デヴィッド・ホールバーグ芸術監督の4期目となるオーストラリア・バレエ団の2024年シーズンプログラムが発表された
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岸 夕夏 Text by Yuka Kishi
The Australian Ballet "Oscar" Principal Artist Callum Linnane Photo Isabella Elordi
9月12日、オーストラリア・バレエ団は2024年シーズンプログラムを発表した。デヴィッド・ホールバーグが芸術監督に就任して4期目を迎える次期シーズンのメインステージでは5演目。それに加えてアデレードのみジョージ・バランシンの『ジュエルズ』が上演される。
東京バレエ団の『ジゼル』招聘公演や35年ぶりとなったロイヤル・オペラハウス公演、オーストラリア4都市で開催される新作『白鳥の湖』などの演目が組まれた2023年シーズンは、バレエ団の60周年記念が色濃く感じられたプログラムだった。一方、2024年プログラムは3つの新作を含んだ、集客を意識したバランスの良い演目という印象を受ける。
オーストラリア・バレエ団の本拠地メルボルンにあるステート・シアターは2024年から3年間、大規模な改修工事を行う。そのため来年のメルボルン公演は3演目のみになった。『ジュエルズ』を除く5演目のうち4つは全幕バレエだ。ホールバーグは2024年シーズンを、カンパニーの多様な芸術性を体現する野心的なプログラムという。
シーズントップは『不思議の国のアリス』(クリストファー・ウィールドン振付)で2月にシドニーで開幕する。続いて『カルメン』(ヨハン・インガー振付)、『オスカー』(ウィールドン振付/世界初演)、12月18日のピーター・ライト版『くるみ割り人形』シドニー公演で、1年を締めくくる。5月と10月にシドニーとメルボルンで、古典バレエの技が盛り込まれた『エチュード』(ハラルド・ランダー振付)と、コンテンポラリー・ダンスの『サークル・エレクトリック』(ステファニー・レイク振付)をダブルビルで上演する。
今年4月にオーストラリア・バレエ団は100ページ以上になる2022年(暦年)年次報告書を公表した。その中で目を引いたのが、まだ生活全般がパンデミック影響下にありながら、9ページにわたって記載された数千人からの個人寄付金だった。地方巡業公演やアウトリーチ教育プログラム、3歳以上の子どものためのバレエ公演などを通じて、オーストラリア・バレエ団が長年地域社会とのつながりを築いてきたことも寄付に結びついていると思われる。
ホールバーグは2024年シーズン演目冊子と公開されている動画で、来年の演目について自身の思いや視点を語っている。
『不思議の国のアリス』
「『アリス』は観客が好み、家族が皆で楽しめる作品です。カラフルでユーモア溢れる"ウサギの穴"への旅、まばゆいばかりのダンス、そしてアリスの不思議な冒険はミステリアスです。楽しくてわくわくする世界的なヒット作を、クリストファー・ウィールドンはクリエイトしたのです。」
2018年のヘルプマン・アワード(舞台公演を対象にしたオーストラリアで最も権威のある賞)で、『不思議の国のアリス』は最優秀バレエ作品賞、最優秀振付家賞、最優秀男性・女性ダンサー賞など5部門を受賞した。また、近藤亜香が2018年ブノワ賞最優秀女性ダンサーにアリス役でノミネートされた。
The Australian Ballet "Alice's Adventures in Wonderland" Jarryd Madden Photo Simon Eeles
The Australian Ballett "Alice's Adventures in Wonderland" Principal artist Amy Harris Photo Simon Eeles
『カルメン』
「ヨハン・インガーの独特で現代的な視点は、『カルメン』で際立ちます。とても現代的な物語が観る者を惹きつける魅力的な手法で語られます。タイトルロールを踊ることはアーティストにとって夢でしょう。プログラムの中で最も野心的で現代的な作品にダンサーが取り組む姿を見ることを楽しみにしています」
2015年にスペイン国立ダンスカンパニーが初演。ストックホルム生まれのヨハン・インガーは2016年ブノワ賞で、『カルメン』と『One on One』にて最優秀振付家賞を受賞。ジョルジュ・ビゼーの楽曲を用いて魅力的な演出のダンス作品に仕上げた。
*下に掲載している Youtube動画の 9'10"から、日本のバックグラウンドを持つジル・オガイへホールバーグの短いインタビューが見られる。
The Australian Ballet "Carmen" Jill Ogai and Marcus Morelli Photo Simon Eeles
The Australian Ballet "Carmen" Jill Ogai Photo Simon Eeles
『エチュード』『サークル・エレクトリック』ダブルビル
「『エチュード』は古典の技を厳格に求めます。振付の精度と正確さはミスを許しません。これはダンサーが演じることを夢見るバレエです。
『サークル・エレクトリック』を振付けたステファニー・レイクは、現在オーストラリアで最もエキサイティングな振付家の一人です。彼女のユニークなスタイル、動き、音楽、編成の使い方、大胆な振付センスがダンサーを夢中にさせます。ステファニーの芸術的エネルギーは彼女のビジョンから生み出され、観客をジェットコースターのようなダンスに乗せるのです」
The Australian Ballet " Études" Katherine Sonnekus, Principal Artist Sharni Spencer & Belle Urwin Photo Simon Eeles
The Australian Ballet "Circle Electric" Samara Merrick & Maxim Zenin Photo Simon Eeles
The Australian Ballet "Circle Electric" Samara Merrick Photo Simon Eeles
『ジュエルズ』
「このバレエの3つの宝石はみな同等に美しく、力を秘めています。柔らかく神秘的なエメラルド。シャープでスタイリッシュなルビー。まばゆい輝きを放つダイヤモンド。この作品はバレエの視覚的な饗宴です」
8月2日から5日間、オーストラリア・バレエ団は35年ぶりにロンドンのロイヤル・オペラハウスの舞台に立った。5回の『ジュエルズ』公演とガラ公演が1回、全6公演は満席で、海外公演のチケット完売は30年ぶりだった。公演前にチケットがすべて売り切れたのはオーストラリア・バレエ団史上初と広報部は発表している。「ブロードウェイ・ワールド」のマシュー・パラーク記者は「ロイヤル・オペラハウスでのオーストラリア・バレエ・シーズンは大成功を収めた。かなり長い間、ロンドンでこの種のバレエの反響があったのを覚えていない」と記している。
The Australian Ballet "Jewels" Principal Artists Dimity Azoury, Amy Harris & Benedicte Bemet Photo Simon Eeles
The Australian Ballet "Jewels" Dimity Azoury Photo Simon Eeles
『オスカー』
「クリストファー・ウィールドンが創作した全幕作品は、紛れもなく芸術的な瞬間となるのです。オスカー・ワイルドの人生と文学に基づいた新作は、私たちが目指している大胆な "物語を伝える" ことのお手本です」
19世紀アイルランド出身の詩人、作家、劇作家であるオスカー・ワイルドは数々の名言・格言を残した。代表作として『幸福の王子』『サロメ』『ドリアン・グレイの肖像』などが挙げられる。オーストラリア・バレエ団単独によるウィールドン委嘱作品『オスカー』は、9月にメルボルンで世界初演の幕を開ける。
The Australian Ballet "Oscar" Principal Artist Callum Linnane Photo Simon Eeles
ピーター・ライト版『くるみ割り人形』
「『くるみ割り人形』は古典バレエの絶対的な美しさの象徴です。豊かで魔法と美に満ちた音楽は、クララがクリスマスイブに見る夢の神秘的な世界にダンサーと観客を導きます。『くるみ割り人形』のグラン・パ・ド・ドゥを踊るのは、いつも私のお気に入りでした」
*下記Youtube動画の 11'37"よりホールバーグから根本里奈への短いインタビューが見られる。
The Australian Ballet "The Nutcracker" Grace Carroll & Marcus Morelli Photo Simon Eeles
The Australian Ballet "The Nutcracker"Principal Artist Ako Kondo Photo Simon Eeles
The Australian Ballet "The Nutcracker" Marcus Morelli Photo Simon Eeles
オーストラリア・バレエ団は、ホールバーグによる作品紹介と舞台映像を含めた2024年シーズンプログラムの動画を公開している。
(この動画はオーストラリア・バレエ団の厚意によりチャコットweb magazine Dance Cubeへの掲載が許可された。Courtesy of the Australian Ballet, this video is permitted posting to the Chacott Dance Cube Web Magazine World Report)
⚫︎『不思議の国のアリス』(Alice's Adventures in Wonderland)
振付:クリストファー・ウィールドン、音楽:ジョビー・タルボット
2月20日〜3月5日 会場:キャピタル・シアター(シドニー)
3月15日〜3月26日 会場:アーツセンター・メルボルン
⚫︎『カルメン』(Carmen)
振付:ヨハン・インガー、音楽:ジョルジュ・ビゼー
4月10日〜4月27日 会場:シドニー・オペラハウス
⚫︎ダブルビル『エチュード』『サークル・エレクトリック』( Études / Circle Electric)
振付:ハラルド・ランダー / ステファニー・レイク、音楽:カール・チェルニー /ロビン・フォックス
5月3日〜5月18日 会場:シドニー・オペラハウス
10月2日〜10月9日 会場:リージェント・シアター(メルボルン)
⚫︎『ジュエルズ』(Jewels)
振付:ジョージ・バランシン、音楽:ガブリエル・フォーレ /イーゴリ・ストラヴィンスキー /ピョートル・チャイコフスキー
7月12日〜7月18日 会場:アデレード・フェスティバルセンター
⚫︎『オスカー』(Oscar)
振付:クリストファー・ウィールドン、音楽:ジョビー・タルボット
9月13日〜9月24日 会場:リージェント・シアター(メルボルン)
11月8日〜11月23日 会場:シドニー・オペラハウス
⚫︎ピーター・ライト版『くるみ割り人形』(The Nutcracker - Peter Wright)
振付:ピーター・ライト、レフ・イワノフ、ヴィンセント・レドモン、音楽:ピョートル・チャイコフスキー
11月30日〜12月18日 会場:シドニー・オペラハウス
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