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斎藤 珠里 text by Julie Saito 
[2008.12.10]

BALLET DE L'OPERA LYON リヨン・オペラ座バレエ公演から
AHGELIN PRELJOCA : ROMEO et JULIETTE

アンジュラン・プレルヨカーユ振付:『ロメオとジュリエット』

 リヨン・オペラ座バレエで11月6~15日、同バレエ団によって1990年12月27日に初演されたプレルヨカーユの最高傑作のひとつ『ロメオとジュリエット』が上演された。

 同バレエ団について簡単に紹介しておくと、ユーゴス・ルコス舞踊監督が就任して以来、20年以上にわたって公演しているレパートリーは、現代の気 鋭振付家による70作品(うち35作品が世界初演)ばかり。プティパの『白鳥の湖』や『ジゼル』などクラシックおよびロマンティック・バレエは上演してい ない。ルコス舞踊監督は、同団レパートリーを以下のように大別する。

★ポストモダン・アメリカン派・・・トリシャ・ブラウンやビル・T・ジョーンズ、ラルフ・レモンなど。
★動きのパレット派・・・イリ・キリアン、マッツ・エック、ウィリアム・フォーサイス、ナチョ・デュアートなど。
★造形的なアプローチ重視派・・・フレデリック・フラマン、フィリップ・ドゥクフレ、マチルド・モニエなど。
★演劇的な手法・・・マギー・マランの『シンデレラ』、プレルヨカーユの『ロメオとジュリエット』、ドミニク・ボアヴァンの『くるみ割り人形』など。

 プレルヨカーユは、シェークスピア原作の『ロメオとジュリエット』をロマンティックな悲劇と位置づけず、現代にもなお存在する社会の歪であること に着眼している。設定では、ロメオは街のごろつき集団、ジュリエットは街の圧政者の集団に属している。被支配者階級のロメオと支配者階級のジュリエットと いう対比のなかで繰り広げられる男女の悲話なのである。私は2001年にもリヨン・オペラ座ですでに同作品を見たし、販売されているビデオでも見たが、私 が今回みた舞台では、さらにプレルヨカーユのメッセージが色濃く反映されていたと感じた。

  最初の理由は、配役だ。ジュリエットが長身で均整がとれ、ボーイッシュな雰囲気のカーリン・マリオン、ロメオは小柄でずんぐりむっくり、髪が薄いハリス・ ゲカスだった。身長差でもジュリエットの方が大きく、なぜこの風采の上がらないロメオを選んだのか、と解せないほどである。しかし、この配役によって二人 の所属階級の差は顕著になり、ブルジョワ階級で窮屈な思いをしていたジュリエットが、下層階級のロメオの肩肘張らない生き方に憧れ、社会の枠組みを超えて 愛することで解放感、自由を手に入れようと感じさせるものがあった。

 第二の理由は、ジュリエットとロメオが出会う場面で、振付に小さな改定がみられたことだ。ジュリエットのキャピレット家で開かれた舞踏会に迷いこ んだロメオたち。男性たちの踊っている場面に、ジュリエットほか女性ダンサーが入ってきて、自分の踊るパートナーを"品定め"をする設定になっている。 ジュリエットが行きついた先は、もちろんロメオ。ロメオはジュリエットの腕をとって自分の背中で交差させようとするが、だらりと力なく腕が下に落ちる。何 度かその動作を繰り返すことによって、二人が永遠に(現世では)結ばれない関係であることが提示されるのだ。この動作はモチーフとなって作品の中で使わ れ、最後の墓場でのデュエットでは強烈なインパクトを与えることになるが、冒頭でこのモチーフを伏線として効果的に見せたのは、少なくとも 2000~2001年シーズンでの上演、ビデオにはなかった。

 最終場面、ロメオはジュリエットが死んだと信じ、手首を切って自殺する。その直後に息を吹き返したジュリエットは、死んだロメオの脚を伸ばした格 好で椅子にもたれかけさせ、その腹部あたりに向かって飛び込んでは、ロメオの脚の上を、すべり台のようにごろごろと床にころがり落ちる。何度もその動作を 繰り返すことでジュリエットは悲しみを体当たりで表現するのだ。この振付を見ていて、サシャ・ワルツが昨年、ベルリオーズ作曲『ロメオとジュリエット』に 振付けたパリ・オペラ座バレエの公演を思い出した。ワルツの振付では、ロメオが斜めにそびえる壁(立ちはだかる社会の壁)を何度も駆け上がっては転がり落 ちる、という動作が繰り返された。

 今回、改めてプレルヨカーユの『ロメオとジュリエット』を観て、二人の関係で常に主導権をとっているのがジュリエットであることに気づかされた。 社会と戦う女性へのオマージュなのかもしれない。ならば、むしろ『ジュリエットとロメオ』と命名すべきだったのではないかと思わせられた。
同オペラ座は来年3月22~29日、マッツ・エックの「ジゼル」を上演する。
(2008年11月15日、リヨン・オペラ座)