スターンズ、シェフチェンコ、ロクサンダー、コーカーが見事な演技と技術の融合を見せた、ABT『オネーギン』
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ワールドレポート/ニューヨーク
針山 真実 Text by MAMI HARIYAMA
American Ballet Theatre アメリカン・バレエ・シアター
"Onegin" by John Cranko 『オネーギン』ジョン・クランコ:振付
アメリカン・バレエ・シアターの2024年のサマーシーズンが6月18日開幕しました。
初日のオープニングナイトは『オネーギン』全幕で会場はほぼ満席となっていました。
初日のキャストは予定されていた主演2人から変更がされたものの、経験豊富なコリー・スターンズがオネーギン役、そしてクリスティーン・シェフチェンコがタチアナ役。タチアナの妹オルガ役には近年ソリスト役を多く演じているジミー・コーカーとレンスキー役には同じく注目を浴びているジェイク・ロクサンダー。この若手の2人の踊りが素晴らしく、オルガ役のジミーはオルガにピッタリで良く似合っていて、タチアナと対照的な少女。元気で陽気な性格と若さが溢れていました。友人たちと踊るシーンでも楽しさが伝わってきて、レンスキーとのパ・ド・ドゥではしっとりと優雅に、美しいラインと息の合ったパートナー・シップを見せました。
クリスティーン・シェフチェンコ
Christine Shevchenko Photo: Rosalie O'Connor.
ジミー・コーカーとジェイク・ロクサンダー
Zimmi Coker and Jake Roxander in Onegin. Photo: Rosalie O'Connor.
怪我でしばらく舞台から遠ざかっていたオネーギン役のコリー・スターンズを久々に観られたのは嬉しかった。黒いタイツとスーツがよく似合って歩いているだけでも魅力的。オネーギンに出会うも彼の前ではまだ恥じらいがあるタチアナ。やはり印象的なのは、1幕最後のタチアナの寝室で夢の中にオネーギンが現れて踊るパ・ド・ドゥ。タチアナの心に幸せが満ちて気持ちがいっぱいに溢れる様子が伝わってきます。実際には関心がなくクールだったオネーギンも、このシーンでは感情豊かにタチアナと踊る姿のギャップに、見ているこちらも胸がドキドキしてしまいます。徐々にドラマティックになっていく音楽と、2人の高度なパ・ド・ドゥ技術が素晴らしい1幕のエンディングでした。
2幕では、コリー演じるオネーギンの冷たく意地の悪い態度に見ているこちらも感情移入してしまい腹が立ち、タチアナがとても可哀想な気持ちになります。特に素晴らしかったのはオネーギンと決闘することとなり、決闘の前に悲しみと苦しみ、後悔を表現するジェイクが演じたレンスキーのソロ。ジェイクの表現力が大変素晴らしく、心の底からの後悔が感じられ、さらに技術も申し分がない。あれだけの表現をしながらの技術とテクニックが見せられるのですから、注目を浴びるのは納得です。彼の今後の活躍は楽しみです。
クリスティーン・シェフチェンコとコリーン・スターンズ Christine Shevchenko and Cory Stearns in Onegin. Photo: Rosalie O'Connor.
3幕のパーティでタチアナと侯爵が踊るところへ再び現れたオネーギンを見て、今更、何なのだとまた腹が立ってしまうのは、コリーの演技力があるからでしょう。赤い美しいドレスがとても良く映え優雅に踊るタチアナ役のクリスティーン。3幕最後のオネーギンとタチアナのパ・ド・ドゥが再び圧巻。オネーギンの激情に葛藤するタチアナ、2人の心の揺れ動く葛藤、そしてここでも高難易度のパ・ド・ドゥの素晴らしい振付の中で表現され、これこそが芸術だと感動しました。
ジョン・クランコの見事な振付とチャイコフスキーの音楽、そして素晴らしいダンサーたちの名演技と技術の融合を見ることが出来たオープニングナイトでした。
(2024年6月18日 メトロポリタンオペラ劇場)
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