関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.03.12]
[ベルリン]

マラーホフによって21世紀に甦った素晴らしい雰囲気のロマンティック・バレエ

STAATSBALLET BERLIN
ベルリン国立バレエ団
Vlaimir Malakhov : LA PERI
ウラジーミル・マラーホフ『ラ・ペリ』
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去る2月25日、パリからロンドンを経てベルリンに入った。猛威を振るった寒波は去ったのか、肌寒いが穏やかな気候。パリは華やかだが人間が多く、観光客とともに何をしているのかわからない意味なく佇んでいる人々が目についた。逆にロンドンは人々が機能していて、無駄を感じさせないビジネスの街。ベルリンは道路が広くゆったりとしていて、中心部でも人々はのんびりしている。そしてコーヒーが旨かった。
マラーホフが『ラ・ペリ』を振付け、主役を踊る、と聞いてベルリンにやってきた。初日の幕が開く前、ベルリン国立バレエ団のダンサーで「バレリーナのベルリン日記」を連載してくださっている針山愛美さんに劇場を案内していただいた。
スターツ・オーパは、リハーサルやクラスを行うビルと劇場が地下道で繋がっている。本番前にウォームアップをすませたダンサーは、この地下道をくぐって楽屋に向かう。初めて訪れたからだろうか、ちょっとミステリアスな雰囲気があった。
劇場のレストランで一休みしていると、楽屋入りするマラーホフが姿を現した。「がんばってください」と日本語で声を掛けると「ありがとう」の返事。緊張気味の表情に少し疲労が感じられた。彼は全幕物の新振付と主演、そして芸術監督という重責を担っていて失敗が許されない立場にいる。

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『ラ・ペリ』は1843年7月、焼失する前のル・ペルティエ通りのパリ・オペラ座で初演された。1841年に大成功を収めた『ジゼル』に続いて、ジャン・コラリ振付、ティオフィル・ゴーチェ、コラリ台本、フリードリッヒ・ブルグミュラー音楽、カルロッタ・グリジ(ラ・ペリ)、リュシアン・プティパ(アクメ)、コラリ(奴隷商人)といったスタッフキャストで初演された。直後にロンドンでさらにはサンクトペテルブルクでも上演されたから成功だったと言える。しかしロマンティック・バレエの衰退とともに、あまり上演されなくなっていった。その後はアシュトンが、ポール・デュカスの音楽でバレエ・クラブとロイヤル・バレエに振付けている。

ベルリン国立バレエ団を率いるウラジーミル・マラーホフは、『ラ・バヤデール』『眠れる森の美女』『シンデレラ』を改訂して振付け、昨年はマウロ・ビゴンゼッティ振付の『カラヴァッジョ』を踊っている。
『ラ・ペリ』は、快楽を尽くしたハーレムの王子アクメ(マラーホフ)と幻想の中に登場した妖精ラ・ペリ(ヴィシニョーワ)の愛の物語。
第1幕では現世の美に興味を失ったアクメはアヘンを吸い幻想の中に理想の王国をみる。そこには妖精の女王ラ・ペリがいて、アクメを王国に誘うがもちろん彼には行くことができない。するとラ・ペリは王冠の星を与え、この星に口づけすればいつでも姿を現すと告げる。天上のラ・ペリに魅せられたアクメは、ハーレムの愛人だったヌルマール(ベアトリス・クノッフ)を奴隷商人に売り渡してしまう。
第2幕でラ・ペリは逃亡して殺された奴隷レイラの身体に入って、アクメの愛を確かめようとする。レイラの身体に宿ったラ・ペリはダンスでアクメを魅了。レイラにラ・ペリと同じ魂を見いだしたアクメは、彼女を愛するようになる。そして逃亡奴隷レイラの引き渡しを拒み、捉えられ投獄される。最後のチャンスを与えられるが、アクメは拒否し死刑は執行されるが、彼は天上の国へと昇って行った。
プロローグは、牢獄のアクメがラ・ペリからもらった星を手に、最後の愛の試練に耐えているシーン。そしてエピローグも同じ牢獄のアクメのシーンに戻って、アポテオーズに至る。

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第1幕では、オダリスクたちの踊りが2組、アクメの友人でハーレムを仕切っているルサンのソロ、そしてヌルマールとアクメと目に見えないラ・ペリの踊り。3人のからむ振付がなかなか巧みで、アクメがしだいにラ・ペリに心を惹かれていく様子がよく表れていた。
ただブルグミューラーの音楽は、ロマンティックに盛り上げているのだが、繊細な雰囲気を観客の胸に訴えるメロディが少ない。男性のヴァリエーションも女性のヴァリエーションも同じような曲調に聴こえてしまうのが残念だった。
今回の初演に際してはリュドミラ・コムレワがコレオグラフィック・アシスタントにクレジットされているが、マラーホフは群舞の動きの細部にいたるまでしっかりと振りを作ったという。実際、ディティールまで優しく細かな配慮が行き届いていて、マラーホフの人柄を彷彿させる振付けだった。一部の批評にはブルノンヴィルを思わせる、というものもあった。
しかしたとえば『ジゼル』ならば、1幕の村娘と2幕のウィリではコントラストが明快に感じられる。『白鳥の湖』でも白鳥と黒鳥といった、どこからみても歴然として理解できる設定がなされている。それに比べると、第1幕の目に見えないラ・ペリと第2幕のレイラの身体に入り込んだラ・ペリのコントラストは少し弱いと思われた。むろんヴィシニョーワは、チュチュもトップも衣裳を変え、幻想の中の踊りと身体を得た時の踊りも動き方を変えている。
観客としては、物語の設定を理解して鑑賞するのは当たり前だろう。しかしできたらヴィジュアルでもくっきりとコントラストを感じて、振付家の訴えかけを全身で受けとめたい、そうも思った。

21世紀のベルリンに甦った素敵なロマンティック・バレエに、カーテンコールはまるで爆発だった。瞬く間にスタンディングオベイションの波が観客席を覆い、いつ終わるとも知れない喝采が、何度も何度もマラーホフを幕前に呼び出し続けていた。
(2010年2月27日 ベルリン国立歌劇場)

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撮影:Angela Kase
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