ニューヨークのホリデー・シーズン、今年もバランシン版『くるみ割り人形』オープニングナイトの幕が開いた!

ワールドレポート/ニューヨーク

針山 真実 Text by MAMI HARIYAMA

New York City Ballet ニューヨーク・シティ・バレエ

George Balanchine's The Nutcracker by George Balanchine
ジョージ・バランシン版『くるみ割り人形』

今年もこの時期がやってきました。
バレエ界の『くるみ割り人形』シーズンの到来です。全米のほとんどのバレエ団、そしてバレエ学校も『くるみ割り人形』を上演する冬の「くるみシーズン」です。
ニューヨークでは今年もアメリカ感謝祭の翌日、ニューヨーク・シティ・バレエのバランシン版『くるみ割り人形』が開幕しました。
バランシン版『くるみ割り人形』は1954年2月2日にニューヨーク市で初演されて以来、ニューヨークのホリデー・シーズンの風物詩として上演され続けて、地元の人たちや観光客も多く訪れ、このシーズンだけで10万人以上の人がリンカーンセンターの会場に足を運ぶそうです。今シーズンは52公演を控えているそうです。

今年のオープニングナイトの主演・金平糖の精を踊ったのは昨年のオープニングナイトと同じメーガン・フェアチャイルド。メーガン本人によるとバレエ団に入って21年間この役(金平糖の精)を踊っていて、そのうち10回以上はオープニングナイトで主演を踊っているそう。
1幕、幕開けの序曲が演奏され舞台には天使と大きな星の幕が登場し、序曲の終わりと共に幕が上がってパーティの支度をしているお家が現れます。この大きく芸術的なシアターで立派な幕やセットを見るだけでも、とても豪華で夢のある世界感を感じることが出来ます。
数あるバレエの中でもやっぱり夢のあるバレエは素敵だなと思います。

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Sasi Shrobe-Joseph, Hannon Hatchett, students from the School of American Ballet and the Company in New York City Ballet's production of George Balanchine's The Nutcracker. Photo credit: Erin Baiano

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New York City Ballet's production of George Balanchine's The Nutcracker. Photo credit: Erin Baiano

マリー役の少女サシ―(Sasi Shrobe-Joseph)は走り方が綺麗です。バレエをする子どもたちにとって上手く走ることが意外と難しいのですが、少し走っただけで印象に残りました。そして彼女はマイムも自然体でありながらはっきり伝わって来て、小さなバレリーナはマリー役が良く似合っていました。
フリッツ役のネイサン(Nathan Nebres)は10歳で小柄で可愛らしい少年、常に動き回って悪さをしては両親に怒られたり、マリーと喧嘩をしたり困らせたりする悪戯な弟。このマリーとフリッツを見ていると実際の私の2人の子どもたちを見ているようで、姉弟の様子がバランシンにもこのように映ったんだな、とても上手く描かれているなと笑いながら見てしまいました。

1幕のドロッセルマイヤー役にはロバート・ラ・フォスが登場。彼は去年の『くるみ割り人形』でも同じ役を演じ、先日の『コッペリア』でもコッペリウスを演じていて、このような重要な演技が必要な役どころに欠かせない存在です。ドロッセルマイヤーが連れてきた兵隊人形を踊ったアンドレス・ズニーガの踊りが、勇ましく歯切れよく、兵隊らしい機敏な動きに回転やジャンプのテクニックも素晴らしくて見応えがあり、会場も沸きました。

ネズミと兵隊が戦う前にマリーが小さくなっていってしまうシーンで、クリスマスツリーがどんどん伸びていく演出があるのですが、ここがニューヨーク・シティ・バレエの『くるみ割り人形』のひとつの見どころで、ピカピカ、キラキラと豪華に輝くクリスマスツリーがどこまでも大きくこの劇場の天井を超えてもまだ伸び続けるシーンが圧巻。このクリスマスツリーの重量は1トンあり、高さは約12.5メートルだそうです。

大きなネズミと子ネズミたちが兵隊たちと戦うシーンの兵隊役は全員子どもたちで、入れ替わり立ち代わりネズミや兵隊が動き回ります。バレエ的な動きとしては難しい動きはなくても子どもたちを上手く起用し、フォーメーションの動きとシンプルな動きだけで戦いのシーンが上手く表現されていて素晴らしいです。この『くるみ割り人形』には、カンパニー付属のバレエ学校「スクール・オブ・アメリカンバレエ」から120名ほどの生徒が2つのグループに分かれて出演しているそうです。
そして雪のシーンは、すべてのバレエ団の『くるみ割り人形』の見せ場と言ってもいいと思います。特にニューヨーク・シティ・バレエの見せどころは、降り始めた雪がだんだん激しくなってステージ上に積もるほどの雪が降るなかで踊るコール・ド・バレエのダンサー達の美しい情景が見せ場です。

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New York City Ballet's production of George Balanchine's The Nutcracker. Photo credit: Erin Baiano

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Daniel Ulbricht in New York City Ballet's production of George Balanchine's The Nutcracker. Photo credit: Paul Kolnik

2幕はまた華やかで、ピンクを基調にした明るく輝く舞台上はまさに夢の世界。
ニューヨーク・シティ・バレエのヴァージョンは、初めに金平糖の精が天使たちと共に登場し、金平糖の精のヴァリエーションが踊られます。そのあとでお菓子の国のチョコレート、コーヒー、キャンディーケーンなどが登場してマリーをお菓子の国に迎えます。
キャンディーケーンのリードを踊ったのも去年同様にダニエル(Daniel Ulbricht)で、彼の踊りはいつ見てもとても音楽的で気持ちがよく、シャープで軽快な動きが素晴らしい。彼もニューヨーク・シティ・バレエでは24年目という超ベテランで長きにわたる活躍に敬意を払いたいと思います。

花のワルツのリードのデュードロップを踊ったミラ・ナドン(Mira Nadon)も去年のオープニングナイトで同じ役を踊っており、少なくとも3人のプリンシパルとゲストアーティストのドロッセルマイヤーが去年と同じキャストで登場したのですが、それだけカンパニーから初日を任せたいという信頼があるからでしょう。
ミラは長身で踊りも大きく派手さと華やかさの両方があり、テクニックも強い。コール・ド・バレエと踊っていてもすぐ目立ってデュードロップがとてもよく映え、2023年にプリンシパルに昇格した期待されている若手のダンサーです。

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Megan Fairchild as the Sugarplum Fairy with students from the School of American Ballet in New York City Ballet's production of George Balanchine's The Nutcracker. Photo credit: Erin Baiano

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Mira Nadon as Dewdrop with the Company in New York City Ballet's production of George Balanchine's The Nutcracker. Photo credit: Erin Baiano

そして21年間、金平糖の精を踊っているというメーガンは、もう目を瞑っていても踊れてしまうのではないかと思うくらいの安定感と強さがあり、表現力もあり、さすがに余裕があります。パ・ド・ドゥでも手を離す動きや、入り組んだ高度な動きが多く、お互いのパートナリング技術はもちろん、コアや足がしっかりしていないとそうスムーズに見せることが出来ないであろう動きも、彼女が踊ると絶対安心で、感嘆してしまいました。

会場はほぼ満員で、感謝祭の翌日ということもあり家族全員で見に来ている人たちだったり、ホリデーシーズンを楽しもうと来場しているカップルや友達同士で集まって見に来ている人たちが多くいるようでした。
アメリカではニューヨーク・シティ・バレエが50回以上、ワシントン・バレエやヒューストン・バレエも40公演近く『くるみ割り人形』を行い、おそらく全米どこにいても『くるみ割り人形』が見られます。
ニューヨークでもニューヨーク・シティ・バレエの他にもニューヨーク・シアター・バレエやジョフリー・バレエ、アイクン・バレエ、他にも数多くの団体が『くるみ割り人形』を上演しています。

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Megan Fairchild and Joseph Gordon as the Sugarplum Fairy and her Cavalier in New York City Ballet's production of George Balanchine's The Nutcracker. Photo credit: Erin Baiano

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New York City Ballet's production of George Balanchine's The Nutcracker. Photo credit: Erin Baiano

私自身がディレクターをしているニューヨーク・ダンス・アーティストリー(NY DANCE ARTISTRY-HARIYAMA BALLET)では、まだ劇場に行ったことが無い小さな子どもたちも歓迎してファミリー向け、また大人でも気軽に来場しカジュアルに楽しんでもらえる全く新しい『くるみ割り人形』のスタジオパフォーマンスを3公演行いました。
ニューヨークと日本の演劇業界で活躍できる次世代のクリエイティブ・リーダーを支援し培うことを目的として活動している、【タイム・カプセル・プロジェクト】のディレクター豊島藍を筆頭に、メンバーたちとコラボレーションして、アイデアを出し合って全く新しい『くるみ割り人形』をプロデュースしています。
ニューヨークのミュージカルスクールやアルビン・エイリー、ペリダンスなどを卒業した若手たちと、ニューヨーク・ダンス・アーティストリーに通う生徒たちも出演し、ミュージカルの要素を入れたセリフあり、バレエあり、ジャズダンス、モダンダンスあり、生演奏あり、パフォーマンスの最中には来場した子どもたちと共にダンスする参加型スタイルも盛り込んで、さまざまなジャンルが楽しめて、子どもも大人も飽きずに楽しめる工夫やサプライズな工夫を凝らし、ゲストダンサーにアメリカン・バレエ・シアターの隅谷健人も出演。来場した赤ちゃんから老若男女たちによりオリジナル『くるみ割り人形』を上演しました。

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Mami Hariyama, Kento Sumitani
© Miku Hirayama

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Time Capsule Project Dancers
Ryoka Matsumoto, Manatsu Aminaga, Rino Hisakawa, Tamaki Horibe, Isaki Ohkawa, Fuka Kojima
© Manish Chawhan

『くるみ割り人形』だけではなく、ニューヨークは街全体がホリデームードとなって、観光客もいっそう増えてとても賑わっています。
今年も残り少なくなってきました。また来年もアメリカン・バレエ・シアター、そしてニューヨーク・シティ・バレエをはじめ素晴らしいパフォーマンスがたくさん観られることを願って楽しみにしています。
(2024年11月29日 David H. Koch Theater)

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