日本人ダンサーたちが輝いたユース・アメリカ・グランプリ

ワールドレポート/ニューヨーク

針山 真実 Text by MAMI HARIYAMA

ユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)がニューヨークのリンカーンセンターで行われ、審査結果が4月20日に発表されました。日本からも多くのダンサーが参加しました。プリコンペンティティブのクラシック部門では山田優七さんが女性の1位に選ばれました。男性では寺西悠人さんが3位になり、コンテンポラリー部門では木原琥珀さんが男性2位になり、女性では高橋杏さんがクラシック部門と合わせて3位になりました。
そしてジュニアの部では秋田瑛汰さんが男性3位になりました。
日本人ダンサーたちが輝いたリンカーンセンターから、ニューヨークでHARIYAMA BALLETを主宰する針山真実さんにシニアの部とジュニアの部をレポートしていただきました。


ジュニアの部

ユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)は今年25周年を迎え、各国から多くの参加者が集まる世界を代表するコンクールとなりました。過去25年間、たくさんのバレエダンサーがこのコンクールを経て国立バレエ学校からスカラシップ・オファーを授与されたり、バレエカンパニーの契約を手にしました。現在、このコンクール出身で世界各地で活躍しているダンサーは多数います。
リンカーンセンターで行われるYAGPの「夢のニューヨークファイナル」で踊るためには、まず世界各地で開催されている予選から選ばれ、さらにニューヨークで開催されるファイナル予選で選ばれなければなりません。そしてそのダンサーたちだけがこの舞台に立つことができます。まず、ニューヨークファイナル・ジュニアの部を4月17日、ニューヨークにあるリンカーン・センターで鑑賞しました。

ジュニアの部は12歳から14歳。
最初に12歳のダンサーが登場すると、なんと可愛らしい少女で、いつもニューヨーク・シティ・バレエやアメリカン・バレエ・シアターの公演で見ているこの舞台が、いかに大きなものかを改めて感じました。

日本人出場者でジュニア・ラウンド・ファイナルに残ったのは、まず『サタネラ』を踊った大澤 たまきさん(梨木バレエスタジオ)、ファイナルに残ったダンサーの中でも特に足の高い甲が強く美しく、膝も伸びています。足先の出し方や置き方、手の使い方、動きと動きの間も隅々までとても丁寧な踊りで落ち着きがあり、12歳とは思えませんでした。

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大澤たまき © LK Studio

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大澤たまき © LK Studio

そしてパンダバレエスクール(森高子バレエ教室)に通う永井 咲良さんは、『エスメラルダ』のヴァリエーション。色鮮やかなコスチュームが美しく舞台で映えました。最初に上がるエカルテの高い足のラインが美しく、彼女は回転を得意とするのでしょう、ピルエットでも4回転を決めると会場が湧きました。最後の見せ場のバロネでも回転を加えながら難易度を上げたテクニックを見せ、会場からは大歓声を浴びました。

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永井咲良 © LK Studio

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永井咲良 © LK Studio

BALLET・LE・COEURの木村 凪初さんは緊張を全く感じさせず堂々としており、音楽性がよく活き活きとした踊り。鍛えられたテクニックを見せ、踊りが仕上がっていました。特に中盤のバロネで高く上がる右足のターンアウトの美しいラインが印象に残りました。

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木村凪初 © LK Studio

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木村凪初 © LK Studio

浜崎ほのさん(徳永由貴バレエスクール)は『パキータ』の踊り。彼女の踊りもテクニックがまずしっかりしていて強さを感じ、かつとても丁寧ですべての動きを一つ一つ丁寧に手足を使うので、動きと動きの間に無駄ひとつなく隙がありません。
どのジュニアダンサーを見てもここまで踊れるのは本当に感心します。

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浜崎ほの © LK Studio

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浜崎ほの © LK Studio

今回、日本からの参加では無いけど日本のお名前を持つファイナル出場者も数名いました。
ニューヨーク出身の神谷里咲さん(Ellison Ballet Professional Training Program)は『ジゼル』よりヴァリエーション。芯がありポワントで立つと地面と垂直、バランスが良くポーズひとつひとつをきっちり見せ、丁寧なドゥミポアントの使い方で着地のコントロールが素晴らしい。後ろアチチュードやアラセゴンドの高さは素晴らしく、ターンアウトのラインも美しかったです。

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神谷里咲 © LK Studio

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神谷里咲 © LK Studio

「ローズ」のヴァリエーションを踊ったのはアーキタンツ・トレーニング・プログラムで学ぶ村山 來見さん、とてもしなやかで、柔らかくふわりとした優しいオーロラ姫。彼女もとても美しい足のラインに加え、丁寧な上半身の使い方でとても上品な踊り、オーロラ姫が似合っていました。ポディションの正確さも美しさを引き立てました。

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村山來見 © LK Studio

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村山來見 © LK Studio

続いてジュニア男性の部。男の子たちも皆本当に良く踊ることが出来ます。身体は成長中で勿論小柄ですが、踊りや表現力、プレゼンテーションは大人やプロも顔負けしそうです。

まず日本人ファイナリストとして『ドン・キホーテ』よりバジルのバリエーションを踊ったのは井上 結人さん12歳(渡部ブーベルバレエアカデミー)。
踊りからはシャープなバジルを演じたいという強い意気込みが感じられ、ひとつひとつの大切な音にしっかりと合わせポーズやジャンプを見せ、まだ12歳の小柄なバジルのしっかりした踊りに驚きました。

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井上結人 © LK Studio

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井上結人 © LK Studio

『パキータ』のヴァリエーションを踊ったのは鈴木 悠仁さん(ワクイバレエスクール)、足先が綺麗に伸びて、バレエの基本を丁寧に使っていて好印象。コスチュームもよく似合いました。

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鈴木悠仁 © LK Studio

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鈴木悠仁 © LK Studio

5年前にアメリカのカリフォルニアに移住したという佐居勇星さん(Southland Ballet Academy)は登場する前から、会場アナウンスだけで客席がザワザワしてみんなの期待のダンサーだと分かります。飛び出した跳躍は180度開いた足と身体のポディションがピッタリと空中で決まり、出だしからインパクトを与えました。スピード感のある回転、音楽の一音でしっかり決まるポーズは見ていて爽快です。踊っていることが楽しそうで、とても堂々としたパフォーマンスで観客の期待に応えました。

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佐居勇星 © LK Studio

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佐居勇星 © LK Studio

『タリスマン』を踊ったワクイバレエスクールの秋田 瑛汰さんもとても素晴らしいダンサー。ジャンプが高くて爽快、軽快。素晴らしい跳躍に素晴らしいテクニックで本当に13歳かと思ってしまいます。基礎もしっかりし、回転も美しく、爽やかなプレゼンテーションがとても良い印象を与え、場内も大歓声になりました。

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秋田瑛汰 © LK Studio

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秋田瑛汰 © LK Studio

A.I.S Ballet Academyの飯野 利一さんは『ドン・キホーテ』よりバジルのヴァリエーション。踊りの中でアクセントをしっかりと使い、溜めやキメが上手い。ジャンプが高くスピード感もあり、テクニックの完成度も高い。最後のポーズも格好よく決まり素晴らしいバジルを踊りました。

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飯野利一 © LK Studio

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飯野利一 © LK Studio

ジュニアラウンド全体を見てまず感じる事はやはりレベルの高さ。ここまで来ると全員が本当にレベルが高く、どのダンサーもよく動きよく踊ります。基礎の大切さ、ポディションの正確さはもちろん、全員と言っても過言では無いほど足の甲がとても強くて、審査員らが足の美しさを見ていることがわかります。
どのダンサーも有望な将来に溢れていて、今後のトレーニングが更に大切になってくると思いますが、どのように成長していくのかとても楽しみです。

シニアの部

ユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)のニューヨークファイナル・シニアの部を4月17日、ニューヨークにあるリンカーン・センターで鑑賞しました。
シニアになると15歳以上ということもあり、やはり心身ともに成長が感じられて大人びたダンサーたちになり、舞台上の存在感や安定感はジュニアの部とは違いました。

シニアの部でトップバッターとして出場したのはスワンバレエカンパニーの中谷 心陽菜さん。
『ワルプルギスの夜』ヴァリエーションを踊りました。
高さのあるグラン・パドシャで軽快に登場し、最初から最後のフェッテの終わりまでエネルギーを持続させる持久力のあるダンサー。難しいテクニックを簡単に見せてしまう才能の持ち主です。音の使い方も素晴らしく、強さと生まれ持った華やかさを揃えている将来がとても楽しみな15歳でした。

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中谷心陽菜 © LK Studio

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中谷心陽菜 © LK Studio

『眠れる森の美女』第3幕よりオーロラ姫のヴァリエーションを踊ったのは中島 望沙さん(徳永由貴バレエスクール)。足のラインが美しく、冒頭のアチチュードはしっかりターンアウトされて膝の高さもあり印象に残ります。雰囲気は優しく、踊りはひとつひとつ丁寧でしなやかな動きで、とても上品なオーロラ姫を演じました。

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中島望沙 © LK Studio

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中島望沙 © LK Studio

K-Grace Balletの矢成 真帆さんは『パキータ』のヴァリエーション。しっかりと鍛えられた身体と煌めく華やかなコスチュームが美しく、踊りは丁寧で正確にレッスンしていることが分かります。重心の使い方がしっかりとしていてバランス感覚に優れ、ひとつひとつのポーズやポディションを正確かつしなやかに見せ、素晴らしい踊りでした。

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矢成真帆 © LK Studio

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矢成真帆 © LK Studio

『ライモンダ』の夢の場のヴァリエーションを踊ったのは三鷹シティバレエスタジオの大橋 季惟さん。
コントロールが非常に難しいヴァリエーションで、このような大舞台なので緊張しないほうが不思議ですが、もう少し肩の力が抜けたら良かったかもしれません。
美しい足のラインを丁寧に使い、音のテンポが上がる後半からは活き活きと表現していました。今後、更なる経験を積みプロダンサーになることが楽しみです。

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大橋季惟 © LK Studio

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大橋季惟 © LK Studio

シニア男性の日本人出場者でファイナルラウンドに残ったのは、K-BALLET ACADEMYの全 成慶さん。バレエの基礎を丁寧に使い、ポール・ド・ブラも美しく、とても好感を持ちました。筋肉の質が良く跳躍がとても高く着地がしなやかでした。普段のレッスンが活かされている素晴らしい『コッペリア』のフランツを踊りました。

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全 成慶 © LK Studio

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全 成慶 © LK Studio

またエストニアから参加した中林さん(HIROTO NAKABAYASHI)は『パリの炎』を踊りました。とても爽やかな表情で正確なポディションの美しさに加え、軽やかなジャンプが気持ちよく素敵なダンサーでした。

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Hiroto Nakabayashi © LK Studio

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Hiroto Nakabayashi © LK Studio

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GeonHee Park © LK Studio

シニア男性となると体格も筋肉もしっかりし、踊りも風格も既にほぼプロフェッショナルです。ただ男性ヴァリエーションの見せ場である回転でいつも以上に力んでしまったり、軸がずれてしまうダンサーが見られたのは、惜しいなと思います。
そんな中でも抜群な印象を与えたのは、韓国国立芸術大学から参加したGeonHee Park。素晴らしい柔軟性、跳躍力、基本のポディションの忠実さと正確さ、回転の安定性、表現力、音楽性、どれをとっても群を抜いて素晴らしかったです。彼はバレエカンパニーの争奪戦になることでしょう。

ユース・アメリカ・グランプリには本当に多くのバレエを愛する、バレエダンサーを目指す若者らが集まり、ここで共に学び、刺激し合い、仲間となり、もしかすると人生が変わる可能性すらあり、素晴らしい経験をしていると思います。そして若者たちのダンス技術は驚くほど進化と進歩をしていて感心するばかりです。25周年を迎えた世界最大コンクールは今後も更なる成長をしつつ多くのスターダンサーを生みだしていくと思います。

インタビュー

25周年を迎えたユース・アメリカ・グランプリ、ニューヨーク・ファイナルには参加者が約2000人も集まったそうで、開催期間中には353人のダンサーらが同時にトゥーシューズで立ちダンスするというギネス新記録も樹立するなど話題は絶えません。
ファイナルラウンドと2日間行われたガラは、アメリカでも芸術の中心と言われているニューヨークのリンカーンセンターで行われ、連日とても多くの人が会場に駆けつけました。
元スターダンサーだった素晴らしいバレエダンサーらが今はバレエ学校の指導者だったり、バレエ団の監督になって、今回は25周年ということもありお祝いに駆けつけていたり、審査員としても集まっていて、会場はとても豪華な顔ぶれがたくさん見られました。

そんな世界中から集まった若手ダンサー、そして全国の指導者ら、世界から駆けつけたバレエ学校やバレエ団のディレクターらが見つめる会場でファイナルラウンドに出場した日本人ダンサーに、ファイナルを終えたお気持ちを聞きました。

ジュニアの部・佐居 勇星さん、12歳
「一週間とても楽しかったです。クラスからも学ぶことがたくさんありました。今回、舞台で上手くいかなかったところを今後のために考えて、これからも頑張りたいです。」

ジュニアの部・村山 來見さん、14歳
「日本予選に出た時に、まさかニューヨークに行けるとは思っていなかったのですがトップ12に選んでいただき、さらに今回のニューヨーク・ファイナルでずっと夢だった舞台に立てて、舞台の上で「ローズアダジオ」のヴァリエーションの表現をすることがとても楽しかったです。自分らしく、学んできたことを踊りました。本当に楽しかったです。」

ジュニアの部・飯野 利一さん、14歳
「あまり上手く踊れなかったのですが、他の人を見て自分もしっかりやらなくちゃいけないという気持ちになってしまったので、これからはどんな時でもいつも通りの踊りが出来るように、頑張りたいと思います。日本よりも踊っているときの歓声や反応が大きくて、踊っていて楽しかったです。」

シニアの部・中谷 心陽菜さん、15歳
「今回のファイナルラウンドでは、今までで一番楽しく踊ることが出来ました。練習した今の力を発揮できたと思うので良かったです。こんなにも大きな会場で踊ることができてとても嬉しいです。すごく緊張もしましたが、とても、とても楽しかったです。」

 

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