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渡辺真弓 text by Mayumi Watanabe 
[2005.08.10]

●パリ・オペラ座<ローラン・プティの夕べ>

 パリ・オペラ座バレエ団 は、前号既報のバスティーユでの『ロミオとジュリエット』と平行して、7月2日から16日までガルニエで<ローラン・プティの夕べ>を上演し、今シーズン を締めくくった。プログラムはビゼー曲『アルルの女』に、バッハ曲『若者と死』、ビゼー曲『カルメン』の3本立て。いずれも若者がファム・ファタルによっ て破滅してしまうストーリーなのだが、これは偶然だろうか。いずれにしてもプティの珠玉の名作を集めたこの傑作選は、この巨匠の若き日の才気を再確認させ るとともに、現在のオペラ座のダンサーたちの魅力を最大限に引き出し、まれに見る熱狂と陶酔を呼び起こした。

『アルルの女』はこれまで、マニュエル・ルグリとニコラ・ル・リッシュなどが踊ってきたが、新しい顔ぶれがお目見えした。フレデリにジェレミー・ベラン ガール、アレッシオ・カルボーネ、バンジャマン・ペッシュ、ヴィヴェットにイザベル・シアラヴォラ、ノルウェン・ダニエル、エレオノラ・アッバニャートが 登場し、それぞれの持ち味を競った。私の見た中では、ダニエルとカルボーネが非常に調和のとれたペアだったほか、たおやかなシアラヴォラ、ベランガールと ペッシュの熱演が印象に残った。

『アルルの女』


『若者と死』の初日は、ル・リッシュとマリ=アニエス・ジローの出演。10年ほど前、バスティーユの大舞台を揺るがしたル・リッシュの若者は、年齢を重ね ても若々しく、スリリングでエネルギーが炸裂するような舞台には並外れたものがある。同時に微妙なフィーリングをも加え、言うことなしの素晴らしさ。相手 役、<死>のジローは、妖艶で冷ややかな美しさが、この作品に見事にはまっている。二人は数年前にも組んでいるが、スケールの大きさもぴったりで、現在考 えうる最高の組み合わせ。このステージが録画撮りされたのはうれしい。


『若者と死』

『若者と死』


初日以降ではヤン・ブリダールが、ピナ・バウシュの『オルフェオとエウリディーチェ』を思い起こさせるような、病的で弱さを感じさせる若者を演じたのに対し、ベランガールの若者も直情的で輪郭のはっきりした踊りを見せ、それぞれ説得力があった。

新聞のインタビューによれば、今回、プティにとって最も思い入れが深かったのは『カルメン』だという。この作品は彼とジジ・ジャンメールの名声を確立したもので、今日までに世界中で、なんと5000回以上、踊られているという。


『カルメン』
 初日は、アッバニャート とル・リッシュのペア。アッバニャートは急な起用だったため、おそらくリハーサル時間が足りなかったのだろう。役作りがまだという感じがしてしまったが、 雰囲気はあるので今後に期待。一方ル・リッシュは、初役のホセを余裕をもって踊りさすがだった。この日は、クレールマリ・オスタとル・リッシュのカップル での共演が予定されていたが、オスタが不調のため、録画撮りに備えて降りてしまったのだ。なおエスパーダのギヨーム・シャルロ、山賊団の娘のドロテ・ジル ベールをはじめ群舞も気合いが入り充実していた。

先のインタビューの続きだが、これまでホセを踊ったエトワールたちに敬意を表しながらも、プティは、今回の大きな収穫はジョゼ・マルティネズのホセだっ たと告白している。実際、初日を過ぎたにもかかわらず、マルティネズの出演日のカーテンコールに、プティも現れたのはちょっとした驚きだった。舞台でぴょ んぴょん跳びはねてしまうなど、すっかりご機嫌の様子だった。


スペイン人のマルティネズは名前もホセなのだが、少し陰があって、プティにどことなく似た面影もあり、『カルメン』の悲劇のヒーローにぴったりである。 抜群のテクニックに加え、見えの切り方にも独特のニュアンスがあって、オリジナルな役作りが光った。相手役カルメンにも恵まれた。まずゲストのルシア・ラ カッラと、次いでジローと踊った。ラカッラは、ファム・ファタルというよりキュートなカルメンだが、その柔軟性と官能的魅力で、登場から客席をうならせる など、世界的スターの貫禄。こちらもやはりスペイン人であることと、すらりとした体のラインが似ていて、ペアとしての相性もよい。ラカッラにオペラ座のエ トワールになってほしいという声が聞かれたのも不思議でないほど、実に鮮烈なデビューであった。

それだけに、最後に登場するジローがどんなカルメンを演じるか、ファンの関心は高まるばかりだった。刺すような鋭い眼差しをきらめらせたジローは、まさ にファム・ファタルのイメージで、その迫力にはホセばかりか見る側もすっかり圧倒された。ラカッラに対抗するかのように、かつて誰も見せたことのないよう な高度のテクニックを随所で誇示するなど、プティ版『カルメン』にジローもまた新しい光彩を投げかけたといえよう。とりわけ闘牛場での二人の対決シーン は、息詰まるほどの緊張を生み、迫力満点。シーズン掉尾を飾るにふさわしい名演に、ガルニエは興奮と熱狂で沸き返っていた。


『カルメン』

『カルメン』