YAGP25周年記念ガラ公演 YAGP 25th ANNIVERSARY GALA ~from New York

ワールドレポート/ニューヨーク

YAGP25周年記念ガラ公演

YAGP 25th ANNIVERSARY GALA ~from New York

今年のユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)本選後のガラ公演は、4年ぶりにニューヨークにて開催ということもあり、例年にも増して注目を集めていた。YAGP発足25周年を記念し2夜連続でガラ公演が行われ、現地時間4月18日には1公演目となる「YAGP 25th ANNIVERSARY GALA」がDavid H. Koch Theater(ニューヨーク州・リンカーンセンター内)にて開催された。公演後に行われるガラ・ディナーに向けてドレスアップした観客も多く見られ、よりいっそう華やかな場であった。

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「グラン・デフィレ」写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

2時間強(休憩なし)で構成されたプログラムは、作品の上演に加え、合間には過去受賞者の受賞時の映像やビデオメッセージなどの映像コンテンツが舞台上のスクリーンに投影された。幕開きは、『眠れる森の美女』の序奏にのせたミスティ・コープランド(Misty Copeland アメリカン・バレエ・シアター)が絵本を朗読している演出の映像。おとぎ話の本のページがめくられていく映像を通じ、YAGPがバレエダンサーを志す子供たちにとって世界中の学校やカンパニーへと通ずる道(魔法の森)であると語られ、大きな拍手が送られた。

恒例の「グラン・デフィレ」では、ニューヨーク本選のファイナリストたち総勢約 400人(30カ国以上)が一堂に会した。舞台全体を埋め尽くすほどの大人数での群舞に加え、トリプルが指定された女性の回転技や、高難度な男性のジャンプが組み込まれた振付は、本選決勝で披露された超絶技巧を思い起こさせる。感動冷めやらぬうちに続いて登壇した今年のプレゼンター、リチャード・カインド(Richard Kindブロードウェイ・ミュージカルなどに出演)からは、バレエへの尊敬の意がコミカルに表された。続いて登場した俳優ロブ・シュナイダー(Rob Schneider)は、バレエっ子を育てた父親としての経験談を話し、こちらも観客の笑いを誘った。

ファイナリストの中から、直前に選抜された数名がガラ公演の舞台で踊ることもYAGP恒例の光景。この日は、オーウェン・シモンズ(Owen Simmons カナダ)、マルティーニョ・リマ・サントス(Martinho Lima Satos ポルトガル)、クリスタル・フアン(Crystal Huang アメリカ)によるコンテンポラリー作品、プリコンペティティブ部門からはアニー・ウェブ(Annie Webb アメリカ)による『ジゼル』女性ソロ(別名アダンのヴァリエーション)、フェニックス・バレエ & マスター・バレエ・アカデミー(アメリカ)による群舞『UKRAINIAN DANCE(ウクライナのダンス)』が披露された。曲の途中でも要所要所で盛大な歓声が上がった。

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マルティーニョ・リマ・サントス 写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

この公演にて世界初演を迎えた『MORE THAN NOTHING』(ジェームス・ホワイトサイド* 振付(James Whiteside アメリカン・バレエ・シアター)では、聴き馴染みのある"Mas Que Nada(マシュ・ケ・ナダ)" (Jorge Ben 作曲)のピアノ生演奏にのせて、赤黄青という原色に身を包んだ3人のダンサーが、アクロバティックなテクニックでリズムを刻んだ。爽快さが印象的であった。出演は、イザベラ・ボイルストン*(Isabella Boylston)、キャサリン・ハーリン*(Catherine Hurlin)、ジェイク・ロクサンダー*(Jake Roxander)。振付のホワイトサイドも含めた全員がYAGPを経て今日のアメリカン・バレエ・シアターを盛り上げる存在となっている。

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「MORE THAN NOTHING」写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

続いて上演された『DEA』(Maria Konrad振付)では、舞台を大きく覆うほどの長いスカートを靡かせたアディ・シソコ(Adji Cissoko Alonzo King LINES Ballet)の登場が一気に観客を惹き込んでいた。シソコは、真っ赤な衣裳を華やかに着こなし、長い手足の魅力を存分に生かすコントロールの繊細さが光っていた。パートナーはフセヴォロド・マイエフスキー*(Vsevolod Maievskyiイングリッシュ・ナショナル・バレエ)。こちらの作品も本公演にて世界初演となった。

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「DEA」アディ・シソコ
写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

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「DEA」アディ・シソコ、フセヴォロド・マイエフスキー
写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

『TUPLET』(アレクサンダー・エクマン Alexander Ekman振付)と『TITO !』(Nnamdi Nwagwu振付)のコンテンポラリーの2作品では、クラシック形式に固執せずに押し広げられたステップで、あの広いステージにたった1名でも観客を楽しませることを実現していた。自身振付の『TITO !』を踊ったNwagwu*は、ギターや打楽器による生演奏にあわせて、身体全体を振動させ続けるという、シンプルでありながら稀な独自の表現を愉快に届けた。『TUPLET』では、アンシェヌマンを効果音のように口ずさむときの音声を音楽とし、それに応えるように作品を形成していく(『Ballet 101』にも似ているようで非なる)形式。出演したジョン・ボンド *(Jon Bond ネザーランド・ダンス・シアター)は、流れるような動きの美しさを存分に発揮していた。
その間に上演されたのは、『オネーギン』(ジョン・クランコ振付)第3幕を締めくくる黒のパ・ド・ドゥ。公演全体を通してネオクラシックやコンテンポラリーの色が強い中、クラシック・バレエ観客に馴染みのある本作が突如始まり、音楽が始まると同時に期待と緊張感が客席中に瞬時に走るような感覚があったが、タチヤーナを踊ったエリサ・バデネス*(Elisa Badenes シュツットガルト・バレエ)は、目線に至るまで神経の行き届いた所作により、オネーギンをリードしているように見えるほどの貫禄を感じさせた。YAGPが輩出したダンサーが成熟して世界中のカンパニーを牽引していることを象徴しているようであった。オネーギン役には、フリーデマン・フォゲールに代わってマルティ・パイシャ(Martí Paixà シュツットガルト・バレエ)が出演した。

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「オネーギン」エリサ・バデネス、マルティ・バイシャ 写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

過去の出場時の映像に続いて現在の本人が登場する上演形式も組み込まれていた。冒頭では、ブラディ・ファーラー* (Brady Farrar ABTスタジオカンパニー)が、これを聴いたら蜂!、とも言えるリムスキー・コルサコフ(Nikolay Rimsky-Korsakov)の楽曲「熊蜂の飛行」に合わせ、その名の通り『FLIGHT OF THE BUMBLEBEE』と題した自身振付の作品を披露。短いながらにスピード感に溢れたひとときが、終演後も印象に残った。現在、ニューヨーク・シティ・バレエのプリンシパルとなったイザベラ・ラフレニア*(Isabella Lafreniere)は、『WHO CARES ? 』(ジョージ・バランシン振付)よりソロ・パート(I'll Build a Stairway to Paradise)を踊った。長い手足とポニーテールで、観客を明るく楽しませた。この上演形式の中で一番印象的であったのは『LE GRAND PAS DE DEUX(ル・グラン・パ・ド・ドゥ)』(クリスチャン・シュプック振付)を踊ったスカイラー・ブラント*(Skylar Brandt アメリカン・バレエ・シアター)。幼少時の彼女がポアントを履きながら応えるインタビューが映し出され、「友達の誕生日パーティがあってもリハーサルがあれば行けないの」と、プロ意識が友達にわかってもらえないと漏らす表情がとても可愛らしい。メガネやトートバッグを使ってコミカルに創られたパ・ド・ドゥでは、同じカンパニーのダニエル・カマルゴ*(Daniel Camargo アメリカン・バレエ・シアター)と共に、おちゃらけながらも高度なテクニックを安全に披露し、客席からはたくさんの笑いが起きていた。

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「ル・グラン・パ・ド・ドゥ」スカイラー・ブランド、ダニエル・カマルゴ 写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

コンテンポラリー部門の出場者たちによって踊られた『BOLERO X』(Shahar Binyamini 振付)では、ベジャール版『ボレロ』同様にラヴェルの楽曲に合わせ、大人数で同じ動きをカノンのように繰り返し、力強い群舞を届けていた。

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「BOLERO X」写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

最後を締めくくったのは『海賊』のグラン・パ・ド・ドゥにヴァリエーション各種を追加したスイート形式の上演。アダジオでは、アメリカでの『白鳥の湖』主役デビューでも話題のクロエ・ミセルディン*(Chloe Misseldine アメリカン・バレエ・シアター)が登場。YAGPの象徴と言っても過言ではないアラン・ベル*(Aran Bell アメリカン・バレエ・シアター)のサポートに支えられ、長身かつ手足の長い彼女の武器が生かされ、荒けずりながらも美しい印象が残るアダジオであった。コンスタンティン・アレン*(Constantine Allen オランダ国立バレエ)によるコンラッドのソロ、ビアンカ・スグダモア*(Bianca Scudamore パリ・オペラ座バレエ)によるガムザッテイ(メドーラとして使われる)のソロと続く。コーダではブラディ・ファーラー*(Brady Farrar)も加わり、それぞれがパート分けをしてテクニックで観客を沸かせる中、エリザベス・ベイヤー*(Eilsabeth Beyer アメリカン・バレエ・シアター)が32回グランフェッテを2回セット行うという不思議な場面では大きな拍手と声援が行われた。

フィナーレ直前には、今回出演していないダンサーも含む世界中のYAGP出身ダンサーたちの出場当時の演技映像が流れ、どれほどのスターの登竜門になっているかを改めて感じさせていた。

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「海賊」写真提供/Courtesy of YAGP from LK Studio

華やかな場となった公演の印象が濃く記憶される一方で、当初出演が予定されていた複数のダンサーが、特段のアナウンスもなく出演しなかったという事態も起きていた(フリーデマン・フォゲール、キミン・キム、永久メイ、マリア・ホーレワ他)。一部のダンサーの出演は、YAGP主催者の意向に反し、会場側の意向によって取り止めとなったという話も囁かれていた。世界情勢の影響は、同じ芸術を志す若き才能が国境を超えて集うYAGPの象徴とも言える場にまで及んでいた。

(2024年4月18日 David H. Koch Theater *印は過去にYAGPに出場したダンサー)

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