オーストラリア・バレエ団の2026年シーズンプログラム「喜び、愛、伝統、繋がりをあなたへ」が発表された
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岸 夕夏 Text by Yuka Kishi
9月9日、オーストラリア・バレエ団のデヴィッド・ホールバーグ芸術監督は、2026年シーズンプログラムを発表した。
「喜び、愛、伝統、繋がりをあなたへ」と謳う<シーズンプログラム26>のメインステージ5演目に、シュツットガルト・バレエ団マルシア・ハイデ版『眠れる森の美女』の招聘公演が加わった。「世界中の傑出したカンパニーをオーストラリアに招く」という芸術監督就任時の抱負を、2023年東京バレエ団招聘に次いで実現させた。
TAB Lilla Harvey and Benjamin Garrett © Pierre Toussaint
オーストラリア・バレエ団は世界有数の年間公演数をこなすがゆえに、年間の演目数は少数精鋭にせざるを得ない。
<シーズンプログラム26>では、物語バレエ、古典の全幕、抽象バレエ、オリジナルの新制作などがラインアップされている。
週末2日限定で開催される、ガラ形式の「シグネチャー・ワークス」がシーズン幕開けを飾る。続く世界初演の『フローラ』は、オーストラリア先住民の文化を現代的なダンスで表現する、バンガラ・ダンス・シアターとの共同制作。ジョン・クランコ振付『ロミオとジュリエット』はオーストラリアの東海岸3都市で上演される。ジャスティン・ペック振付の『コップランド・ダンス・エピソード』はニューヨーク以外で初上演となる。シュツットガルト・バレエ団によるマルシア・ハイデ版『眠れる森の美女』はメルボルン公演のみ。常に満席のピーター・ライト版『くるみ割り人形』で1年が締めくくられる。
今年5月に公表された、オーストラリア・バレエ団の100ページ以上に渡る2024年(暦年)年次報告書によると、年間の舞台上演数は200回で、そのうち53パーセントの観客がバレエの初めての鑑賞者だった。同年はジェンダーもテーマに据えた全2幕物語バレエ『オスカー』(クリストファー・ウィールドン振付)を世界初演して、新たな客層が加わった。しかし、カンパニーの本拠地があるメルボルンの劇場の3年間大規模工事による23公演の減少と、それに伴う収入減を余儀なくされた。
古典を礎とするバレエ団が、ジェンダー問題を正面から斬り込んだ新制作はチャレンジングだったに違いない。それでも、個人などからの寄付金は前年を上回り、サポーターはカンパニーを支えた。このことは、多様性を掲げる社会の側面が反映されているように思われる。
ホールバーグは<シーズンプログラム26>の紹介動画で、来年の演目について自身の思いや視点を語っている。
Artists of The Australian Ballet, "La Bayadère- The Kingdom Of The Shade" © Jeff Busby
「シグネチャー・ワークス」 FOR BEAUTY
カンパニーの63年間のレパートリーから厳選し、名作をガラ形式で上演するメルボルンのみ週末3回限定公演。「カンパニーのこれまでの道のりを祝福し、未来へのビジョンを大胆に描く」とホールバーグは語る。『ラ・バヤデール』から「影の王国」(マリウス・プティパ振付)とグラン・パ・クラシック(ヴィクトル・グゾルフスキー振付)が、現在発表されている。
『フローラ』 FOR CONNECTION
先住民アボリジナルの文化に根ざし、現代のダンス表現と融合するバンガラ・ダンス・シアターと30年ぶりの共同制作作品である。振付はバンガラの芸術監督でミルニング族のフランシス・リングス。音楽はウィリアム・バートンによる新作。
「船が、踏み荒らす動物を持ち込み、窒息させる雑草を運んできても、植物は耐え抜いた。炎を通じ、植物は再生し、再び息吹く。植物の回復力は、オーストラリア先住民の回復力と重なる」(バンガラ・ダンス・シアター)
「二つのカンパニーの強さと精神、ダンスという共通のつながりを通じて、65000年の文化と物語を語るのです」(デヴィッド・ホールバーグ)
TAB "FLORA" (Rings) Courtney Radford and Hugo Dumapit © Pierre Toussaint
TAB "Romeo And Juliet" (Cranko) Davi Ramos & Robyn Hendricks © Pierre Toussaint
『ロミオとジュリエット』 FOR LOVE
クランコの『ロミオとジュリエット』が4年ぶりに再演される。ドラマティックバレエを観る楽しみの一つは、個性の異なるダンサーによって、作品の印象が大きく変わることだろう。
ブラジル出身のダヴィ・ラモス(写真左)は新たな物語を予感させる。ラモスはこれまでのオーストラリア・バレエ団にはいなかったタイプのダンサー。2024年にホールバーグのオファーでオランダ国立バレエから移籍してきた。
「この物語は単なるロマンスではなく、運命、青春、熱烈な献身の物語です。クランコの振付は物語に真実の重みを与え、常に心を打つのです」(デヴィッド・ホールバーグ)
『コップランド・ダンス・エピソード』 FOR JOY
ニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)の常任振付家、ジャスティン・ペックの抽象バレエの幕もの。NYCBが『コップランド・ダンス・エピソード』以前に創作したプロットレスの幕ものバレエは、創設者ジョージ・バランシンが1967年に振付けた『ジュエルズ』まで遡る。アーロン・コープランド(Aaron Copland)の壮大なスケールの音楽は22のエピソードで構成されているが、この作品は驚くほどミニマルでありながら、鮮烈なマキシマリズムを併せ持つ表現を実現していると言えるだろう。
「ペックの言語は紛れもなく現代的で、彼が舞台上で作り出すエネルギーは純粋で溢れんばかりです。生命力に満ち、あなたを高揚させるために作られたダンスです。
喜びとともに、私たちは『コップランド・ダンス・エピソード』の眩いばかりのリズムを歓迎します。この作品はオーストラリア初演であり、ニューヨーク以外での初上演となります」(デヴィッド・ホールバーグ)
TAB "Copland Dance Episodes" (Peck) Elijah Trevitt, Larissa Kiyoto-Ward,_Lilla Harvey,_Isobelle Dashwood Jett Ramsay © Pierre Toussaint
シュツットガルト・バレエ マルシア・ハイデ版『眠れる森の美女』 FOR MAGIC
マルシア・ハイデは、ジョン・クランコのミューズとして踊り、後年は振付家としても活動し、シュツットガルト・バレエの芸術監督を務めた、ダンサーとしてはモーリス・ベジャール、ジョン・ノイマイヤー、ケネス・マクミランらの作品を初演している。
純粋と邪悪の境界線が曖昧になるなかで、ハイデの古典物語への魅力的な再解釈は、作品に新たな深みを加えた。洗礼式への招待を逃しただけの話ではない、遥かに大きな物語へと昇華させた。
「シュツットガルト・バレエの『眠れる森の美女』は魔法の舞台です。それは壮大であり優雅で、私たちがなぜバレエに夢中になったかを思い出させてくれます」(デヴィッド・ホールバーグ)
"The Sleeping Beauty" (Haydée) Miriam Kacerova with artists of The Stuttgart Ballet © Bernhard Weis
ピーター・ライト版『くるみ割り人形』 FOR TRADITION
TAB "The Nutcracker" (Wright) Grace Carroll and Marcus Morelli © Simon Eele
2021年ホールバーグは芸術監督に就任後、舞台公演のライブ配信を行なっている。
ピーター・ライト版『くるみ割り人形』は前回、2024年に上演されており、パリ・オペラ座バレエからエトワールのオニール八菜がゲスト出演し、金平糖の精を踊った。
洗練された振付とチャイコフスキーの素晴らしい音楽、ジョン・マクファーレンの見事な美術・衣裳、ライト版『くるみ割り人形』のチケットは毎回完売する。
「『くるみ割り人形』は時代を超越した魅力を持ち、子供たちの目と私たち全員の中の子供の心を輝かせるために作られています。驚きのない伝統とは何でしょうか?」(デヴィッド・ホールバーグ)
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『シグネチャーワークス』(Signature Works)
『ラ・バヤデール』より「影の王国」(振付プティパ)などガラ形式
2月28日~3月1日 会場:リージェント・シアター (メルボルン)
『フローラ』(Flora) 世界初演
振付:フランシス・リングス 音楽:ウィリアム・バートン
3月12日~3月21日 会場:リージェント・シアター(メルボルン)
4月7日~4月18日 会場:シドニー・オペラハウス
『ロミオとジュリエット』( Romeo and Juliet)
振付:ジョン・クランコ 音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
4月24日~5月13日 会場:シドニー・オペラハウス
6月6日~6月16日 会場:リージェント・シアター(メルボルン)
8月15日~8月22日 会場:リリック・シアターQPAC (ブリスベン)
『コップランド・ダンス・エピソード』(Copland Dance Episodes)
振付:ジャスティン・ペック 音楽:アーロン・コップランド
6月23日~7月2日 会場:リージェント・シアター(メルボルン)
11月6日~11月21日 会場:シドニー・オペラハウス
マルシア・ハイデ版『眠れる森の美女』(The Sleeping Beauty- Marcia Haydée )
振付:マルシア・ハイデ(原振付:プティパ) 音楽:ピュートル・チャイコフスキー
10月9日~10月18日 会場:リージェント・シアター(メルボルン)
ピーター・ライト版『くるみ割り人形』(The Nutcracker - Peter Wright)
振付:ピーター・ライト、レフ・イワノフ、ヴィンセント・レドモン
音楽:ピュートル・チャイコフスキー
11月28日~12月16日 会場:シドニー・オペラハウス
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