ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Paris <パリ>: 最新の記事

From Paris <パリ>: 月別アーカイブ

斎藤 珠里 text by Julie Saito 
[2008.07.10]

THEATRE NATIONAL DE CHAILLOT  シャイヨー劇場から

William Forsythe avec The Forsythe Company: DECREATION
ウィリアム・フォーサイス振付、フォーサイス・カンパニー公演:『デクリエーション』

 パリ・シャイヨー劇場のサル・ジャン・ヴィラーで6月19~21日、フォーサイス・カンパニーがウィリアム・フォーサイス振付作品『デクリエーション』 を公演した。初演は2003年4月、フォーサイスが芸術監督を務めていたフランクフルト・バレエ団によって発表された。当時のメンバーに島地保武などの新 メンバーを加えたフォーサイス・カンパニーが同作品をどのように再演するのか、注目が集まった同公演を20日に観た。

『デクリエーション』

  テーマは、男女の愛憎と嫉妬----、自分に対する相手の気持ちを確かめるセリフを吐いては突き放し、罵倒し、傷つけあう。暴力的なまでの精神的な葛藤 が、言葉と身体表現によって否応なく繰り広げられる。ニューヨーク出身のフォーサイスならではの、ウディ・アレンの映画にも通じるインテリ受けするアプ ローチだ。

 冒頭シーンで踊るのは、安藤洋子。華奢な身体が傾いて、かくかくと膝から折れて地に崩れてゆく様が、この作品のメッセージを暗示する。

 セリフの中で頻繁に聞かれた言葉は、「Trust」、つまり「信じる」。愛には問題が多い・・・というナレーションの前置きに続いて、男が女の目の中を 覗き込むようにして尋ねる、「本気?」。その答えを瞳の中に感じ取った男は、冷たく女にこう言い放つ、「冗談だよ」。侮蔑に満ちた嘲笑を受けて、女は背中 をくるっと向ける。とはいえ、作品全編で「I love you」が聞こえてくる。相手を信じたくても信じられず、信じていいのかもわからず、相手を求めたい気持ちは抑えられず----。痴話喧嘩の形を借りては いたが、病める現代の男女像を映し出していた。

 途中には、笑いを誘うようなコミカルなやりとりや、メンバーのアンデル・ザバラがプロ顔負けの歌のショーを披露してくれて一息つけたが、全体には残酷な ほど女性に対する嗜虐的な場面が多く、途中で席を立って帰った客も少なくなかった。特にエンディングでは、丸テーブルの上に乗せた女性を、下からランブの 火で炙り、女性の顔や身体に煤がついてゆく、という壮絶を極めたものだった。

 それでも客席にいた元フランクフルト・バレエ団団員は、初演と比べて「ダンサーの一人ひとりに表現の余裕が生まれたように感じた」と話した。一方、 フォーサイス・カンパニーに所属して2年が経つ島地保武は「精神的にも、かなり過酷な作品。今まで認めたくなかった自分自身をも発見してしまうような恐怖 を感じた」という。そうしたダンサーの内なる声、意識下の中に眠っていた意識を引き出すところにフォーサイスの創作の原点があるようだ。島地もこう話して くれた。「フォーサイスがダンサーを褒めるときって、まさに予想外の、振付されていない部分の動き。無意識の内に偶然、生まれてしまった動きに対して、そ れでいいんだって言ってくれる。日本から来ると非常に新鮮でしたけれど、実は振付家の山崎広太さんも同じだったんですよ」
(2008年6月20日、パリ、シャイヨー劇場)

『デクリエーション』 『デクリエーション』