イザベラ・ボイルストンとエルマン・コルネホが素晴らしい感情表現を見せ、愛に溢れたパ・ド・ドゥを踊った、ABT『ロミオとジュリエット』

ワールドレポート/ニューヨーク

針山 真実 Text by MAMI HARIYAMA

American Ballet Theatre アメリカン・バレエ・シアター

"Romeo and Juliet" by Kenneth MacMillan
『ロミオとジュエリエット』ケネス・マクミラン:振付

この日の『ロミオとジュリエット』の主演キャストは、ジュリエットに今アメリカン・バレエ・シアターを引っ張るプリンシパルダンサー、イザベラ・ボイルストン37歳。2007年にカンパニーに入団して以来、着々と実力を伸ばし2014年にプリンシパルに昇格。昇格後も更にレベルを上げ続け彼女の活躍は止まらない。持ち前の明るさからも老若男女に人気があり彼女の公演はチケットの売れ行きが良いそう。
ロミオ役にはエルマン・コルネホ43歳。今年アメリカン・バレエ・シアターに入団して25周年を迎える大ベテランでカンパニーも祝福している。そのコルネホのロミオは大変素晴らしかった。踊りと演技がとても自然で余裕がある。ロミオを演じているというよりそこにロミオがいる感じ。動きが軽く、キレがあって、音楽の一音一音によく動きが合っていて、見ている人を惹き込みます。
マキューシオやベンヴォーリオとの掛け合い、やり取りも3人の息が合っていて自然でコミカルで楽しめます。1幕のキャピレット家の舞踏会に忍び込む前に3人が踊るわたしのお気に入りの場面も、3人のテクニックがよく揃い、ロミオを筆頭に舞台上で踊る3人自身がその空間を楽しんでいるようで、見ている方も笑顔になりました。

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Herman Cornejo in Romeo and Juliet. Photo: Rosalie O'Connor.

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Jake Roxander in Romeo and Juliet. Photo: Rosalie O'Connor.

マキューシオを踊ったのは、若手で注目株のジェイク・ロクサンダー。彼はまた大変素晴らしい。
ベテランプリンシパルのコルネホを追いかけるように、彼もテクニックが抜群で回転は自由自在、どんなポジションからであっても確実にコントロールを見つけ、素晴らしい回転に持っていく。軸にぶれがない。ジャンプも高さがあって軽くて音楽も外さない。そして演技も上手く、とにかく本人自身が舞台を自由に操って楽しんで踊っている。舞踏会シーンのソロ、そして2幕のマンダリンダンサーを率いて踊る見せ場のシーンでも、オペラハウスを我が物にし観客を大いに沸かせました。

ジュリエット役のイザベラの登場は悪戯っ子で元気のあるジュリエット。
キャピレット家の舞踏会でロミオに出会うと、恥じらいながらもロミオに惹かれていく。
名シーンであるバルコニーのパ・ド・ドゥになると大胆になり、ロミオへの愛が1秒1秒毎増して抑えられなくなる姿が表現されました。ロミオ役のコルネホとの愛に溢れたパ・ド・ドゥは、2人ともの感情表現が素晴らしく胸がいっぱいな様子が伝わってくるだけでなく、動きにスピード感と躍動感があり、難しいリフトやテクニックも全くそう感じさせません。情緒的で美しい音楽とともに素晴らしい踊りを見ることが出来ました。

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Isabella Boylston in Romeo and Juliet. Photo: Rosalie O'Connor.

ティボルト役にはバレエ団のベテランダンサー、ロマン・ザービン。まず立ち姿からキャピレット家の跡取りとしての威厳を感じます。モンタギュー家への深い敵意も感じられ、ロミオが舞踏会に忍び込んで来たことを知っても、その場では気持ちを抑えなければならない苛立ちも良く伝わってきます。
2幕の決闘ではマキューシオ役のジェイクと剣を振りかざし戦った後、ロミオと戦う。ここは双方にもっと勢いと噛みつくような白熱した強さがあっても良い気がしました。

3幕。ジュリエットの両親と婚約者のパリスがジュリエットの寝室に来るシーン。拒絶するジュリエットに怒りを露わにする父親、説得する母親と、そこに冷たい目線を送るパリス。泣き叫ぶようなジュリエットを見て心が痛くなります。
最後のシーンはキャピュレット家の地下の墓室。毒薬を飲んで死んでいるかのようなジュリエットを見つけて抱きかかえるロミオ。完全に脱力しているジュリエットを何度も抱きかかえ、現実を受け入れられずに悲しみの混乱の中で踊るロミオの姿に言葉が詰まる。ここまで脱力したダンサーを抱きかかえて動くのは一体どれくらい大変なんだろう、とダンサー視点でも見てしまいます。ロミオも毒薬を飲み死んでしまった後、ジュリエットが目を覚ましてロミオを見つけ、必死でロミオを起こそうとするドラマティックなシーン、泣き叫び短剣で自らも自死するとてつもなく辛く感動的な姿を、イザベラは全身全霊ジュリエットになって表現していました。

1965年に英国ロイヤル・バレエ団で初演されて以来ケネス・マクミランの代表作とされている『ロミオとジュリエット』。セルゲイ・プロコフィエフ作曲の美しいメロディであったり、層の厚い和音と迫力のある音楽がこのバレエを更に素晴らしいものにしていると思います。それに加えて今夜はレベルの高いダンサーたちによる名演技と踊りで、先月の『オネーギン』に続き感情的で叙情的な素晴らしいバレエを見ることが出来ました。
(2024年7月10日 メトロポリタンオペラ劇場)

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