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斎藤 珠里 text by Julie Saito 
[2008.07.10]

THEATRE DE LA VILLE パリ市立劇場の公演から

Pina Bausche TANZTHEATER WUPPERTAL: Bamboo Blues ピナ・バウシュ振付、ヴッパタール舞踊団:『バンブー・ブルース』

 毎年この時期恒例のピナ・バウシュ率いるヴッパタール舞踊団が6月16日~7月2日、パリ市立劇場で新作『バンブー・ブルース』を公演した。連日完売の人気舞台を、6月22日のマチネで観た。

『バンブー・ブルース』

  一時期、セリフと身体表現が同じぐらいの比重を占める作品が続いていたが、今回の新作ではセリフは皆無に近く、動きで形作ってゆくモチーフで構成。また メンバーの中には新しい顔ぶれも見られて、女性陣にはアジア系が目立った。「竹」と謳った作品タイトルからもアジアが連想できるように、舞台は極めてシン プル、音楽や照明の使い方にはオリエンタリズムがのぞいた。

 テーマを一言で言い表すなら、アジアとその夢。最初の場面では、舞台の上を白い薄幕が風に舞う中、ばら色の衣装をひらひらとたなびかせた小柄な南アジア 系の女性ダンサーが、長い髪をたなびかせる。女性ダンサーの色彩豊かな衣装のエレガンス、しなやかな容姿から醸し出される美しさ----どの瞬間も誘惑に 満ちていた。

 音楽も、インドやアジアにインスピレーションを得たメロディーや楽器がふんだんに使われていた。そのやさしい甘い音色に乗って、暴力のない世界、演劇的 な要素もほとんどない、流れるような身体表現だけによって舞台がつむがれてゆく。特に、南アジア系のダンサーの繊細な身のこなし、しなやかに反り返る手 首、しなう腕が目を奪う。妖精物語から抜け出してきた王女さまのような気品が立ち込め、客席が催眠術にかけられてしまうような効果をもたらしていた。

 舞台に煌いていたのは、音楽と踊り、ヒンズーの神々、お茶のプランテーションにあふれる緑、そして光にみちた空間。インドで喪を表す白が、この作品では 休息を表現するが、ときたまセリフのやりとりや、けたたましい音楽によって乱される。ピナならではのユーモアの種が、刺激になって、またもや物語の続きが 見たいという欲望にかられる。まさに、古くから西欧を魅了してきたアジアへの夢が、観客を取り込みながら、伝統と現代の間を行き来させる作品だ。

『バンブー・ブルース』

  これまでの作品同様、「男と女の奇妙な関係」も随所で顔をのぞかせる。二人の女性が男性の足の裏をライターの火で炙る真似をしたり、男性は自分にしがみ ついてきた女性を床に倒して引きずる動作を繰り返したり・・・。サドとマゾを連想させるやりとりが、男女の中で交互に現われる。

 しかし難を言えば、今回の作品はあまりにも統一感が取れすぎている、とも感じた。以前のように、老若男女、のっぽもちびも、太っちょも痩せも入り交ざっ たメンバーとは違って、今回の作品に登場した新メンバーの世代は刷新され、アジア系の女性ダンサー数人の柔らかな身のこなしが舞台を制していたのである。 ある意味で、ダンサーの個性が強烈で身体的にもでこぼこが目立ったヴッパタール舞踊団が懐かしまれた。ピナに、心境の変化が生まれたのだろうか。
(2008年6月22日、パリ市立劇場)