ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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斎藤 珠里 text by Julie Saito 
[2006.11.10]

パリのダンスシーンから

THEATRE DE LA VILLE パリ市立劇場
JOSEF NADJ : ASOBU ジョゼフ・ナジの『遊ぶ《ASOBU》』
時空を超え、日本人ダンサーが活躍


日仏国際共同制作として今年7月のアヴィニヨン・フェスティバルのオープニングを飾ったジョゼフ・ナジ(オルレアン国立振付センター)の新作『遊ぶ《ASOBU》』が10月3~7日、パリ市立劇場で公演された。

ベルギーの画家・詩人のアンリ・ミショー(1899-1984)の残した作品にインスピレーションを得たナジが、「旅」「遊び」のエスプリを盛り込んで創 作したというとおり、様々な光景がオムニバスに舞台を構成している。いま見ているシーンが、西洋なのか東洋なのか、現実なのか仮想なのか、よくわからな い。途中からアレっ、さっきまで見ていたシーンと今のシーンはどう関係あるの、と混乱させられることも多々ある。意外性に満ちた作品全体を通して観客はワ クワクさせられ、時空を超えて旅した気分を味わう。まさに、旅の醍醐味、遊びの感覚だ。大げさな舞台装置は何一つないのに、時にはエキゾチックな、時には 野蛮な場所に連れて行かれる。それを可能にしたのが、日仏から参加した16人のダンサーたちだった。

ひいき目と思われるかもしれないが、突出していたのは日本人だった。女性では黒田育世(Batik)と斉藤美音子(イデビアン・クルー)が、しなやかなで 機敏な動きを見せる。ほかの女性ダンサーと比べると小柄な二人が、男性とのデュオでは実にやわらかい身体的表現で舞台に印象深いシーンを刻む。彼女たちが 登場するたびに、何かほっとさせられた。

舞踏カンパニー「大駱駝艦」から参加した田村一行、塩谷智司、捩子ぴじん、奥山裕典の4人は、風貌からしても目を引くが、腰を落とし、足を踏み鳴らしなが ら観客の方に前進してくる場面では、蒙古の襲撃を思わせた。度肝を抜くような力強さは、類まれなる彼らの個性。作品に圧倒的なインパクトを与えた功績が大 きかった。

「遊ぶ《ASOBU》」の今後のフランス、日本公演は、以下のとおり。
11月14日 シャトルー
11月17日 ヴァレンス
11月22~24 リヨン
11月28日 アヌシー
12月1~2日 ミュールーズ
12月7~9日 アンヴェール
2007年1月 東京・三軒茶屋の世田谷パブリックシアター
2007年2月8日 長野・まつもと市民芸術館
2007年2月12日 滋賀・びわ湖ホール

THEATRE NATIONAL DE CHAILLOT
シャイヨー劇場

WILLIAM FORSYHE : THREE ATMOSPHERIC STUDIES
フォーサイス 新作で反戦訴える


十字架に張り付けされたキリストを描いたルーカス・クラーナハ(ドイツ)の聖画と、イラク戦争の状況を伝える報 道写真に感化されて創作したというウィリアム・フォーサイスの新作は10月4~6日、シャイヨー宮劇場で上演された。4日の初日公演には、オペラ座のブリ ジット・ル・フェーブル芸術監督をはじめ、アニエス・ルテステュ、バンジャマン・ペッシュ、マチュー・ガニオらエトワールたちの姿もみられ、注目の高さを うかがわせた。

人と人がある方程式に導かれてぶつかりあい、散り、倒れる。舞台の至るところで、男と男、男女、女と女が出会い、意外なドラマが展開してゆく。これまでに もフォーサイスが度々、作品の中に取り入れてきた手法だ。しかし今回の新作では、イラク戦争を意識して創作したという意図がパンフレットでも紹介されてい ただけに、一連の動きを戦時下の状況とダブらせて観てしまう。ある意味では、わかりやすかった。が、先入観が強すぎて、純粋にダンスを見て何か感じる、と いう姿勢を観客がもてなかったことに疑問も残った。

全体は3部構成。最初と最後は動きを重視したつくりだが、真ん中のプログラムは、いなくなった息子を探す母親の葛藤を描くというもの。母親と事情聴取にあ たる男性との間で、英語、アラビア語、フランス語が飛び交い、やがて母親がセリフともつかない奇声を発しながら身をくねらせるソロを踊り始める。難解な内 容の英語で10分以上も続く場面では、しびれを切らした観客数人が劇場を出ていった。しかし休憩に入って、客席のあちこちで「セリフはわからなかったけれ ど、動きはすばらしかった」とも。

先鋭ダンサー18人には安藤洋子に加え、今年、金森穣の率いる新潟市レジデンシャルカンパニーNoismから移籍した島地保武も含まれた。Noismでは 金森穣かと見間違える動きをしていた島地だが、フォーサイス・カンパニーに移ってから何かが違う。何のてらいもなく、淡々と自然体で踊っているのだ。もち ろん、床にバタっと倒れるシーンなどで見せてくれた軽妙さは、Noismの公演『NINA』で鍛えられた身体機能が活かされている。公演後、「フォーサイ ス・カンパニーに来たいと思ったのは、金森さんと出会い、Noismに入ったから。いまは、初めてダンスを志したときの気持ちを思いだしているんです」と 語った島地の言葉が印象的だった。