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斎藤 珠里 text by Julie Saito 
[2006.12.10]

THEATRE DE LA VILLE パリ市立劇場

Maguy Marin: MAY B マギー・マランの伝説的傑作を上演

 フランス生まれのコンテンポラリー・ダンス界の大御所、女性振付家マギー・マラン(リリュー・ラ・パップ国立 振付センター)の名前を世界的に押し上げた1981年の傑作『MAY B』が11月14~18日、パリ市立劇場で再演された。アイルランドに生まれたフランスの劇作家サミュエル・ベケットの生誕100年の記念イベントの一環 でもあった。不条理劇で知られるベケットにインスピレーションを得て創作されたという作品で、世界中で再演が繰り返され、日本でも2度ほど公演されてい る。それでも初日の14日はチケットは完売し、今なお高い人気を伺わせた。

 舞台の上に5人の男と5人の女。白い衣装をまとい素肌を白い粉でまぶした出で立ち、表情はよくわからないが、チビ、ノッポ、デブ、ヤセ・・・外見から老 若男女を代表する面々だとわかる。舞台の隅々を猫背姿の10人が固まってドタドタと重い足取りで歩き回り、やがて中央に集まって奇声を発し始める。やや間 があって、1人の男性がゆっくりと、次のセリフを吐く。
「セ・フィニ(終わりだ)」
「セ・プテットル・フィニ(終わったかもしれない)」
「サ・ヴァ・プッテットル・フィニール(終わるのかもしれない)」

 つまり、「死」が作品のテーマ:死んだのか、まだ死んでいないのか。これから死ぬのか・・・を暗示する舞台なのだ。確かによくみると、ダンサーたちの顔 はまるで石膏で固められた死人の表情そのもの。動き回っているうちに白い石膏のくずのようなものがボロボロと床に落ちるが、それでも彼らは動き続け、次第 に人間らしい側面を見せ始める。男女カップルの間でセクシーなジェスチャーがあり、ユーモアあり、いがみ合ったりもする。外見は死に限りなく近い人々=老 人たち=なのだろうが、彼らの内面はまだ人生まっただなか。作品の後半では、旅行かばんを手に手に行列し、やがて1人ずつ消えてゆく。彼らが向かう先はど こなのか。生と死、その狭間に生きる人間の本質をリアリスティックに描いた作品だった。白塗りといい、表現方法といい、舞踏の世界に通じるところが大き い。

 ベジャールの20世紀バレエ団に在籍した経験をもつマランは、若く細いダンサーだけを選りすぐるベジャールの美意識に真っ向から対峙したかったという。 『MAY B』ではダンサーたちに肉襦袢をまとわせたり、醜い鼻をつけさせたりして、背中を丸めさせ、膝はがくがくのまま歩かせる。決してダンサーとはみえない醜悪 な格好なのだが、激しく舞台をころげまわり、身軽にステップできるのは、強靭な身体性を持つダンサーたちだからだ。マギー・マラン・カンパニーと共同制作 された『MAY B』公演は、来年5月までフランス国内を中心にヨーロッパをツアーする。


『MAY B』

『MAY B』