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斎藤 珠里 text by Julie Saito 
[2008.08.11]

LES ETES DE LA DANSE DE PARIS AU GRAND PARIS パリ夏のダンス・フェスティバル グラン・パレにて

LES GRANDS BALLETS CANADIENS DE MONTREAL レ・グラン・バレエ・カナディアン公演

 日本ではまだ知名度が低いが、カナダ・ケベック州ケベック市を拠点に斬新な作品の上演に精力的に取り組むレ・グラン・バレエ・カナディアンが7月 21日~8月9日、グラン・パレで開催された「パリ夏のダンス・フェスティバル」で3つのプログラムを上演した。これはケベック市政400周年を記念して のツアーともなった。

公演日程と内容は以下のとおり。
プログラム1:7月21~26日、オハッド・ナハリン振付「マイナス1」
プログラム2:7月29~8月2日、ディディ・ヴェルドマン振付『Toot』、Stijn Celis振付『結婚』、イリ・キリアン振付『6つのダンス』
プログラム3:8月5~9日、マウロ・ビゴンゼッティ振付『四季』『カンタータ』

『マイナス・ワン』

  パリ夏のダンス・フェスティバルは今年で4度目。初回のサンフランシスコ・バレエを皮切りに、アルヴィン・エイリー・アメリカン・ダンスシアター、 キューバ国立バレエ団と続いたが、今回は、フランスでの知名度にも関係するのか、入りは7割程度。ヴァカンス真っ只中で外国人観光客の姿が目立ち、客席で は英語やドイツ語が耳に入った。しかし、円安ユーロ高のご時勢とあって、街中で日本人観光客は激減、客席でもほとんど見かけなかった。

 レ・グラン・バレエ・カナディアンは今年で設立52年目。『ジゼル』などの古典作品も上演するが、キリアンやマッツ・エック、ナチョ・ドゥア ト、オハッド・ナハリンといった振付家のコンテンポラリー作品を多数レパートリーに取り入れている。特に2000年に就任した芸術監督グラディミール・パ ンコフの下、委嘱作品も多い。ダンサーはカナダ人を中心に、アメリカ、フランスの出身者も少なくない。プレミア・ソリストに児玉北斗と木田真理子、ソリス トに中村恵理がラインアップされた日本勢のプレゼンスは大きい。

  前置きが長くなってしまった。話を公演に戻そう。イスラエルを代表するバトシェバ舞踊団を率いる振付家オハッド・ナハリンの「マイナス1」は、ナハリンがこれまで発表した7つの作品を組み合わせたコラージュで2002年、モントリオールで初演された。
 冒頭に上演されたのは、衝撃的な『ザチャチャ』(1998年)。舞台に半円形に並べられた30個もの椅子に、黒いスーツに白いシャツ、黒い帽子というユ ダヤの正装をした男女ダンサーが座り、強烈に鳴り響くパーカッションをバックに合唱を始めた。これはユダヤ教で最も重要な「過ぎ越し祭」で歌う数え歌なの だという。

『マイナス・ワン』

  一節を歌い終わると、舞台に向かって左手から右手へ一人ずつ順番に身体を伸ばしてうずくまる、といった振りを波動で見せてゆく。そしてまた合唱、歌い終 わると同時に、先の振りに新たな振りが加わり、次第に身体表現も過激さを増してゆく。後半は靴や洋服を脱ぎ捨て中央に投げ捨てるという展開に発展、真ん中 に詰まれてゆく衣服の山に、ダンス評論家の乗越たかおさんが「ナチス時代の強制収容所を連想させたりもする」とコメントするほどの緊張感を生む。言い忘れ たが、ウェーブ状にダンサーが同じ振りを連動させてゆくのだが、最後の一人だけは他のダンサーのように椅子に座りなおすのではなく毎回、床にばたっと崩れ るように伏せる---。「マイナス・ワン」という作品タイトルに呼応させていたのだろうか。のっけから、粒のそろったスピード感、身体の柔軟性に圧倒され た。
 客席が静まり返ったのだが、その後、次々に上演された作品にはかなりバラつきがあった。どれも、一つひとつはよく出来ているのだが、パンクロック調の黒 レザーの衣装をつけた女性だけの挑発的なダンスがあったかと思えば、アイルランド民謡を使った男女のコミカルなデュエット、男性5人による儀式めいたパ フォーマンス、観客の参加でつくるタンゴ、ミュージカル『コーラスライン』のダンサー紹介もどき作品・・・と、盛りだくさん、まるでちゃんこ鍋なのだ。
 どのダンサーも力量十分、身体機能も表現力も申し分ない。オハッド・ナハリンの鬼才ぶりも十二分に見せつけられただけに、「マイナス・ワン」のそのほかの作品群が雑然としていたのは残念だった。
(パリ、グラン・パレ 2008年7月26日)