東京バレエ団『ジゼル』招聘公演など、オーストラリア・バレエ団の新シーズンプログラムが発表された
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ワールドレポート/オーストラリア
岸 夕夏 Text by Yuka Kishi
Artistic Director David Hallberg announced The Australian Ballet 2023 season program
オーストラリア・バレエ団は例年より早い9月1日に、2023年シーズンプログラムを発表した。来年3期目となるデヴィッド・ホールバーグ芸術監督がバレエ団の60周年を記念して選んだのは6演目。東京バレエ団による『ジゼル』招聘公演もある。
芸術監督就任後初のメジャー作品委嘱となる『白鳥の湖』は、60周年を祝うにふさわしい来年の目玉演目だ。ジョージ・バランシンの傑作『ジュエルズ』がオーストラリア・バレエ団の新たなレパートリーに加わり、フレデリック・アシュトン振付の『マルグリットとアルマン』はオーストラリア初演。コンテンポラリー作品では、オーストラリア・バレエ団の常任振付家アリス・トップと、オーストラリア・ダンスシアターの芸術監督ダニエル・ライリーが「アイデンティティ」という標題で新作を発表する。
メインステージ以外では、<Dance X>という名称の新たな国内ダンスフェスティバルが、ホールバーグ主導の下で今年開催される。このフェスティバルは3部構成に分かれ、10月20日から11月1日まで12回の公演。オーストラリア・バレエ団を筆頭に国内の著名な9つのダンスカンパニーが集結する初の試みだ。さらに、バレエ団の筆頭スポンサーである大手企業テルストラとタイアップし、ジャンルを超えて振付家の才能を発掘・養成するためのコンクール<TEC/Telstra Emerging Choreographer>が昨年から始まった。また、バレエと長い歴史の繋がりを持つフランスのグローバル企業シャネルが、バレエ団の財産である過去の貴重な写真や画像、映像のアーカイヴを保護する「文化遺産(Living Heritage)」パートナーになることも、ホールバーグ就任直後に発表されている。
The Australian Ballet David Hallberg Photo Simon Eeles
ホールバーグは芸術監督就任時に、オーストラリア・バレエ団を世界の舞台に紹介するとともに、これまでオーストラリアでは観られなかった作品や世界中の傑出したカンパニーを招くと抱負を語った。
オーストラリア・バレエ団の過去7人の芸術監督の中には、その新たな方向性が観客やバレエ団に受け入れられたとは言い難い人もいた。しかしホールバーグは先人の足跡に敬意を示し、率いるカンパニーを多角的に捉え融合させながら、新たな企画を実行し、自身の抱負の実践に成功していると言えよう。
昨年と今年の世界初演、オーストラリア初演の演目では、階級の垣根を飛び越えて、コール・ド・バレエ ランクのダンサーを重要な役にキャスティングした。
タップダンスを原点と語り、ダンスールノーブルと称され、世界中を飛び回ったかつてのスーパースターダンサー。80人のダンサーを率いる座長となった彼は古典を愛しつつ、軽やかなステップを踏むように芸術の無限の可能性に挑み、今を未来に繋げているように、私には見える。
ホールバーグは2023年シーズン演目冊子と公開されている動画で、来年の演目について自身の思いや視点を語っている。
『ドン・キホーテ』
「1973年にルドルフ・ヌレエフが振付けて映画化されたこの作品は、オーストラリア・バレエ団を世界の舞台に押し上げました。再構築された舞台美術が、バルセロナの喧騒とドンの夢の風景に新たな命を吹き込みます。ヌレエフ版の『ドン・キホーテ』がなぜカンパニーの歴史に深く刻まれているのかを知り、活気に満ちたわくわくする一夜になるでしょう」
The Australian Ballet "Don Quixote" Benedicte Bemet Photo Simon Eeles
The Australian Ballet "Don Quixote" Marcus Morelli Photo Simon Eeles
『ジュエルズ』
「このバレエの3つの宝石はみな同等に美しく、力を秘めています。柔らかく神秘的なエメラルド。シャープでスタイリッシュなルビー。まばゆい輝きを放つダイヤモンド。この作品はバレエの視覚的な饗宴であり、ダンサーがバランシンの最高傑作に取組む絶好の機会なのです」
The Australian Ballet "Jewels" Amy Harris, Benedicte Bemet & Dimity Azuory Photo Simon Eeles
ダブルビル『アイデンティティー』
「2023年プログラムは、オーストラリアのダンスシーンの未来を真っ向から見つめます。アリス・トップとダニエル・ライリーはオーストラリアを代表する振付家です。オーストラリア人として、アーティストとしてアイデンティティーとは何なのかを問い、探求します。オーストラリア・ダンスシアターとの初共演です。アリスの新作『パラゴン』では、私たちの60年間の芸術への活力と進化がひとつのタペストリーのようになって、カンパニーの風景とアイデンティティが描き出されるのです」
"Identity" Artists of The Australian Ballet & Australian Dance Theatre Photo Simon Eeles
『ジゼル』東京バレエ団
「世界中の素晴らしいカンパニーを招いてきた伝統を、私も継承します。ようこそ、東京バレエ団! 東京バレエ団は古典からユニークな現代作品までのレパートリーを持ち、未来を見据え、私と価値観を共有できるカンパニーです。私たちの60周年を祝う年に、オーストラリア・デビューとなる『ジゼル』公演を、斎藤友佳理芸術監督と共にお招きできることを嬉しく思います。私は長年にわたり、光栄にも何回も東京バレエ団と共演する機会を得ました。そしてそのたびに、彼らの端正なダンスに感動しました。パリ・オペラ座、ミラノのスカラ座、ロシアのボリショイ劇場、マリインスキー劇場など32カ国、155以上の都市で上演を行なってきたカンパニーです。『ジゼル』第2幕の精緻な群舞に目を奪われることでしょう」
"Giselle" Artists of The Tokyo Ballet Photo Kiyonori Hasegawa
『白鳥の湖』
「1977年にオーストラリア・バレエ団の15周年として、当時の芸術監督アン・ウィリアムスが制作した『白鳥の湖』を、観客は今でもカンパニーの宝物と称えます。60周年は古典的な『白鳥の湖』を掘り起こすのにふさわしい時です。新たなヴァージョンは、オーストラリア・バレエ団の現代的な振付表現が誇らしげに際立ち、芸術性と卓越した技術がさらに高められ、今後数十年にわたって時の試練に耐えられる豪華な装置と衣装で、何度も観たくなる作品なのです」
The Australian Ballet "Swan Lake" Robyn Hendricks Photo Simon Eeles
ダブルビル『真夏の夜の夢』『マルグリットとアルマン』
「オーストラリア・バレエ団のレパートリーを形成する中で、アシュトンは不可欠な役割を果たしました。そして『マルグリットとアルマン』をレパートリーに迎える時がきたのです。ヌレエフとフォンティーンのために創作されたこの作品からは、タイトルロールを踊るダンサーのアーティストとしての深みが立ち上ります」
The Australian Ballet "Marguerite and Armand" Amy Harris & Callum Linnane © Simon Eeles
The Australian Ballet "The Dream" Callum Linnane © Simon Eeles
The Australian Ballet "The Dream" Callum Linnane & Dimity Azoury Photo Simon Eeles
オーストラリア・バレエ団は、ホールバーグによる作品紹介と舞台映像を含めた2023年シーズンプログラムの動画を公開している。
(この動画はオーストラリア・バレエ団の厚意によりチャコットダンスキューブへの掲載が許可された。Courtesy of the Australian Ballet, this video is permitted posting to the Chacott Dance Cube Web Magazine World Report)
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『ドン・キホーテ』(Don Quixote)
振付:ルドルフ・ヌレエフ / 音楽:ルドウィグ・ミンクス
3月15日〜3月25日 会場:アーツセンター・メルボルン
4月8日〜4月25日 会場:シドニー・オペラハウス
「ダブルビル - アイデンティティ」(Identity)
『THE HUM』 振付:ダニエル・ライリー 音楽:デボラ・チートハム
『パラゴン』(Paragon)振付:アリス・トップ 音楽:クリストファー・ゴードン
5月2日〜5月20日 会場:シドニー・オペラハウス
6月16日〜6月24日 会場:アーツセンター・メルボルン
『ジュエルズ』(Jewels)
振付:ジョージ・バランシン
音楽:ガブリエル・フォーレ /イーゴリ・ストラヴィンスキー /ピョートル・チャイコフスキー
5月4日〜5月20日 会場:シドニー・オペラハウス
6月29日〜7月8日 会場:アーツセンター・メルボルン
『ジゼル』東京バレエ団招聘公演
(Giselle performed by The Tokyo Ballet)
振付:レオニード・ラブロフスキー ペロー/コラーリ/プティパ原振付
音楽:アドルフ・アダン
7月14日〜7月22日 会場:アーツセンター・メルボルン
『白鳥の湖』(Swan Lake)
振付:プティパ原振付、アン・ウィリアムス演出 追加振付 ルーカス・ジャービス / デヴィッド・ホールバーグ監修
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
9月19日〜9月30日 会場:アーツセンター・メルボルン
10月7日〜10月14日 会場:アデレード・フェスティバルセンター
10月24日〜10月28日 会場:クイーンズランド パフォーミング・アーツセンター12月1日〜12月20日
会場:シドニー・オペラハウス
ダブルビル『真夏の夜の夢』『マルグリットとアルマン』
(The Dream / Marguerite and Armand)
振付:フレデリック・アシュトン
音楽:フェリックス・メンデルスゾーン(真夏の夜の夢)、フランツ・リスト(マルグリットとアルマン)
11月10日〜11月25日 会場:シドニー・オペラハウス
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