80年代以降長らくダンス界の話題の中心だったキリアン、ノイマイヤー、フォーサイスに続く筆頭で、クラシック・バレエをベースに「美しいダンス」を創る 希有な振付家、なかでもひときわ輝きを放つ一人が、ナチョ・ドゥアトだ。キリアンのネザーランド・ダンス・シアターでダンサーとして活躍し、その後カンパ ニーの専属振付家に就任。1990年からはスペイン国立ダンスカンパニーの芸術監督として、また第一級の振付家として、精力的に活動している。そのドゥア トの『ロミオとジュリエット』(1998年初演)が、母国スペインでほぼ8年振りに復活上演された。サン・クガット・テアトロ・オーディトリ(バルセロ ナ)での初日を観た。 本作はドゥアトが初めて振り付けた全幕バレエ。奇をてらった「新解釈」や現代への置き換えなど をせず、原典の戯曲に忠実な演出は極めてオーソドックスだ。その分、ラブロフスキー、マクミラン、クランコといった過去の振付家たちの演出と比較されるの は必至だが、名版数あるなか、実に、近年の名作といわれるのも納得の『ロミオとジュリエット』。ドゥアトの卓越した音楽性と文学的洞察力に導かれた、瑞々 しくそれでいて力強いダンスが圧巻だった。
ドゥアトはまた、ジュリエットの母親であるキャピュレット夫人に特に多くの振りを与えて いる。「戯曲によればキャピュレット夫人は我々がイメージするような中年の母親ではなく若い女性であるはずで、彼女にも言いたいことがたくさんあるはず だ」というのがドゥアトの言い分。ティボルトの死に直面した彼女の嘆きの深さは、地面を踏みしめるようなダンスで描かれる。さらには、キャピュレット夫人 に限らずティボルトやパリスといったかつてのバレエ作品ではあまり光の当たることのなかった人物たちを、ドゥアトは様々に組ませて踊らせ、各々の性格や人 間関係を鮮明に描き出す。キャピュレット夫人の甥ティボルトへの親近者の愛、ティボルトとパリスという若者2人の同志的共感、キャピュレットと若い妻の関 係。ドゥアトはこの作品を、恋人達の運命の物語にとどまらせることなく、現代に生きる男女の現実にも無関係ではない、より普遍的なドラマとして提示する。
『ロミオとジュリエット』の物語の舞台はイタリアのヴェローナだが、ドゥアトの作品からは やはりスペインの大地の匂いがする。自らの足で大地をつかみ、駆け、跳躍して自己を表現する登場人物たちの力強い姿、その強靱なダンスが、豊穣なスペイン の大地を思い起こさせる。音楽、ドラマ、ダンスが見事に織り上げられた、説得力のある舞台だった。 ジュリエットはル イーザ・マリア・アリアス、ロミオにはゲンテアン・ドダ。プリンシパル・ダンサーの一人、日本人の秋山珠子はこの日はキャピュレット家に縁の夫人として繊 細な動きで魅せたが、ジュリエットのセカンド・キャストにも抜擢されているとのこと。ドゥアト率いるスペイン国立ダンスカンパニーによる『ロミオとジュリ エット』は、今秋11月、彩の国さいたま芸術劇場(埼玉県)とびわ湖ホール(滋賀県)で上演される。
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