・ガラ」

パリの秋のシーズン開け恒例となった「21世紀のエトワールガラ」が今年もシャンゼリゼ歌劇場で行われた。
6組12人のエトワールがパ・ド・ドゥとソロを踊る「顔見世」だが、装置が一切ない舞台でさわりだけをコンテキストなしで取り上げる。それだけに衣裳と照明、音楽の助けだけで作品の核心を突かなければならない。ダンサーの力量そのものが問われることになる。
プログラムに掲載された「エトワールとは何か」という文章で、アリアーヌ・ドルフュスは「エトワールとは身体の雄弁である」と書いているが、12人の誰もが、見ごたえのある「身体の雄弁」を見せてくれた。

まず全プログラムをご紹介しよう。
第1部

  • アシュレー・パージュ振付 チャイコフスキー音楽『眠れる森の美女』パ・ド・ドゥ
    スコティッシュ・バレエ団 ソフィー・マルタンとアダム・ブライド
  • レオ・ムジッチ振付 ディートリッヒ・ブクステフーデ作曲『L.V.E.K.』(世界初演)
    ベオグラード国立バレエ団 アンナ・パヴロヴィッチとアンドレイ・クルチェリユ
  • マリウス・プティパ振付 リッカルド・ドリゴ音楽『海賊』
    ベルリン国立バレエ団 ポリーナ・セミオノワとディミートリー・セミオノフ
  • イリ・キリアン振付 アレッサンドロ・マルチェッロ音楽『ベラ・フィギュラ』(抜粋)
    ネーデルランド・ダンス・シアター(NDT) シルレー・エスボーンとイヴァン・デュブルイユ
  • マリウス・プティパ振付 チャイコフスキー音楽『白鳥の湖』第2幕のパ・ド・ドゥ
    ミュンヘン・バレエ団 ダリア・シュホルコーヴァとマーロン・ディノ 
  • ベン・ファン・コーヴェンヴェルク振付 ジャック・ブレル音楽『レ・ブルジョワ』
    アメリカン・バレエ・シアター ダニエル・シムキン


第2部

  • マリウス・プティパ振付 ルートヴィヒ・ミンスク音楽『パキータ』パ・ド・ドゥ
    ベオグラード国立バレエ団 アンナ・パヴロヴィッチとアンドレイ・コルチェリユ
  • クリストフ・パストール振付 バッハ音楽『アリア』(『光と影の中で』抜粋)
    スコティッシュ・バレエ団 ソフィー・マルタンとアダム・ブライド
  • マリウス・プティパ振付 アレクサンドル・グラズノフ音楽『ライモンダ』夢のパ・ド・ドゥ
    ミュンヘン・バレエ団 ダリア・シュホルコーヴァとマーロン・ディノ
  • ロランド・ダレシオ振付 ペーター・シントラー音楽『コメ・ネーヴェ・アル・ソーレ』
    ベルリン国立バレエ団 ポリーナ・セミオノワとディミートリー・セミオノフ
  • イリ・キリアン振付 チャールズ・アイブス音楽『Whereabouts Unkown』(抜粋)
    ネーデルランド・ダンス・シアター シルレー・エスボーンとイヴァン・デュブルイユ
  • マリウス・プティパ振付 ルートヴィヒ・ミンスク音楽『ドンキホーテ』パ・ド・ドゥ
    ベルリン国立バレエ団 ヤナ・サレンコとアメリカン・バレエ・シアター ダニイル・シムキン
  • ナディア・ヴェセォヴァ振付 チェザーレ・プーニ音楽『ファイナル・デフィレ』
    ダンサー全員


今年の特徴はネーデルランド・ダンス・シアター(NDT)、スコティッシュ・バレエ団という国外で活躍しているフランス人若手ダンサーが参加したことにあった。NDTの二人は1,2部ともにキリアンの振付で踊ったが、それ以外のダンサーたちはクラシックとコンテンポラリーの両方の作品を踊っている。

最初の『眠れる森の美女』パ・ド・ドゥは、ソフィー・マルタンとアダム・ブライド二人の動きの流れがわずかにも途切れることのない、あくまでもしなやかな動きに目を奪われてうちに終わっていた。
レオ・ムジッチ振付『L.V.E.K.』(世界初演)は、左手の袖からアンナ・パヴロヴィッチが中央に進み、幕を叩くところから始まる。
対位法を駆使した緻密な作曲家として21世紀に入ってから急速に評価が高まっているディートリッヒ・ブクステフーデの音楽を使い、二人のダンサーをコントルポワン(カウンターポイント)で二つの旋律が対するように組み立てられた興味深い作品である。ベオグラードはバルカン半島のセルビアというヨーロッパとオリエントとがせめぎあった長い歴史を持つ国の首都であり、パリやウィーン、ミラノといった欧州都市にはない独自のカラーがある。ベオグラード国立バレエ団の舞台は残念ながら、まだ観たことがないがパリやドイツなどのダンサーとは一味違う雰囲気が二人のエトワールに感じられた。

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マリウス・プティパ振付『海賊』では、まずクラリネットのソロに乗ったポリーナ・セミオノワの指先の動きに「ぽーっ」となった。踊り手の先端に位置する長い人差し指だけで、ヒロインの周囲に華やいだ空気が立ち込めた。対するディミートリー・セミオノフは臙脂の衣裳をまとい、切れ味のよい、どんなに速い動きでもゆとりをみせ、威風堂々たる海賊ぶりだった。セミオノワはピルエットで顔が正面を向くたびに表情、視線が変わる豊かな表現力をみせた。
ムーヴマンの圧倒的なスケールの大きさと滑らかで優雅さとが同時に体感されて、この二人の全幕をぜひ見たい、と思った。
イリ・キリアン振付の『ベラ・フィギュラ』では舞台は一転してコンテンポラリー・ダンスとなった。シルレー・エスボーンとイヴァン・デュブルイユの『海賊』とは全く異なる身体語法が、当然だが観客の目に新鮮に映った。全体に照明を落とした闇と光の対照が基調となっており、舞台袖から水平に投げかけられた光に向かって二人が歩むところで終わった。すべてが内面化されたためにかえって緊迫感が増したと思われる。

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マリウス・プティパの『白鳥の湖」第2幕のパ・ド・ドゥは、大きな身体が描くゆったりしたスケールのある動きの中に、チャイコフスキーが音符に込めた人物の感情が大切に込められていた。ダリア・シュホルコーヴァの抜けるような白い顔に刻まれた哀愁は、それだけで白鳥そのもので、弦楽器のトリルに合わせて小刻みに揺れる足先の表情とぴたりと重なっていた。 
ここでダニエル・シムキンがネクタイにYシャツ、めがねといういでたちで登場。2007年のガラ公演に初出場し、一晩でパリのバレエファンを魅了し、フランスのバレエ批評家から「バリシニコフの再来」と讃えられた。小柄なシムキンはジャック・ブレルの音楽に乗って、コミカルに『レ・ブルジョワ』を踊るというよりも、演じ切った。ともかく足の先から頭まで身体のすべてが自由に動き、自在な跳躍をみせる。ブレルの台詞がまるで映画の字幕のように感じられた。

休憩の後、第2部はベオグラード国立バレエ団のアンナ・パヴロヴィッチとアンドレイ・コルチェリユによるプティパの『パキータ』パ・ド・ドゥで始まった。シムキンの直後とあって19世紀風のクラシック・バレエという印象でしたが、アンナ・パヴロヴィッチの他の女性ダンサーにはない、オリエント風の視線には奇妙な存在感があった。  
スコティッシュ・バレエ団の若手ソフィー・マルタンとアダム・ブライドによるバッハの音楽を使った『光と影の中で』から抜粋した「アリア」に続いて、プティパの『ライモンダ』の夢のパ・ド・ドゥがミュンヘン・バレエ団のペアにより踊られた。白と金の華麗な衣裳をまとったダリア・シュホルコーヴァが持つ華やぎは優雅そのもので、クラシック・バレエのいつまでも色褪せない魅力の結晶である。
ロランド・ダレシオ振付『コメ・ネーヴェ・アル・ソーレ』はピンクのシャツに黒のパンツという衣裳で、大柄なポリーナ・セミオノワとディミートリー・セミオノフが相手のシャツをつかんでは引っ張る、というコミカルな動きと意表をつく照明に客席が沸いた。 
次はイリ・キリアンがチャールズ・アイブスの音楽をバックに振付けた『Whereabouts Unkown』の抜粋。シルレー・エスボーンとイヴァン・デュブルイユの二人が闇の中を光に向かって進むのですが、照明の効果もあって地底でうごめいているかのような、不気味さがひしひしと伝わる興味深い作品だった。
ラストはベルリン国立バレエ団のヤナ・サレンコとアメリカン・バレエ・シアターのダニエル・シムキンのペアによる『ドンキホーテ』のパ・ド・ドゥ。シムキンのピルエットは速度、安定感のいずれを取っても破格。手にした扇子を使いながら舞うサレンコとも息がぴったりと合って、音楽にあわせて客席から手拍子が沸き起こり、あちこちから口笛が聞こえた。
「単に輝いているのではなく、見る人の視線を奪いつくすのがエトワール」だとプログラムに書かれていたが、このペアにはぴたりと当てはまった。
フィナーレの「デフィレ」はダンサー全員が次々に登場し、カーテンコールの役割も果たしていたが、やはりシムキンとサレンコ、セミオノワとセミオノフの二組が人気をさらった。全体で2時間を越える公演だったが、飛び抜けた技量と表現力を持つダンサーに目を奪われ、快い疲労を覚えながら劇場を後にした。
(2009年9月20日 シャンゼリゼ劇場/Photo:(C)Opera de Berlin / (C)Opera de Munich)