ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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斎藤 珠里 text by Julie Saito 
[2007.08.10]

そのほかのダンス作品から

 同じく正式招聘されたカンパニーの中には、370年の歴史を誇る江戸糸あやつり人形結城座もあった。メーンは演劇祭のオープニングを飾ったジャン・ジュ ネ作『屏風』への出演だったが、7月16~19日、サン・ジョゼフ高校の会場サル・フランシェでは古典の2作品も上演された。4公演のすべてが売り切れと いう人気。観客席として、前方には平土間が設けられ、フランス人たちはあぐらをかいて”日本的”な見物席の雰囲気を楽しんでいた。
 芝居『本朝廿四孝』に続いて上演されたのは、舞踊劇『綱館』。渡辺の頼光の臣渡辺源治綱(結城孫三郎)と、その育ての親である伯母の真柴(結城千恵) が、緊張感のある掛け合いの末に、伯母は鬼に変身。刀を抜いた綱と宙を舞う鬼の間で繰り広げられる舞が見どころだ。人形に踊らせることの難しさについて、 千恵さんは「自らが踊るのと違って、人形を動かすために自分がワンテンポ先に動きをイメージしなければならない」と説明する。
 首の傾げ方、重心の落とし方、手の使い方、振り向く様・・・すべてが計算された上でスムーズな舞につながる。さらには、女性が男性の人形を操ることの醍 醐味については「男の内面に宿る女性の部分も表現できる。女形の場合は、むしろ男性的な自分自身がそのまま出てしまうかも」と笑う。人形に乗り移ろうとせ ず、距離をおいて演じるからこそ、海を越えてもなお伝わる人間性に迫れるのかもしれない。

結城座の舞台から


 さらに、Sacd(振付家を助成する文化団体)の助成金を得ての公演Sujet A VIF(いき活きした題材、の意味)では、午前と午後で2人ずつ、計4人の実力ダンサーが自ら選んだ振付家の作品を踊る、という試みがなされた。私が観た のは7月21日の午前のプログラム。その中で踊ったJulie Guiberの演技が圧巻だった。これまで在籍したマッツ・エック率いるクルベリ・バレエ団では『ジゼル』や『白鳥の湖』、リヨン・オペラ・バレエではト リシャ・ブラウンやエックの作品、ロンドンでラッセル・マリファントの『Push』の連作を踊るなどの経験をもつ。彼女の友人マリ=アニエス・ジロは、こ の日の公演を観るためにパリからTGVで来ていた。
 舞台は、結城座の古典作品が上演されたのと同じサン・ジョゼフ高校の建物内の中庭に特設された野外劇場。地面から1メートル近い高さの舞台だったが、庭 木の周りをきれいに円形状に切り取った配慮が美しい。朝11時の公演では、鳥のさえずりも聞こえて、別世界。アフリカ人のダンサーと振付家のコラボレー ションに続いて、ギベールはベルギーの振付家Stijn Celisの作品をソロで踊った。タイトルは『途上国の前に』。衣装はどことなくアジア風。

ジュリー・ギベールの舞台写真から アヴィニヨン演劇祭の公演後に
くつろぐ親友のジュリー・ギベール
とマリ=アニエス・ジロ


前半は静寂の中で、均衡と不均衡をテーマにしているのかと思わせる一連の動作を、ゆったりとした時間の流れの中で見せる。そこに流れるマリア・カラスの歌 声。西洋文明を象徴しているのだろうか。途中、甲高い声が音響編集でゆがめられたり、エルビス・プレスリーの笑い声が収録されたAre you lonesome Tonightが流れたりする。後半は、そうした先進国文明を皮肉るように、ギルベールが不可思議な動きをみせはじめる。感情をストレートに出せない人間 の内面的葛藤ともいえる。最後は、硬く丸めた大判の赤い布を口の中に入れ、舌を表現しているかと思えば、口からはみでた布の先を手でしごきはじめた・・・ エロティックな動作に他ならない。
人間のすさまじい一面を切り取って見せた作品。きれいごとでない世界をギルベールは体当たりで表現する。身体を完全にコントロールした集中力に、ぐいぐいと引き込まれてゆく。それを受ける観客側にも、それなりの覚悟と忍耐力、エネルギーを要求する作品だった。

『白鳥の湖』

  演劇祭のオフで数多ある芝居小屋の中で、朝から晩まで終日、ダンスを専門に上演しているイベルナル劇場での注目どころは、パロディタッチの『白鳥の湖』 だった。アメリカに生まれたヨーロッパ系振付家アンディ・ド・グローが1982年につくった作品。アヴィニヨン・オペラ座バレエのダンサー12人が出演し た。
音楽は、チャイコフスキーの『白鳥の湖』を中心に、随所にトーキング・ヘッズなども流れる。古典バレエのパも使われるシーンはあるが、全体には、王子と王 女、ロットバルトの三角関係を風刺して描く。体格的には比較的がっちりしたダンサーたちだが、バレエのテクニックはしっかりしているから、パロディの動き もきれいだ。 ただ、話の流れがひとつ見えにくい。真剣に踊るところとパロディにした部分との兼ね合いも私にはよく読めなかった。しかし、25年前にすでにこうしたタッ チによる『白鳥の湖』が生まれていたからこそ、マシュー・ボーンのような振付も出現したのかもしれない。古典作品のエッセンスを残しながら大胆に作り変え るという手法のプロトタイプを見せてもらったような気がする。
オフの作品は正式招聘公演に比べるとメディアで扱われる頻度も低いが、この『白鳥の湖』だけはル・モンド紙をはじめ何社かが好意的に評価していた。2008年1月に、パリ郊外でも同作品の上演が予定されている。