YAGP25年のハイライト・ガラ YAGP STARS OF TODAY MEET THE STARS OF TOMORROW: BEST OF 25 YEARS~from New York

ワールドレポート/ニューヨーク

YAGP25年のハイライト・ガラ

YAGP STARS OF TODAY MEET THE STARS OF TOMORROW: BEST OF 25 YEARS~from New York

第2夜目となる4月19日には、ユース・アメリカ・グランプリ恒例のガラ公演のタイトルを用いた「YAGP STARS OF TODAY MEET THE STARS OF TOMORROW: BEST OF 25 YEARS(現在と未来のスターダンサーが集うYAGP25年のハイライト・ガラ)」と題した公演が、David H. Koch Theater(ニューヨーク、リンカーンセンター内)にて行われた。この日の公演は、約3時間(休憩1回)と前夜に増して盛大であり、終演後にはガラ・ディナーも行われた。

公演の構成は前夜と同じく、今回の出場者が一堂に会する「グラン・デフィレ」で開幕し、作品上演と映像演出(メッセージや過去映像)が組み合わされた内容であった。映像の内容は前夜と重複する部分が大半のため、詳しくは4月18日公演に関する記事をご参照いただきたい。

過去の出場時の映像に続けて現在の本人が踊る形式の上演では、冒頭の「グラン・デフィレ」の後に、エリザベス・ベイヤー*(Elisabeth Beyer アメリカン・バレエ・シアター)による『ドン・キホーテ』より、「森の女王のソロ」が披露された。中盤では 、前夜と同じスカイラー・ブラント*のインタビューに続き、上演内容も同じくダニエル・カマルゴ* と共に『LE GRAND PAS DE DEUX(『ル・グラン・パ・ド・ドゥ』(クリスチャン・シュプック振付)が披露された。カンフェティを振り撒く演出は進行上の都合のためか前夜と比べて縮小されていたが、この日も多くの笑いが起き観客を楽しませていた。

選抜されたファイナリストのパフォーマンスは、1部・2部と分けて披露された。1部では、プリコンペティティブ部門から寺田羽那(日本)が選ばれ、『アレルキナーダ』の女性ヴァリエーションにて、バレエシューズでありながらも回数の多いピルエットを安定して成功させ観客を沸かせた。ジュニア部門からは、ジョアン・ペドロ・ドス・サントス(Joao Pedro Silva ブラジル)が『アレルキナーダ』の男性ヴァリエーションを披露。ローザンヌ国際バレエコンクール 2024の1位の功績もあり期待の高まる中、観客の歓声を浴びながら伸び伸びと踊る姿が印象的であった。コンテンポラリー部門からはキーナン・メンツォス(Keenan Mentzos カナダ)が選ばれた。

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寺田羽那
写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

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キーナン・メンツォス
写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

前夜に続き、世界初演作が積極的に上演されたことも賞賛と共に記しておきたい。フリエタ・マルティネス( Julieta Martínez )振付『SANG MÊLÉ』は、コンテンポラリーのテクニックで構成された群舞。内側に赤の入った黒いスカート風の衣裳に上半身は肌色系の生地にとどめ、ライティングを受け止める陰影を意識した美術的な演出がアクセントとなっていた。ジャクリーン・オナシス・スクール、ジョン・クランコ・スクール・オブ・シュッツットガルト、プリンセス・グレース・アカデミー、チューリッヒ・ダンス・アカデミーより総勢9名が出演した。もう1作品はジョシュア・ビーミッシュ(Joshua Beamish)振付『HUNGARAN DANCES(ハンガリーの踊り)』。2名のピアノ奏者の生演奏にのせて、随所にハンガリー舞踊へのオマージュとされるポーズが散りばめられた作品。女性はネオクラシック調でポアントのテクニックが要求されるが、男女ともに個々の足捌きの技量よりも、リフトに代表されるパートナリングによる非常にアクロバティックな瞬間の印象が強く残ってしまう。前半はアメリカン・バレエ・シアターのベッツィー・マクブライド *(Betsy McBride)とスンミ・パク*(Sunmi Park)、そしてスターリング・バカ*(Sterling Baca フィラデルフィア・バレエ)とBenjamin Freemantle(元サンフランシスコ・バレエ)の2組のカップル。後半はメリッサ・ハミルトン*(Melissa Hamilton 英国ロイヤルバレエ)が、フセヴォロド・マイエフスキー*(Vsevolod Maievskyi イングリッシュ・ナショナル・バレエ)に支えられ、彼女らしい身体能力を発揮していた。

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「SANG MÊLÉ」
写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

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「HUNGARAN DANCES」
写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

1部の作品では、現在スターとされるダンサーとユースたちの共演の場も用意されていた。1部で上演されたピエール・ラコット版『ラ・シルフィード』では、ABT ジャクリーン・オナシス・スクールとジョフリー・バレエ・スクールの生徒たちがコール・ド・バレエを踊った。主役のビアンカ・スグダモア*(Bianca Scudamore パリ・オペラ座バレエ)は着地時の足の使い方や目線の移し方で軽やかさを表現し、ジェルマン・ルーヴェ(Germain Louvet パリ・オペラ座バレエ)も力み無くステップを刻んでいた。2部で披露された『ドン・キホーテ』の抜粋でも、今回のファイナリストたちがアントレのパートにキャスティングされていた。一日きりの共演と思われるが、スターと一緒に舞台に立つ機会は、ユースたちにとって思い出深い経験となったことであろう。

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「ラ・シルフィード」ジェルマン・ルーヴェ
写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

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「ラ・シルフィード」ビアンカ・スグダモア
写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

その他に1部では、シュツットガルト・バレエのマッケンジー・ブラウン*(Mackenzie Brown)とアドナイ・ソアレス・ダ・シルヴァ*(Adhonay Soares da Silvaシュツットガルト・バレエ) が『A DIALOG(ある会話)』(ロマン・ノヴィツキー振付)を披露した。機械的な音楽の中にキレのある振付が続き、舞台空間全体を使う大きな動きが無くとも観客に興味を持たせていた。また、コンスタンティン・アレン*(Constantine Allenオランダ国立バレエ)は『ファイヴ・タンゴ FIVE TANGOS』(ハンス・ファン・マーネン振付)の男性ソロを披露。アコーディオンを主とする大人びた音色を振付を通じて巧みに表現していた。

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「A DIALOG」マッケンジー・ブラウン、アドナイ・ソアレス・ダ・シルヴァ
写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

第1部を締めくくったのは、コンテンポラリー部門のファイナリストによる群舞『ECHAD MI YODEA』(オハッド・ナハリン 振付)。15名強のダンサーが、半円形に並べられた椅子を使った振付を繰り返し行う。身につけていた帽子やジャケットを脱ぎながら、次第に躍動的な動きが強まっていく。使用楽曲 "Echad Mi Yodea"(The Tractor's Revenge and Ohad Naharin 編曲)も一度聴けば忘れ難い強い旋律で、終演後も観客の会話に出るようなインパクトを持っていた。

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「ECHAD MI YODEA」写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

第2部は、ヴァイオリンの生演奏による幕開きとなった。YAGPに出演していればプリコンペティティブ部門と思われる若さのリア・カン(Ria Kang ジュリアード音楽院プレカレッジ・プログラム )の演奏中には、歓声や拍手が起きる瞬間もあり、バレエ公演ならではの賞賛が届いたのではないだろうか。(演奏楽曲はフリッツ・クライスラー作曲「前奏曲とアレグロ」、ピアノ伴奏 Dr. Kyoung Im Kim, The Juilliard School)。
続いて上演されたのは『LES BOURGEOIS(レ・ブルジョワ)』ベン・ヴァン・カウエンバーク(Ben Van Cauwenbergh 振付)。アントニオ・カザリーニョ*(Antonio Casalinhoミュンヘン・バレエ)は、作品のエンターテインメント性で観客を楽しませながらも、ジャンプやステップでは流れるような柔らかさを持たせる技量を示していた。この直後にはファイナル出場者の演技が続き、カザリーニョが袖の方に走り1番目のダンサーを舞台上に迎えた瞬間が微笑ましかった。
2部で披露されたファイナリスト選抜作品は、ジュニア男性部門から佐居勇星(LEON YUSEI SAI アメリカ)『パリの炎』男性ソロ、プリコンペティティブ部門からJihan Khansa Alsy Permana(インドネシア)『ラ・フィーユ・マルガルデ』女性ソロ、アンサンブル部門からはイスラエルのグループが『ARCHITECT』にて長いポールを使った極めてアクロバティックな群舞を、シニア部門からはGeonhee Park(韓国)の『グラン・パ・クラシック』男性ソロ、クリスタル・フアン(Crystal Huang アメリカ)による『海賊』よりグルナーラのソロを披露した。決戦では、回転やジャンプの難易度の競い合いが高まる中、ガラ出演者の中には、テクニックで沸かせるタイプだけでなく、PermanaやParkのように手足の使い方や音楽性で魅せるタイプのダンサーも選ばれていた。

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「グラン・パ・クラシック」Geonhee Park
写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

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「ARCHITECT」
写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

そのほか2部は王道的な作品で構成されていた。ジョージ・バランシン振付『タランテラ』は、エマ・フォン・エンク*(Emma Von Enckニューヨーク・シティ・バレエ)のインタビューに続いて上演された。男性パートを踊ったジェイク・ロクサンダー*(Jake Roxander アメリカン・バレエ・シアター)は、勢い溢れるテクニックだけでなく、女性パートに応えるように自らの動きを創っていく身のこなしが見事であった。シュツットガルト・バレエのエリサ・バデネス*(Elisa Badenes)とマルティ・パイシャ(Martí Paixà)は、この日はジョン・ノイマイヤー振付『椿姫』より白のパ・ド・ドゥを披露。唐突な抜粋となるガラ形式での上演でも、ドラマを届けることに成功していた。ブルックリン・デヴォン・マック*(Brooklyn Mackフリー)は、『ゴパック』(ロスティスラフ・ザハロフ Rostislav Zakharov振付)を披露。ひまわりの咲く背景のせいか、力強さよりも軽快な印象の強い踊り方であった。

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「タランテラ」エマ・フォン・エンク、ジェイク・ロクサンダー
写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

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「椿姫」エリサ・バデネス、マルティ・パイシャ
写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

この日も最後はスイート形式による作品上演で締めくくられた。『ドン・キホーテ』全幕より、主役やソリストのパートの抜粋で構成されたものが披露された。第1幕のキトリとバジルのパートを飯島望未*と山本雅也*(K-BALLET TOKYO)。エスパーダのソロをカルヴィン・ロイヤル3世*(Calvin Royal III アメリカン・バレエ・シアター)。キトリ第1幕ソロをタイラー・ドナテッリ*(Tyler Donatelli ヒューストン・バレエ)。酒場よりカップを使った男性ソロをアントニオ・カザリーニョ*。第3幕からは、アダジオをアメリカン・バレエ・シアターより、クロエ・ミセルディン*(Chloe Misseldine)とアラン・ベル*、キトリのソロをシュツットガルト・バレエのマッケンジー・ブラウン*。バジルのソロをアラン・ベルが披露。コーダでは、出演者たちがパート分けをしながら次々に高度なテクニックを披露した。アントレとブライズメイドはYAGPファイナリストが踊った。

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「ドン・キホーテ」飯島望未、山本雅也
写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

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「ドン・キホーテ」クロエ・ミセルディン、アラン・ベル
写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

終盤は前夜と同様、映像とフィナーレ(出演者全員)となった。映像の中での言及に加え、YAGPの創立者ラリッサ・サヴェリエフ(Larissa Saveliev)にあらためて拍手が送られた。コンクールとガラ公演のどちらも、アメリカらしいエンターテインメント性の強さを感じることは否定できないが、その中でも、個々の個性を重んじてバラエティに富んだダンサーを世界中に輩出しているユース・アメリカ・グランプリの25年間での功績は大変大きいものと言えるだろう。それを象徴するかのような華やかな2夜であった。

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フィナーレ 写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

(2024年4月19日 David H. Koch Theater *印は過去にYAGPに出場したダンサー)

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