ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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皆様、お元気ですか? 日本は春らしい季節でしょうか。
ニューヨークは4月下旬に異常気象で冬のような寒さになりました。ニューヨーク中部以北では積雪40cmになったそうです。4月に入り、暖かい日々が続いて桜も満開でしたが、この寒波で気温が下がり、ニューヨークの街中で再び暖房が入っています。私もまた、ダウンジャケットを着ています。

日本人ダンサーも出演して盛り上がったアンヘル率いるバルセロナ・バレエ

Barcelona Ballet ( formerly Corella Ballet )
バルセロナ・バレエ(旧コレーラ・バレエ)
Clark Tippet “Bruch Violin Concerto No.1” Christopher Wheeldon “For 4” Rojas and Rodríguez “Palpito”
クラーク・ティペット振付『ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番』、クリストファー・ウィールドン振付『フォー・4』、ロッハス&ロドリゲス振付『パルピト』

4月17日から20日まで、ニューヨーク・シティ・センターでバルセロナ・バレエ(旧コレーラ・バレエ)の公演が行われました。これは、以前に何度かレポートしましたが、ABTのプリンシパルであるアンヘル・コレーラが創立し、芸術監督を務めるスペイン唯一のクラシック・バレエ・カンパニーです。2008年の創立以来、スペイン各地公演と世界巡業を順調に重ねています。アンヘルの実姉である元ABTソリストのカルメン・コレーラが副監督です。アンヘルとカルメンご本人たちもプリンシパルで、バレエ団の一員として公演に出演しています。
「母国のスペインにはクラシック・バレエ・カンパニーが無いので、僕がぜひ創りたい。そして英国ロイヤル・バレエ・スクールのような、付属のバレエ・スクールも同時に創って祖国に恩返ししたい。そのために最初にまず僕の財団を創ったんだ」とインタビューで語ったアンヘルは、後にその夢を本当に実現しました。

アンヘルは、今年6月のABT公演で引退するそうです。そしてスペインで自身のバルセロナ・バレエの活動とバレエ・スクールの教育、後進の育成に力を入れていくそうです。引き続きバルセロナ・バレエではバレエダンサーとして出演していく予定だそうです。以前インタビューした当時、「35歳まではABTで現役を続けて、35歳で引退する予定だ。」と語っていたとおり、今年36歳に完全にABTを引退することに決めたのだと思います。去年は、すでにABTの公演への出演回数がとても少なくなっていましたが、とうとうその日が来るのですね。

ny1205a02.jpg 「ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番」
平田桃子、アレハンドロ・ビレリェス
Photo/Erin Baliano

私は4月20日の公演を観ました。
この公演には、日本人ダンサーたちが3名出演しました。平田桃子(プリンシパル)、大森和子(ファースト・ソリスト)、伊勢田由香(ソリスト)です。日本人が活躍していて嬉しいですね。
3つの作品が上演されました。
一つ目は『ブルッフ:ヴァイオリン協奏曲第1番』です。音楽はマックス・ブルッフです。振付は、クラーク・ティペットで、4つのパ・ド・ドゥがありました。
この日は「アクア・パ・ド・ドゥ」は、伊勢田由香とキリル・ラデフ、 「レッド・パ・ド・ドゥ」はアナ・カルデロンとアアロン・ロビンソン、「ブルー・パ・ド・ドゥ」はカルメン・コレーラとデイロン・ベラ、「ピンク・パ・ド・ドゥ」は平田桃子とアレハンドロ・ビレリェスが踊りました。
周りに群舞があり、その中心で主役のパ・ド・ドゥが繰り広げられ、主役の男女4組、8名が全員が同時に登場するところもありました。
一番目立っていたのはカルメン・コレーラ。さすがに優雅な踊りでした。カルメンは顔が小さくて手足が長く、スタイルにとても恵まれています。
日本人の伊勢田由香と平田桃子もとても上手でした。細く小柄で、小回りが効く良さを生かしていました。シェネとか回転が多く、大ジャンプなど大技も魅せてくれました。
前回のニューヨーク公演で観た時よりも、ダンサー全体の踊りの完成度がさらに上がっているように感じました。毎日長時間、とても訓練を積んでいる様子が伺われます。

二つ目の『フォー・4』は音楽はシューベルト、振付はクリストファー・ウィールドンです。この作品は、アンヘルが「キングス・オブ・ダンス」で踊っています。
アアロン・ロビンソン、デイロン・ベラ、アレハンドロ・ビレリェス、フランシスコ・エステベスという男性ダンサー4名が踊りました。
オープニングの照明が現代的で、光りが背後の壁にだけ当たっているため、舞台に並んで静止している男性ダンサーたち4名のシルエットが、くっきりと浮かんでいました。
そして踊りが始まり、ソロがあり、2名、3名、4名とか、踊りの組み合わせはいろいろで、次々に流れるように様々な振り付が重ねられて展開していきました。
クラシック・バレエ・ベースですが、新しい現代的な振付です。男性らしさを引き出した、大ジャンプなど躍動的な大技が多い、力強い作品です。

ny1205a01.jpg 「パルピト」アンヘル・コレーラ
Photo/Erin Baliano

最後の『パルピト』は、一番のハイライトで盛り上がり、圧巻でした。振付はロッハス&ロドリゲス、音楽(作曲&プロデュース)はヘクトール・ゴンザレスです。スペイン色が強い作品で、クラシック・バレエ・ベースなのですがフラメンコやクラシコ・エスパニョールを混ぜていて、異色でした。この作品は、他のバレエ団には無い独自のカラーなので、バルセロナ・バレエらしいと思いました。前回の公演でカルメンとアンヘル姉弟が踊ったスペイン色の強い作品がとても評判が良かったので、今回はその路線をふくらませて作品を作ってみたそうです。
音楽は現代的なエレクトロニックで、そこにいろいろな楽器の生演奏やヴォーカルを重ねていました。エレクトロニック・フラメンコのような感じの部分もあり、「あの伝統的なフラメンコ音楽が、こんなディスコ音楽みたいになるのか」と新鮮で驚きました。リズムはたしかにフラメンコなのですが、新しいタイプの音楽です。“トマ、トマ” などというフラメンコのハレオまで、ディスコ調の電子音の間に入れられているのです。まずこの新しい音楽に感心しました。素晴らしくカッコいい音楽を使っていたので、踊り以前にそれだけでこの作品はもう抜きん出ていました。
そして衣装がまたいいのでさらに驚きました。赤と黒が基調で、中世のスペインの重厚な雰囲気の衣装です。衣装デザインはビセンテ・ソレールです。このスペインの重厚さ、独特の仰々しい雰囲気には長い伝統が感じられ、例えばアメリカでは出せるようなものではなく、なかなか真似が出来ないものです。女性たちがタイツをはかずに生足だったので、発達した足の筋肉が隆々としているのが照明でよく浮きだっていて、そのワイルドな感じと重厚な衣装が対比されているようで、面白かったです。
振付はところどころにフラメンコ調のものをエッセンス的にとり入れていました。フラメンコの手振りを少し入れたり、胸を両手でパチパチと少したたいたりしていました。あまりフラメンコ色を強く出していませんでしたが、フラメンコを強調しすぎていないところが、センスが良いなと感心しました。あくまでもクラシック・バレエのカンパニーだというポリシーを強く感じました。
スペインらしい、光と影のコントラストがとても強く、光りの使いが上手い劇的な照明でした。
日本人は、平田桃子、大森和子が出演し、カルメンとデイロン・べラのパ・ド・ドゥもありました。カルメンのパ・ド・ドゥは素敵でした。最初は背中だけをこちらに向けて座っているところにスポットライトが当たっていました。長い段々のフラメンコ調のスカートで登場し、スカートを途中で取って、ミニスカート・レオタードで踊りました。
ハバネラという女性7名の踊りの衣装は黒いレースの全身タイツ(おそらく下にベージュのレオタードを着ている)で、頭に大き目のフラメンコ用のクシの髪飾りをさしていました。この衣装もスペインらしい雰囲気で、女性ダンサーがとてもセクシーで美しく見え、映えていました。アンヘルのパ・ド・ドゥもありましたが、ABTの公演と違ってさらに至近距離で観られ素晴らしかったです。アンヘルは女性ダンサーのリフト、誘導がとても上手で、女性はとても踊りやすそうでした。
アンヘルはソロでも踊りました。ゆったりしたリズムの音楽に変わりました。これは一番盛り上がった山場でした。舞台いっぱいを使って回転やジャンプなど大技が多く、キレのある踊りでした。さすが、アンヘルの身体の軸のびくともしない安定感は、抜きん出ていました。次第に汗だくになってきて、周りに他の男性ダンサーたちが手にランプを持って出てきました。このランプもスペインらしいと思いました。舞台全体が絵になっていました。これで終わるのかなと思っていたらまだアンヘルのソロは続き、かなり長く踊って、さらに踊りは激しくなり、縦横無尽に思いっきりの大技を連発していました。アンヘルは、後ろを向いて、手で宙をつかんで意味深に去っていきました。
そして、“タンゴ”、“ムニェイラ”、フィナーレと続き、ダンサーたちは手拍子を入れたり、扇子を使い踊りました。
最後はカルメンとアンヘルのパ・ド・ドゥです。姉弟で舞台上でハグをしていて、微笑ましかったです。
アンヘルは最後にピルエットをして立てひざで座って着地してポーズを決めて、終わりました。アンヘルの顔の表情は満面の笑顔で、とても満足そうな感じ「ニューヨーク公演が無事に終わった!上手くいった!」という気持ちが伝わってくるようでした。
(2012年4月20日 ニューヨーク・シティ・センター)