アレッサンドラ・フェリが『ウルフ・ワークス』のニューヨーク初演で踊り、スタンディグオーベーションによる喝采を受け祝福された

ワールドレポート/ニューヨーク

針山 真実 Text by MAMI HARIYAMA

"WOOLF WORKS" choreographed by Wayne McGregor

『ウルフ・ワークス』(2015年ロンドン初演) ウェイン・マクレガー:振付

『ウルフ・ワークス』の振付を手掛けたウェイン・マクレガーは1970年イギリス生まれ。1992年、自身のバレエ・カンパニー Random Dance(現在のCompany Wayne McGregor)を設立。2006年に英国ロイヤル・バレエの常任振付家に就任した。
音楽を手掛けたのは多くの映画音楽などを作曲している作曲家でピアニストのマックス・リヒター。メイクアップデザインアーティストにKABUKIとあり、名前に興味を持って調べてみるとイギリス出身で現在アメリカでも活躍するヘアメイクアーティスト、多数の映画やセレブレティのメークアップをしている売れっ子アーティストらしい彼がこのバレエのメイクデザインを担当していた。

『ウルフ・ワークス』は、イギリスの小説家、ヴァージニア・ウルフ(1882~1941)の作品から三つの構成になっており、1幕が「今の私 かつての私」(「ダロウェイ夫人」から)、2幕は「形成」(「オーランドー」から)、3幕は「火曜日」(「波」から)となっている。

今回、アメリカン・バレエ・シアターで初演されたが、中でも注目されたのは2015年にこの作品がイギリスで世界初演された際に出演した、アレッサンドラ・フェリがニューヨーク初演にも出演したこと。
フェリは1985年に当時の芸術監督ミハイル・バリシニコフの誘いを受けアメリカン・バレエ・シアターに入団。以後、2007年の『ロミオとジュリエット』による引退公演まで、多くのニューヨークのファンをバレエの舞台で魅了してきた。私もその一人で、フェリが出演する『ジゼル』や『ロミオとジュリエット』を見るために劇場に何度も足を運んだ。
そのアレッサンドラ・フェリは引退公演から18年の時を経て、現在61歳。再びニューヨークのメトロポリタン・オペラ劇場で踊るというのだから驚いた。会場には彼女の熱烈なファンや彼女をもう一度観たいと願うバレエファンがたくさん来場していた。

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アレサンドラ・フェリ Alessandra Ferri in Wayne McGregor's Woolf Works. Photo: Kyle Froman.

1幕、「今の私 かつての私 "I now, I then」
年齢で評価したくはないと思いつつも、フェリはやはり61歳とはとても思えない。幕が開き、上流階級の女性クラリッサ役(『ダロウェイ夫人』の主人公)のフェリが登場し拍手が鳴る。フェリのあの美しい足のライン、そして何度も見たジュリエットの軽やかさも健在。その昔、アメリカン・バレエ・シアターでよく組んで踊っていたベストカップル、フリオ・ボッカの引退以来、彼女とよく踊ってきたベテラン、プリンシパル・ダンサーのエルマン・コルネホと組み、美しくしなやかに踊るフェリを見て誰が驚かなかったでしょうか?
暗い舞台上に巨大な木製のフレームのようなものが3個ほど置かれていて、それらをダンサーたちが走り抜けたり潜り抜けする。正直に書くとストーリーはあるようでも演技はほとんどなく、ダンサーが入れ替わり踊るのだが、舞台を見ているだけではストーリーは分かり難い。
音楽はゆっくりとしたメロディを弦楽器が旋律を奏で、同じようなメロディが繰り返し流れ続けている。ダンサーとして目を惹いたのは、若いころのクラリッサを踊った現在コール・ド・バレエのレア・フレイトウ。今まで多くの公演を見てきたが彼女をしっかり見たことが無かった。今回このコンテンポラリー作品で彼女を発掘したような気持ちで、美しい身体と動きが目を惹き今後も注目したいと思った。

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キャサリン・ハーリン、ダニエル・カマルゴ Catherine Hurlin and Daniel Camargo in Wayne McGregor's Woolf Works. Photo: Marty Sohl.

2幕、「オーランドー"Becomings"」
1幕のスローで重たい雰囲気と変わって、SF映画のようなレーザー光線や光りを用いた正に現代的な演出と構成。
ダンサーらが機械的で高速な音とともにスピーディに激しく踊る。レーザーの光りを活かし、その光の間をダンサーが通り抜けるときに衣裳に光りが映ると七色に光るのがカッコいい。客席側にもレーザー光線が届いて明るくなるなどクラシック・バレエでは見ない演出。奇抜で硬そうなレザーのような輝く全身金のスーツを来たダンサーらが激しく踊る姿に、衣装の素材も気になったが、そこはデザイナーがしっかりと動ける衣装を作っているのだと思う。
目を惹いたのはキャサリン・ハーリン、現在28歳。身体能力、柔軟性、技術、スピード感、全てが素晴らしい。先週公演されたオネーギンで可愛い妹のオルガ役を演じていた彼女でしたが、何でも簡単に踊れてしまうダンサーなのだと分かる。既にプリンシパルの彼女が今後アメリカン・バレエ・シアターを引っ張る存在になるのでしょう。

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アレッサンドラ・フェリ、エルマン・コルネホ Alessandra Ferri and Herman Cornejo in Wayne McGregor's Woolf Works. Photo: Rosalie O'Connor.

3幕、「火曜日」「波・"from the Waves"」
暗闇の中背景には波の映像だけが映し出されコールド・バレエは黒とグレーの衣装で波を表現するように舞台上を動き踊る。1幕『ダロウェイ夫人 』の中で若き日に愛したピーター役のエルマン・コルネホとフェリが中心にコール・ド・バレエと背景の波に揺られるように踊り、フェリはゆったりとしなやか、美しく悲しく踊る。途中、10代の子どもたちが登場し無邪気に遊ぶ姿は昔を思い出させる情景だろうか。コール・ド・バレエのフォーメーションが入り組み、どこに目を集中さえていいのか分からなくなるなか、波のなかで身を任せ踊るフェリの美しさを目に焼き付けた。

古典バレエのような華やかなセットやコスチュームがなく、演技もなく、メトロポリタン・オペラ劇場だと大きすぎるような気がしつつ、次回はもう少し小劇場で見るかして、少し間近からこの作品を見てみたいと思いました。

終演後のカーテンコールではアレッサンドラ・フェリが中心に立ち、大きな拍手を浴びました。
振付家のウェインも登場し花束をささげるなど、劇場はスタンディングオーベーションでフェリの登場と素晴らしい踊りに賞賛の拍手が長く送られました。
(2024年6月28日 メトロポリタンオペラ劇場)

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